極上で美味でした!
ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室
「あれ? エウリンカは?」
「……」
これこれ妹様。お兄ちゃんの発言を無視しないの。
不機嫌そうに砕いた氷を窓の外へと投げ捨てていたポーラの正面に回り込む。
完全に頬を膨らませて……可愛いんだから。このこの。
「ふんです」
「ポーラ~?」
「しりません」
少しの間ポーラの膨らんだ頬を指でツンツンしていたら、怒ってポカポカと僕の胸を叩きだした。
「それでエウリンカは?」
「きがえをかいにいきました」
「着替え?」
何故かまたポーラが叩いて来るのです。あはは。本当に可愛い妹だな。
「にいさまがむねの」
ゾクッとするような声を発して妹様が叩いて来るのです。
ちょっと待ってポーラ。突然一撃が重くなったんだけど? それにどうしてピンポイントで僕の心臓を狙っているの?
慌ててその小さな腕を掴んで叩くのを止めさせる。
「やっぱりむねなんですか?」
「決して違うとだけ言っておきましょう」
「……」
そんなおどろおどろしい目でお兄ちゃんを見ない。
両手でポーラの顔を、特に目つきを穏やかなものへと矯正する。
「にいさま?」
「はい笑って~」
「……」
一生懸命笑わせているのにポーラの表情は硬いままなのです。どうして?
「アルグスタ様?」
新たなるおどろおどろしい声が?
振り返ると書類の山に埋まっているクレアが死人のような顔色を見せる。
うむ。股間を押さえた父親に抱き着かれるという貴重な体験をした娘が元気なわけないか。
「で、何かね?」
「仕事してください」
「あ~。今日はもう終わり」
「へっ?」
青い顔したクレアが間の抜けた顔をする。
だがこれは決定事項なのだよ。もう疲れた。
「今日はお終い。お前も切りが良い所で帰って良いぞ~」
「……誰かのせいで、今日の仕事が今からなんですけど?」
「うむ。知っている。だからこそ言おう。仕事なんて明日に回しても良いじゃないか~」
「そうすると明日が辛くなるんです!」
「なら明後日がある」
「あ~も~!」
わしゃわしゃと髪を掻いてクレアが頭を抱えた。
「もう嫌だ。嫌だよ~」
マジで泣き出した。
仕方ない。今日に関しては本当に僕が原因だしな。
「全く仕事をしない上司のせいで仕事は溜まる一方なのに~!」
前言撤回。この小娘……普段からそんな風に僕のことを思っていたのか?
「にいさま。だめです」
「手を放せポーラ。あの小娘に天誅を」
ハリセンを呼び出し腕まくりをする僕にポーラが抱き着いて制して来る。
邪魔をしないでくれポーラよ。あの馬鹿に一撃を入れるだけだから。
「もうこんな職場嫌~!」
「にいさまがわるいです」
しくしくと泣くクレアにポーラが何故か同情的だ。
何故に僕が悪役扱いなのか問いたい。
「にいさま」
「はい」
「もうすこしクレアさんにやさしくです」
「だがな~」
「にいさま?」
「へいへい。分かりました」
そこまで言うならば仕方ない。
「クレア~」
「……」
無言で泣き虫がこっちを見つめて来る。
「もう何日か我慢しなさい。そうすれば救われるでしょう」
「私は今救われた~い」
「あはは~。頑張れ若人よ~」
ポーラを抱え上げてそのまま逃げだす。
「アルグスタ様~!」
僕の執務室の方からクレアの断末魔が……頑張れ若人よ。今頑張ればそのうち何か起きるさ。
王都内・商業区
勢いで帰ろうとしたらポーラにストップをかけられた。
我が家の愛馬ナガトはポーラの味方なので、彼女が『服屋さんに』と言うだけで勝手に歩きだす。服屋と言うことはホリーの姉コリーさんたちが居るお店だ。オーナーは僕だが、ぶっちゃけあの姉弟のお店だと思っている。売り上げは大半寄付しているしね。
ゴトゴトと馬車の中で揺られながら向かうと……ヤバい睡魔が。
クロールでバシャバシャと泳ぎながら睡魔の奴が……だが僕は負けん。これぐらいのことで屈する僕と思ったか!
王都郊外・北側街道
「はっ!」
おかしい。気づいたら目を閉じていた。
「はぁ?」
そしておかしい。視界に藍色の山が邪魔をする。横からボヨ~ンと。
「起きたか」
「エウリンカ?」
「そうだが?」
どうやら山はエウリンカの胸だった。
つまり今の僕は……うん。この感触は人の足だね。太ももだね。
「ごめん。寝てた?」
「ああ。ぐっすりと」
「そかそか」
それは悪いことをした。
体を起こそうとしたらガタっと馬車が揺れ、そのまま藍色の山に頬から突っ込む。
本当に素晴らしい弾力だ。そしてボリュームだ。
「重ねてごめん」
「問題無い」
あれ? いつもなら怒るのにどうした?
エウリンカの胸から顔を離して彼女の隣に座る。
若干硬い感じのする服だと思ったら……どこで発掘した?
「似合わないか?」
「似合わないと言うか……」
「古い時代の作業着と店の人に言われたが?」
コリーさん。何処でこんな服をゲットした?
自作はないだろうからたぶん持ち込まれた古着のはずだ。
改めて見ると似合っているというか、美人は何を着ても美人補正で美しくなるという典型か?
彼女の服装はデニムのオーバーオールと白シャツだ。
作業服っぽく見えなくも無いが……そう言われてから見ると発明に没頭するアメリカ映画に出て来そうな女性の格好に見えなくもない。
「似合っているとは思うよ」
「そうか。良かった」
ポンと胸の前で手を打ってエウリンカが喜び出す。
だから美人の笑顔とかはズルいと思います。
「これ以外にも色々と買ったんだ」
「へ~」
「でもこれが一番着やすくてね。似合っていないと言われたらどうしようかと」
「あはは。エウリンカは見た目だけはすっごい美人だから何を着ても大丈夫。似合うと思うよ」
「……そうか。美人か」
何故かエウリンカが照れてその顔を馬車の窓へと向ける。
釣られて視線を動かすと……何故かポーラが窓ガラス越しに肩を竦めて顔を左右に振っていた。
どうしてウチの妹様が呆れているのだ? 僕が何をした?
質問しようとした矢先、窓の外には見覚えのある。ウチの屋敷の傍だね。
王都郊外・ドラグナイト邸
実はまだ夕方にもなっていない。ので夕飯にもお風呂にも時間にもまだまだな状況だ。
ポーラは呆れながらメイドとしての仕事に移り、僕は……仕方ないので夫婦寝室へ。
軽く仮眠を取ってノイエが帰宅したら一緒にご飯食べてと。そんな風に考えながらベッドに飛び込んで……何故か隣に同じような衝撃が?
「はい?」
「何か?」
何故かエウリンカが横に居た。
「何しているの?」
「うむ。分かっている」
「何が?」
君が何かを分かっていても僕には全く分からないのです。
ですがエウリンカはオーバーオールの肩の部分に手をかけると自分の腕を引き抜いた。
「はい?」
そして無言でベッドに横になる。
「エウリンカ?」
「分かっている。分かっている」
「だから何が?」
何故か彼女は頬を赤くして視線を僕から背けた。
寝っ転がっているエウリンカは片膝を立てて……とてもエロい。
シャツのボタンが、胸の辺りが弾けそうでエロさ倍増だ。
「自分はファシーやノイエのようには出来ない」
「はぁ」
「だが君が“家族”と呼ぶ以上……ちゃんと相応しく振る舞わないといけないことは分かっている」
「はあ?」
「分かっている。だから……」
チラリとエウリンカが僕を見て、また顔を真っ赤にさせて視線を逸らした。
「君に全てを委ねたい。自分が求めるのは……優しくしてくれることだけだ。それだけで良い」
「えっと~」
この人は何を言っているのでしょうか? 家族? 確かにエウリンカはノイエの家族です。僕はそう認識しています。
「これ以上語らせないで欲しい」
増々赤くなったエウリンカが、意を決して自分のシャツのボタンに手を伸ばした。
プチプチとボタンが外され……解放された大きなモノを包むブラが飛び出して来る。
「……優しくさえしてくれれば好きにして良いから」
つまりこれは据え膳というモノですか?
落ち着け僕。相手はエウリンカだぞ? うん。でももう1回してるね。勢いに任せて1回したよね? で、その時の味は? 極上で美味でした!
「本当に君の好きで良いから」
「……」
ここまで言われて食べない方がおかしい。
味を知らなければスルーできるが、僕はこの味を知っている。
つまり……いただきます!
~あとがき~
エウリンカの衣装はかなり悩みましたw
ドレスとかメイド服とかじゃなくて作業着っぽい感じが良いな~と思っていたら、オーバーオールが舞い降りてきました。
エウリンカが止まらず、そして主人公は据え膳を食う男です。
まだノイエが帰宅していないから…このことに気づいているのは歌姫さんだけですが…。
たぶん次で今章ラストのはず。きっとラストのはず
© 2022 甲斐八雲
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