根性の無いドラゴンが悪い

 ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室



 危ない物は出来る限り迅速に処理した方が良いと思うのです。

 そんな訳で手を叩いたら何故か叔母様がやって来たので、マツバさんが机の上に置いた書簡を陛下元へ送り届けて貰う。

 うん。面倒だから手続き無視で、何ならチビ姫に投げつけて今夜読んで貰っておいて。


 中身? 流石に知らないですってば。一応神聖国の封がされているっぽいし……と言うかその蝋封は本当に神聖国の物なの? 本物なんだ。何で知ってるの? 昔に仕事で行ったことがあると。それはどんな仕事で……はいはい。相手を逝かせるお仕事ですか。詳しい内容は聞かない方向で。


 本物だと言うなら陛下かチビ姫に渡しておいて下さい。所でウチのポーラは? こっちを見てください叔母様。ウチのポーラをどうした?


 無理なお願いよりも僕の問いかけに叔母様は、書簡を持って部屋を出て行った。

 普段使っている杖を脇に挟んでツカツカと速足で逃げて行ったよ。


「流石は我が友である。私があれを陛下に届けようとすれば色々と面倒だと言うのに」

「ん~。朝一だったらイネル君に手渡して強引に運ばせることも出来たんだけどね」


 こらこらクレア君。僕は君の上司ですから睨んでこないの。丸めた紙を投げて来るなって。

 旦那を庇う気持ちに免じて今日のケーキは無しで許してやるがな。


 そんなウチの縁の下の力持ち君は、毎朝各所を巡って書類を回収して来てくれる。その業務中に陛下の部屋に立ち寄るからちょっとした無茶が出来たりもする。

 それをさせられるイネル君的には『もう本当に許してください』とか何でも言われているが僕は気にしない。だって便利だしね。


「最悪は『弟っすから~』で強行しちゃうんだけど」


 一番手っ取り早くい方法がそれだ。

 もちろん弟だからってそう簡単にルール破りは出来ない。あくまで緊急回避的な……決まりが面倒だからとついつい使ってしまうのが僕の悪い所かもしれない。


「で、マツバさん。あれって本当に?」

「ああ。神聖国からの書簡だ。内容は流石に確認は出来ないがな」

「そうっすか~」


 詳しく聞けば戻ると同時にゲートの所で神聖国の使者が待ち構えていて書簡を預かったそうだ。

 使者たちがマツバさんに手紙を預けたのは、たぶんウチと神聖国との間に正式な国交が無いからかもしれない。

 僕の結婚式には特に何かを頂いた記憶も無いし、お兄様の就任式の時はお祝いの手紙ぐらい届いていたのかもしれない。詳しくは知らない。


 そんな国の書簡をどうしてマツバさんが預かったかと言うと、彼の故郷が属している王国を庇護しているのが神聖国なのだ。つまり保護者の保護者からの命令である。

 普段のマツバさんを知る僕からすれば意外だけど、実は仕事に関してはマツバさんは真面目だ。仕事だけは。


「ど~んです~」

「あら早い」


 チビ姫が隠し扉を押して姿を現した。


「おにーちゃんです~? あんな面倒な書簡を持って来たのは~です~?」


 ドレス姿の幼い少女……今日も元気な義理の姉であるチビ姫が怒った様子で無い胸を張って僕を睨んで来る。


「何ぞ問題でも?」

「発生です~」

「そうっすか」


 ならば仕方ない。頑張れお兄様。

 うんうんと悟った感じで頷く僕をスルーしてチビ姫は勝手にソファーに座り込む。


「手紙の内容は主に苦情です~」

「それで?」

「何でも神聖国は遥か昔にゲートの管理を召喚の魔女から任されたと言う過去があるらしく、今回の件を無許可で強行したユニバンスに対して怒り心頭みたいです~」


 メニュー表を手に取りチビ姫は勝手にケーキを注文し始めた。

 喫茶店感覚で僕の執務室に来てケーキを食する王妃ってどうなんでしょうか?


「ってそもそもそんな事実を知らないしな」


 その事実を知っている国々がどれ程居るのでしょうか?

 チラリとマツバさんを見たら彼も首を横に振っていた。


「です~。ウチとしてもそれを声を大にして言いたいところです~」


 これこれ。どうして複数のケーキをメイドさんに注文している。

 誰か~。このチビ姫天敵呼んで来てくれる?


 僕の目配せに何かを感じたらしい待機しているメイドさんが1人音も立てずに消えた。あれって背中とかのタグに『ハルムント』とか書かれていますかね?


「何か問題でも?」

「はいです~。ゲートを移設した人たちの話を聞きたいと神聖国が申しているのです~」

「無視しておけ」


 はい。一件落着。

 そもそも国交も無い遠い大陸の西に属する大国の命令などに従う謂れはない。無視だ無視だ。


「私もそう思ったです~。でもそれをした場合の報復行為も書かれていたです~」

「どうせ大した、」

「ゲートの使用停止です~」


 意外と大パンチな攻撃でした。


 それはかなり困る。我が国はノイエが狩ったドラゴンを売ることで生計を立てている。それを可能にしているのがゲートと言う存在だ。その肝を潰されたら、この国の経済は詰んでしまう。


「で、陛下は?」

「緊急に大臣を集めて会議を始めたです~」

「だろうね」


 こうなると間違いなく僕に厄介ごとが回って来る。間違いない。


「そうなると……」


 どうなる? うん簡単だ。今のうちに出来る限りのことをしておこう。


「クレア~」

「はい?」


 イネル君の一件で拗ねながら仕事をしていたお漏らし娘に声をかける。


「ちょっと明日からちょいちょい出かけるけど、上手いこと書類関係回しておいて」

「って行先ぐらい言ってから動いてくださいよ!」

「え~。面倒?」

「それはこっちの言葉ですから!」


 何故かクレアがプンスコ怒り出したよ。

 本当に心の狭い部下である。




 王都王城内・馬車乗り場



「……」

「お~よちよち」


 陛下たちの話し合いは長くなりそうなので僕はさっさと帰宅することとした。

 城を出て馬車乗り場へと向かうと私服姿のノイエが居た。時間的には午後3時ぐらいだけどノイエがここに居るということはそれが全てだ。


 優しく抱きしめて頭を撫でてやる。


「根性の無いドラゴンが悪い」

「はい」

「雨が降ったぐらいで休むだなんて酷い奴らだ」

「はい」


 スリスリと甘えて来るノイエが可愛い。


 雨期が来てそれを察したドラゴンたちがどこかに引っ込んでしまったのだ。

 多くは洞窟に身を隠したり、土に穴を掘ったりして姿を隠すとか……ドラゴン語るモードに突入したノイエが言ってたな。


 ただその多くが推測であり、本当は何処に隠れているのかを調査した人はいない。

 出会ったらパクっとされて人生が終わってしまう相手だからな。僕も学者肌では無いので調査したりしない。


「アルグ様」

「はい」

「……」


 ノイエの無表情な目がジッと僕を見つめている。

 ただその瞳の奥に見えるのは……何かを求めている? 何をだ? ノイエは今何を求めている? 落ち着いて考えろ。必ずヒントはあるはずだ。現状ノイエが僕に甘えている。スリスリしていて……昨日の僕だな。つまりノイエは僕に求めているのはそう言うことか。


「ノイエ」

「はい」

「ポーラを回収して帰ろうね」

「む」


 軽くノイエが頬を膨らませた。落ち着き給えよノイエさん。


「まだ明るいし昨日のことでまだ疲れているから」

「……」

「だから屋敷に戻って休んでからね」

「はい」


 フリフリとアホ毛を揺らしてノイエが増々甘えて来る。

 満点回答ではないが、僕の体を考えればこれ以上の解答は出来ない。


 ぶっちゃけよう。死んでしまう。ノイエと違ってこっちには便利祝福はない。

 朝に比べればはるかに体の調子は良くなったが、でも芯の部分に疲労を感じる。

 肉体よりも精神的に疲労が……色々と存分に吐き出して精神疲労は無いんですけどね。むしろ最後は貪られて怖くなるぐらいなんですけどね。


 このまま死ぬまで搾られるんじゃないかって。


「アルグ様」

「はい?」


 馬車に乗ろうとしたらノイエが僕をジッと見ている。


「今夜は1回」

「ノイエ~」


 流石ウチのお嫁さんです。旦那様の気持ちをよく理解しています。




~あとがき~


 雨が降り出してドラゴンたちが姿を隠しだしました。

 こうなるとノイエのお仕事は開店休業です。ですが新しい問題が。


 神聖国は召喚の魔女からゲートの管理を任せれているらしい。

 へ~そうなんだ。作者も知らなかったよw




© 2022 甲斐八雲

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