これへのお触りは厳禁だ
ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室
「ソンナコトハアリエナイ! アリエナイ!」
魔剣スキーさんが壊れたように自分の頭を床に叩きつけている。
股間を押さえていたエロ親父はその手をエウリンカに伸ばしてきたので追撃だ。
足を伸ばして再度股間に爪先をお見舞いしておく。
「触れるなって」
「お前という者はっ! むほっ!」
前のめりで倒れたエロ親父の断末魔など僕の耳には届きません。
「ウチのエウリンカに気安く手を出すな。これへのお触りは厳禁だ。触れて良いのはウチの家族だけだから」
「……」
背後から声がしたがポーラかな?
お兄さんはちゃんとノイエの姉を守る男だと今夜お嫁さんにそう報告しても良いんだからね!
「で、エウリンカ? 大丈夫か?」
「ひゃいっ!」
また顔を真っ赤にしたエウリンカが奇声を発した。この変態本当に落ち着きがない。
ただ顔が赤いのは……少し氷で遊び過ぎたか? それが原因か? 女性に冷たい物は良くないと誰かが言っていたような気がする。
「その収納の魔剣って?」
「……」
その問いを無視してエウリンカは俯くと呼吸を整えた。
「あれは偶然の産物で完成した魔剣だ。と言うか剣ですらない」
「はい?」
顔を上げてエウリンカが僕を見る。
「とにかく小さくて強力な魔剣を作ろうと……漠然と考えながら、ついでにノイエに施した実験を参考に自分の髪に。結果として出来たのが収納の魔剣だ」
言って彼女は自分の長く黒い髪を右手で掬う。
「丁度後頭部の辺りに小指の先ほどの魔剣が存在している。それに他の魔剣を押し込んでいるのだ。まあ魔剣と言うよりも鞘として自分は捉えているが」
「なるほどね」
納得した。
「それでノイエの夫よ」
「はい?」
何故かキラキラとした目でエウリンカが僕を見つめる。
「自分は君の家族なのだろうか?」
「あ~」
さっきの発言か。
「まあ、そうだね」
「……そうか」
うおっ! 微笑んだエウリンカとかレア度高いんですけど。
何より造形だけはずば抜けているので美人なんですよね。それが微笑むとかマジで綺麗だわ。
僕の言葉に間違いは無いな。エウリンカはノイエに姉認定されたわけだから、ノイエの姉は僕の家族理論が適用されるのです。
つまりエウリンカは家族。家族か……また変な人が増えたよ。
『家族。家族……』と呟いているエウリンカをスルーしておく。
「収納の魔剣は取り外しが無理っぽいんで、本日はその大剣と実演で作った魔剣の2本を提供します。こちらが引き渡す条件としては先にエウリンカが提示した物を引き換えですね。あといくらか金品を頂ければと」
更なる魔剣を求められると面倒なのでここらで一度話を纏めようと思う。
「実演で作った魔剣は王家で引き取る。材料はこちらが提供した物だしな。金品は……作成料として後日話し合いで決めたいのだが?」
陛下がそう告げてエウリンカが作った魔剣を早々に確保した。
馬鹿兄貴までもが守護に回っているので誰も手出しが出来ない。
まあ良い。確かにお兄様が言う通りだ。ただしここで念を押しておかないと。
「あ~。これはまたあの馬鹿従姉の所に戻るので、追加の製造とか期待しないでくださいよ?」
僕経由でエウリンカに頼めば魔剣が作れるとか思われると面倒だ。
そう思い込んで馬鹿な貴族たちが殺到して来るのは正直避けたい。アイルローゼの時に嫌というほど嫌な目に遭ったしな。
「そうか。それは実に辛い所だが……どうしてもか?」
「でしたら今度あの馬鹿を呼び寄せるので陛下が直接交渉してください。僕は立ち合いません。嫌です」
はっきりと拒絶しておく。あの馬鹿の顔を見ると全力で殴りたくなるしな。
「……実を言うと私もどうもグローディアは苦手でな」
陛下が渋い表情でそんなことを言い出した。身も蓋も無いな。
「ハーフレン」
「お断りします陛下」
丸投げしようとした陛下の言葉を馬鹿兄貴も拒絶した。
凄いぞグローディア。皆に嫌われている君ってば最高だよ!
「まあ良い。その件に関しても後日だ」
嫌な含みのある発言をして陛下がこの場をお開きにしてくれた。
「にいさま」
「はい?」
陛下と馬鹿兄貴が出て行ってからポーラが僕の元へと歩いて来た。
何故かその表情は拗ねたような怒ったような……何故に不満顔なのか僕が問いたい。
「やさしいにいさまはすきです。だいすきです」
念を押しつつ告白して来ないの。妹よ。
「でもあれはだめです。かんちがいします」
「はい?」
首を傾げる僕の足を叩いてポーラは部屋に置いた氷の片づけに向かう。
勘違いって何のことでしょうか?
首を傾げ視線を動かすと熱っぽい視線で僕を見るエウリンカと目が合った。
「風邪か?」
「ふえっ?」
何故に驚く。何故に辺りを見渡す。お前だお前。そんなに顔を真っ赤にして。
「氷で冷えたか?」
「……大丈夫だ」
「本当に?」
本人がそう言うなら良いんだけどね。
「ああ。むしろ熱いぐらいで、あ~熱い。熱いな~」
変な声を出してエウリンカが首元のシャツを引っ張って空気を服の中に送り込む。
ちょっと待て。どうしてそうなった?
「エウリンカ」
「何かな~?」
だから変な声を出すな。
「怒らず聞いて欲しい」
「……ああ」
「その~」
そっと相手の耳元に唇を寄せたら、ビクッとエウリンカが全身を震わせた。
「さっきの魔剣の実演で君のブラの紐を切ったみたいでね。ごめん」
周りに聞かれるのは宜しくないのでこっそりと彼女に伝えたら、何故かエウリンカは目を閉じて小刻みに震えていた。
何をしている変態よ? 頭は大丈夫か?
「そっそうか」
『あはは』と笑いながらエウリンカが頭を掻く。何かを誤魔化すようにだ。
「まあ斬れたのは仕方ない。事故だしな事故。うん」
「……」
変な笑い方をしている変人が心配になって来たんですけど?
僕の視線に気づいたエウリンカが軽く咳払いをした。
「大丈夫だ。問題無い。君ならその……別に構わない」
「そうっすか」
相手が怒っていないと言うなら問題は無いはずだ。
なら後は片づけをして……ノイエの進捗状況はどうかな?
今日は急な話し合いとかで疲れた。
帰宅してお風呂して……そもそも寝不足なのが宜しくない。帰って寝たい。
「うん。問題無い」
帰宅の方向で考え始めた僕にエウリンカの声が届いた。
振り返ろうとしたらポーラが僕を見て……その魔剣スキーとエロ親父は、他のメイドさんに頼んで捨てて来て貰いなさい。ポーラが触れたら絶対にダメです。
「自分は“君”の家族なのだから……」
ん? 何か聞こえた気がしたが、ミネルバさん。エロ親父がポーラに魔の手を。迎え撃つことを許します。退治してからフレアさんに亡骸を引き渡してあげて!
あっクレア。丁度良い所に。その変態を……どうしてム〇クな叫び?
「何をされても構わない」
マジか~! 実の娘に抱き着くとは! この節操無しを退治せよ!
ん? 何かエウリンカの声が聞こえたような……気のせいか。
「私思うのよファシー」
「な、に? かあ、さん」
「どうしてあんなにも人って変わるのかしら?」
抱く相手が自分の顔を見つめている気配を感じながらセシリーンは優しく我が子の背を撫でた。
愛しい我が子同然のファシーであるが、同時に大切な盾でもある。
こうもホリーとアイルローゼが不機嫌な状態で、挙句に彼がやらかしたミスを2人が知ろうものならばと考えると……絶対に手放せない。
この子は私の子だと言わんばかりにセシリーンは抱きしめる。
現に何も知らずにまた再挑戦に来たグローディアを不機嫌極まりないアイルローゼが迎え撃っている。言葉の刃でそこまでするのかと言いたくなるほど切り刻んで……これはまた確実に王女様は逃げ帰ってから膝を抱いて涙するだろう。
けれどグローディアの凄い所は挫けない所だ。復活し挑んで来る。
「魔女なんて大っ嫌いよ~!」
ただ復活する前に絶望のどん底には突き落とされる。
論破されたグローディアが泣きながら駆けだして行った。
「アイル?」
「あん?」
恐ろしい気配を感じ歌姫は我が子を盾にする。
本当に恐れを知らない我が子は……首を傾げてそろそろ散歩に行きたがっているが、全力で阻止だ。抱きしめ直して必要ならばと胸を晒して好きなだけ吸わせる。
「……何してるのよ?」
「はっ!」
我が子を逃さない方を優先するあまり魔女から冷めた声が聞こえて来た。
「少しグローディアをイジメすぎじゃ?」
「良いのよ」
『ふんっ』と鼻を鳴らして魔女は不機嫌そうな声を発する。
「あれはどれほど踏まれても立ち上がるから」
「だからって」
「それに……」
相手の座り込む音をセシリーンは耳にした。
「才能の無い馬鹿だったら相手になんてしないわよ」
「……そうね」
それが魔女だ。術式の魔女アイルローゼだ。
「ねえ?」
「なに?」
「もしただの馬鹿が目の前に居たら?」
「決まっているでしょう?」
冷ややかな声に歌姫は唾を飲む。
「見捨てるか斬り捨てるか、よ」
「へ~」
告げる魔女にセシリーンは言いたかった。
彼がまた馬鹿をして……と、その全てをだ。
だが言えない。言えば間違いなく大変なことになる。
それが分かっているのだが、問題は……その時が差し迫っているということだ。
~あとがき~
『エウリンカはノイエの家族』
そう言えれば良かったんですけどね。
気を付けないと地雷になる言葉ってありますよね?
主人公はいつものノリで言ったのですが、エウリンカからすると…あはははは~。
セシリーンはそれに気づいています。彼が地雷を踏み抜いたという事実を。
今章もあと少し。
エウリンカで遊んだら次は伝説の変態村…サツキ家の実家に遊びに行きます。
大陸西部です。つまり神聖国編へと転がり落ちて行きます。
シリアスさんは大陸西部には居ません。居るのはギャグさんとコメディさんとエロスさんたちだけです。はい。一気に転がり落ちてのたうち回ります。たぶん作者がw
主人公がツッコミキャラだということを思い出してくれることでしょう。たぶん
© 2022 甲斐八雲
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