その体で遊ばせろ~

 ユニバンス王国・西部エバーヘッケ家



 ホリーの集中力が切れて来たので……お姉ちゃん。僕の腕を抱えて何処に行くの? 外? どうして? 屋敷の中だと色々と不安? 何が? 声が? 何の? 誰の? 僕の声が?


 ってこんな木々が茂る場所で声の心配って……お姉ちゃん? どうしてズボンに手を掛けるの? ねえ?


「だからこんな場所で~!」


 良く声が響いてしまった。




 スッキリしてから屋敷に戻ると、エバーヘッケ家の破産準備を進めていたポーラが頬をパンパンに膨らませて僕を睨んできた。コロネには僕を睨むなと教えている君が……あんな声を発して何をしていた? それは言えません。


 何が恐ろしいかって今のを給水感覚で済ませたホリーだと思う。謝礼は今度宝玉で外に出たら一日たっぷりと請求するって言われたんだぞ?

 こんなに恐ろしいことは無い。


「で、書類はできたの?」

「はい。いませんぱいが、さいしゅうかくにんをしています」


 言われて見ると、ミネルバさんが恐ろしい速度で書類を捲り内容を確認していた。

 ハルムント家のメイドは事務仕事も完璧らしい。本当に優秀なんだよな。武力高めだけど。

 飼い慣らすのは大変難しく……実際飼い慣らすことは不可能っぽいけど。


 ハルムント家印のメイドさんは、支配しようとはしてけない。どうにか懐柔して仲良くなるに限る。

 ウチの場合はポーラという存在が居るので問題無い。ミネルバさんはポーラに対して絶対服従っぽい。服従しているのに『先輩』と慕われている。そのギャップが内心で大興奮っぽい。この国の性癖はある意味で偏りが酷い気がする。


 ホリーから元に戻ったノイエが甘えて来るから、ソファーに座り膝の上に乗せて甘やかしていると、全てが終わったようだ。

 胸に書類を抱いたミシュママがパッと明るい笑みを見せた。


「これで破産できるわ~」

「何言ってるのよこの馬鹿親は~!」


 笑顔のままミシュママが横へスライドして行く。彼女を押し出しているのは……蹴り出しているのはミシュだ。ミシュのドロップキックだ。

 最終的に2人して床を転がり壁に当たり足を広げて下着を見せる。同じポーズで同じ下着の柄なのは偶然なのだろうか? この2人の場合はどこまでが仕込みか謎だ。


「ふむ。今日は美しい花柄か」

「年齢を考えると花柄って」

「何でも子供用の方が安く購入できると」


 それで良いのか? それなりの年齢だろう? ミシュは分からなくもないがママンの方はもう犯罪の領域だろう。容姿じゃなくて年齢的にアウトだ。


 フッと姿を現したマツバさんと一緒にミシュ親子を観察する。

 手助けなどしない。この2人がどんなリアクションを見せるのかが気になって仕方ない。


 放置してしばらく……ほぼ同時に動き出した親子は、床の上に女の子座りをしてパンパンとスカートの埃を払った。


「ジッと見つめられて濡れてしまったわ~」

「体の奥からトロトロよ」

「「だから」」


 ギラっと肉食系の視線がこっちを見る。


「「その体で遊ばせろ~」」


 助走無しで飛び込んで来る。流石変態だ。世の中の法則を無視して来る。

 だがそれ以上に法則を無視する存在が居る。ノイエだ。


 飛び込んできた2人の顔をワシッと掴んで動きを止めた。


「アルグ様」

「ん?」

「これは捨てて良いの?」

「うん。窓の外にでもポイしておいて」

「はい」


 黙ってポーラが開いた窓からポイポイっと変態が2人ほど投げ捨てられた。


 世の中に平和が戻った。




「本当に申し訳ございません」


 夕飯時となり現当主のマルフィさんが床に額を埋め付けそうな勢いで土下座して来る。

 土下座を知っているのではなく膝から崩れ落ちる勢いのまま頭を下げた感じだ。


「妻には後できつく、本当にきつく言っておきますので!」

「あ~。うん。無駄だと思うけど言っといてくれる」


 あの手の変態が周りの言葉を聞くとは思わない。きっと右から左だろう。


「本当に申し訳ございません」

「良いけどね」


 何よ変態慣れしている僕としては我慢できる範囲だ。

 ノイエの姉たちも癖が強いし、王都にはモミジさんという変態も居る。


 謝罪を受けマルフィさんには自分の椅子に戻って貰い……改めて夕飯をスタートする。


 ノイエさんだけは1人だけフライングでパクパクと唐揚げチックな肉料理を食べている。小麦粉はパンになってしまうが質の悪い物もあるので、それらを衣にして揚げる料理をノイエは好む。

 出入りの商人に胡椒のようなスパイスを求めて以来味が激変してノイエの好きな料理にノミネートして来た。


 肉の丸焼きより圧倒的に調理が楽なので出てくる回数は多い方だ。

 今回はスパイスと小麦と油を持参したので肉さえあればいくらでも揚げられる。量を確保できるのでミネルバさんが狂ったように揚げていた。


「で、破産する方向で話が進んでいるけど良いの?」

「それは……私が原因の一因ですし……」


 妻の暴れた理由を知ったマルフィさんは複雑な表情を見せる。


 そもそもこの家の借金メーカーは彼である。馬を愛するあまりに収入より出費を増やしてしまったのだ。それが原因でエバーヘッケ家は破産寸前ではなく破産するしか選択肢が無くなった。

 破産して商会の手が入れば今までのように馬を育てることは難しいだろう。何より出費が激しい。この問題を乗り越える方法は主に2つだ。収入を増やすか、出費を減らすかだ。


「マルフィさん。出費を減らすのは可能ですか?」

「可能だとは思います。ですが馬たちの安全を考えると……」


 本当に馬に優しくて自分たちに厳しい人たちだな。


「なら収入を増やしましょう」

「どうやって?」


 分かりやすい質問をありがとう。


「ポーラ」

「はい。にいさん」


 パチッと指を鳴らして我が家の優秀な妹に丸投げする。


「こちらをごらんください」


 マルフィさんに紙を手渡しポーラがプレゼンを開始した。

 現在エバーヘッケ家は馬を売って生計を立てている。収入を増やすのであれば馬が高く売れれば良いわけである。子供でも分かる。


「そこでにいさまがかんがえました」


 何も考えていないけど僕は何かを考え立案していたらしい。


 ポーラが言うには……僕はエバーヘッケ家を中心とした馬産地の馬を毎年すべて一括で預かるらしい。それを全て王都に運び貴族たちを相手にオークションを実施する。売り上げから経費などを差し引き売主に手渡す。


 貴族たちは『いくらの馬を買った』と自慢になるし、馬を育てた人たちは競り合えば合うほど収入が増える。完璧な解決法だ。


 問題を上げれば僕の手間が増えるぐらいか? その問題も解消している? 流石ポーラさん。我が家の優秀なメイドだ。


 それで何を企んでいる? ハルムント家から送り込まれるメイドたちに働いてもらう? それで良いのか? それはメイドの仕事か? ユニバンスのメイドとは主人の生活すべてを面倒見れて一人前? それってもうメイドの領域を逸脱しているでしょう? 叔母様が言うにはメイドとは、裏の当主に成れてようやく一人前だと。うん。納得したからそれで良いや。


 この案件は全てポーラに丸投げした。するとポーラは『しゅぎょうです』とコロネに丸投げした。斜め上な展開に顔を青くしたコロネは狼狽え、膝から崩れ落ちた。

 頑張れコロネ。君なら出来る。



 後は全てウチのメイドに任せて……僕ってこの家に何しに来たんだっけ?




~あとがき~


 破産は確定し今後について話し合う。

 まあ出費か減らせないなら収入を増やすしかない。

 問題はこの手の人たちって必ず出費を増やすんですよね。そこは…ハルムント印のメイドがドラグナイト家から派遣されることでしょう。


 で、主人公たちって何しに来てるんだっけ?




© 2022 甲斐八雲

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