ちいさいのはだめですか?
ユニバンス王国・西部街道
「馬の大行列だな」
「……」
カーブに差し掛かったので窓の外にそれが伺えた。馬がずらずらと並んでいる。
ポーラが恥ずかしそうに下を向いているのはまあ良い。
結局5頭も自分名義で買った妹様は、残る3頭をミネルバさん名義で購入した。8頭だ。
君は常に8頭引きの馬車でも常に乗る気なんですか? どの馬も可愛かった?
それが馬の魔力です。どれも可愛く見えるのです。
コロネに懐いていた馬も購入した。
その馬に関してはコロネ名義で給金から天引きすることになっている。『給金って?』と首を傾げるコロネにはポーラに説明を丸投げした。
この幼い暗殺者は全てを支給されていたから、お金という物も仕事に使用する支給品の一環だったらしい。流石に働けば給金を得ることは知っていたが、自分みたいな暗殺者が……とポーラに対して恐縮しきりだった。
別に我が家では前職の云々など気にしない。今ちゃんと働いてくれれば給金を支払う。ただコロネはまだ見習の見習いなので支払われる金額は微々たる物だ。
『よってしばらく借金生活だ。しっかり働け。出来ないなら体で払え。具体的には馬の世話を学んで毎日世話しなさい。良いですね?』と言い聞かせた。
ポーラの馬の世話する人も探さないといけないし……頑張れミネルバさん。
はい? ハルムント家のメイドを舐めるな? あそこのメイドなら馬の世話ぐらい出来るだろうけど、ハルムント家のメイドは高額で有名でしょう? ポーラの下で働けるなら無給でも良いと言っている人たちがいる?
今回雇い入れる人たちからその人たちは外すように。これ以上ポーララブな人たちが集まると厄介ですから。それとポーラの馬を世話する人は彼女のお小遣いの範囲でどうにか出来る人で宜しく。
話は纏まったが色々と問題も残った。
最終的に購入した馬の数は12頭になった。ノイエが3頭ほど選んで購入が決定した。
ぶっちゃけノイエが近づいて逃げなかった馬がその3頭だけだったとも言う。何でもナガトと母親が一緒だったりする血統らしい。
その血統はノイエを怖がらないのか?
マルフィさんに言ってその血統は確りと残すようにお願いしておいた。
馬車2台と馬12頭も引き連れた僕らの行列は途中で色々と買い物もしたので、下手な行商人よりも荷物を抱えている。やって来い賊の類と思いもするが、ドラグナイト家の紋章はこの国だと有名なので誰も喧嘩など売って来ない。
ノイエさんのストレスが溜まる前に発散させたいんですけどね。
「……お肉」
「もう少しで屋敷だからね」
「はい」
『借金……』と呟いているコロネを抱きしめているノイエの視線が僕の股間をロックオンしたままなんです。今日まで頑張って我慢してくれたが限界らしい。
きっと今夜僕は気絶するほどノイエに絞り尽くされるだろう。
「にいさま」
「はい?」
色々と書類の束を見つめていたポーラが顔を上げた。
君は良く酔わないね? 僕がそれを馬車の中ですると確実に酔うよ?
「ころねのしゃっきんへんさいがいまのけいさんだと……かるく10ねんほど」
「頑張れ」
「10年……」
コロネがノイエの腕の中でますます沈んだ。でもポーラは言いました。今の計算とね。
「君がさっさと見習いになり、一人前になれば給金が増えます。そうすれば10年もかかるまい?」
「はい。いちにんまえになればですけど」
それは指導者である君の手腕じゃないですかね?
「アルグ様」
「はい?」
ノイエが僕の一部分に向けていた視線を上げた。
「この小さい子とそっちの小さい子……どっちもまだ未熟」
「「……」」
コロネは『ですよね』としょんぼりするが、ポーラは目を見開いて絶望している。
ノイエに未熟と言われたことが余程ショックだったらしい。
「でもそっちの子は馬を買えた。どうして?」
「そういう意味か」
ノイエ的にはポーラの貯蓄額を知らないらしい。何よりお小遣いも知らないのだろう。
「ポーラはノイエの妹だからね。お小遣いと言う差が大きいんだよ」
「ならこの子も妹にしたら?」
「ノイエがその気なら止めないけど?」
暗殺者を妹にしようとしたら……コロネが暗殺者という事実が明るみになっていないからどうにかなるか?
問題はポーラと比べられると言う地獄の日々がコロネに訪れる。僕だったら絶対にグレるな。
「アルグ様の妹はダメ?」
首を傾げてノイエが質問して来た。
「あ~。養女だったら可能なんだけどね~」
ここが王族である僕の面倒臭い部分だ。
コロネを僕の妹にすると王族の一族になってしまう。それは色々と無理だ。
代わりに養女にすればドラグナイト家の娘と言うことになるので王族の類の面倒臭さは半減以下だ。
それでも色々と面倒なんだけどね。
僕の娘だと王位継承権は発生しない。ただドラグナイト家の相続権は発生する。ポーラはノイエの妹になっているので、コロネを娘にすると叔母に当たることになる。すると相続権はコロネの方が上になるわけだ。僕らの間に子供が出来ない限りは、何か発生すればコロネが次の当主だ。
「いやです!」
説明したらコロネが泣きながら拒絶して来た。だろうな。
そしてノイエさん。コロネを泣かしたと言いたげに僕を見ないでください。突然コロネを可愛がるようになって僕もビックリしていますよ。
「なら小さな子の娘にする」
「ねえさま?」
「斬新だな」
斜め上行くノイエさんだな。
「ポーラは未婚だから養女を取れません」
「なら結婚させる」
「ねえさま~」
顔を真っ赤にしてポーラが全力で恥ずかしがる。
だがポーラよ。ノイエは基本斜め上を行く女だぞ?
「その辺の馬でも」
「ねえさまっ!」
やっぱりね。
怒ったポーラがノイエに突進し、その攻撃をノイエはコロネの盾で防ぐ。
必死に義腕でポーラの攻撃を防ぐコロネだが、衝撃が傷に響くのか……ほぼ同時にノイエとポーラがじゃれるのを止めた。
「義腕を外して傷の様子を見ていて」
「はい。にいさま」
ポーラがコロネを回収して慣れた手つきで義腕を外す。
出血は無いらしいが……迷うことなくコロネの上半身を剥くな。妹よ。
ロリコンでは無いから興奮など覚えないがな。
「だいじょうぶです」
「そっか」
「にいさま」
「ん?」
「ちいさいのはだめですか?」
だからどうしてわざわざ体を退けてコロネの平らを見せて来る?
「未成年がダメなんです。いい加減覚えなさい。と言うか君は聞いたことを忘れない女でしょうが?」
「……」
静かに視線を逸らしたよ。
でノイエさん。コロネの平らを触って確認……何故そのまま手を彼女の股間に?
「アルグ様」
「はい?」
「無い」
「……」
君はコロネを男の子とでも思っていたのですか?
「おくさまっ!」
遂にコロネがキレた。
顔を真っ赤にして片腕で裸を隠しプンスコ怒り出す。
「怒るのはダメ」
でもノイエは手を伸ばしてコロネを捕まえると抱き寄せた。
「痛いが続く」
「もう痛くなんてっ」
強がろうとしたコロネ右肩のパーツをポーラが軽く叩いた。
あのパーツって肩の関節として付けられているヤツだよね? 叩くと痛いでしょう? ほらコロネが表情から血の気を失わせて震えているよ?
「ねえさまにくちごたえなんて」
「ポーラさん。もう少し優しくね?」
「しつけはさいしょがかんじんです」
誰の言葉だ?
昨日やって来た商会の用心棒を瞬殺した御者の言葉か? それともその師か? 叔母様の言葉なら仕方ない。本当に言いそうだしたぶん言っているだろう。
「だからって怪我人だからね。僕は怪我人をイジメるような人は嫌いです」
「……」
何とも言えない表情を見せ、ポーラは包帯を取り出すとそれをコロネの肩に巻く。後は氷を作り出して患部に当てて冷やし始めた。
「おねえさま。ありがとうございます」
「かんしゃするのはにいさまにです」
「……ありがとうございます」
態度にツンツンな部分があるけれどコロネは基本良い子っぽい。
そんなコロネをノイエがまたギュッと抱きしめた。
「胸はこれぐらいないとダメ」
「ねえさまっ!」
何故かひと言多くてポーラを怒らせているけれど。
~あとがき~
ちなみにルッテたちは2台目の馬車の御者席に居ます。
ミシュたちは一緒に帰らずまだ実家です。
コロネは養女をお断りしたので、これからはメイド道を爆走するでしょう!
© 2022 甲斐八雲
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