これは世には出せない物だな
ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室
「あり得ない! まさか……4つの魔法を封じ込めるなんて可能なのか? だがここに存在している。つまりは可能。可能なのか。夢にも思わなかった。噂では共和国に4つの魔法が封じられた魔剣が存在していると聞くがあくまで噂だった。でも事実だったらしい。ここにその現物が存在するのだから!」
魔剣スキーな魔法使いさんの大絶叫が止まらない。
それに付き合っている陛下たちは……仕事をしなくても良いんですか? これが仕事? 今日の予定は全てキャンセルしたと。良いんですけどね。
ただそろそろ僕の執務室から出て行っていただけませんか? 無理。ダメ。何故に? 完璧に通路を封鎖して人が近づけなくなるようにしているから、移動すると色々と面倒臭い。
でもウチのノイエのように窓から来るのもいますが? それは論外? 空を飛ぶのは想定していないと。
「この魔剣は是非とも魔法学院に寄贈して欲しい。これを研究すればユニバンス王国の魔剣技術は飛躍的に発展するはずだ!」
それは凄いが思わず聞きたくなった。
「それって何年後?」
僕の問いに力説していた魔法使いが凍り付いた。
「まさか数年後とかですか?」
追い打ちと言うなかれ。好奇心だ。
「……数十年後かもしれない」
魔法使いの言葉に寄贈の方は却下となった。
ただそれはエウリンカの持ち物ですから勝手に売買はしないでください。エウリンカだってその魔剣を手放すとは言っていませんしね。えっ要らないの? あの程度ならその辺の材料で適当に作れる? 材料なの? 材料さえあれば適当であんなのが作れるの?
「キリキリ吐けや」
「くっ」
縄で上半身を拘束されたエウリンカが、悔しそうな表情を浮かべている。
ノイエ召喚からの拘束で怒れる変態を確保した。僕の対応は完璧だ。
何も理解していないノイエは仕事に戻り……エウリンカと彼女が取り出した魔剣だけが残った。
で、それを見つけた陛下たち御一同が騒ぎ出した。
国宝を飛び越えたレベルの魔剣らしい。
これを前にしたらユニバンスの国宝指定されている魔剣など児戯らしい。
酷い話もあったもんだ。過去の職人さんたちに土下座しろと言いたい。
「過去の研鑽があって自分の魔剣は存在するのだ」
「その場のノリで作っている奴が何を言う?」
「止めろ。背中に氷は……ひやん。止めて。冷たい」
女性っぽく甘い声を上げてエウリンカが悶える。
人口密度が増えたおかげで室内の温度が大変なことに。
こんな時はポーラの出番だ。彼女の祝福と魔法は氷に特化している。と言うか祝福を生かすために氷に特化したらしい。
おかげでいくらでも氷を準備できる。部屋の隅に氷柱を置いて冷房の代用品とする。
ソファーに座って焼き菓子を食べているポーラに世話をしているミネルバさんがうっとりとしている。
あの人最近はポーラを愛でるのを隠そうとしなくなって来たな。大丈夫か?
「で、あれを手放す理由は?」
「……重いから」
「納得だよ」
「だから胸元に氷はっ! いやっ! 挟まって冷たいっ!」
どこに何が挟まったのかは知らない。と言うか挟まるようにコントロールして入れたから僕の技術の完璧さが浮き彫りになっただけか。
改めて現在吟味されている魔剣は大剣と呼ばれる類だ。とにかく大きい。
あんなのを振り回せるのは馬鹿兄貴ぐらいか?
「重たい剣を出すとかエウリンカって馬鹿なのか?」
「……違う。残っている魔剣があれぐらいなんだ。材料も乏しいし」
「そうなの?」
「ああ。ノイエの、」
「氷をどうぞっ!」
「あがっ」
危ない発言をしそうになったエウリンカの口に氷を押し込んで黙らせる。
相手の首をヘッドロックしてその耳に唇を寄せた。
「余計なことは言うな。あの場所のことは言うな。無難な会話に徹しろ。出来ないと言うならお前の命日が今日になるぞ? アイルローゼとグローディアが敵に回るからな? 分かったか?」
コクコクと頷くエウリンカは僕の言葉を理解してくれたのだろう。
氷を噛み砕いて……彼女はしばらく考えた。
「あの場所は魔力に関係した材料しか得られない。おかげで攻撃よりも補助的な魔剣しか作れない」
「具体的には?」
「体力回復の魔剣とか魔力回復の魔剣とかかだ」
大剣を囲っていた一同の視線がこっちを見た。
ギラギラとした恐ろしい目なのですが?
「今何と言った? 魔力回復の魔剣と? そんな物が……あり得ない。自分の常識が崩れていく~!」
魔剣スキーさんが頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
変態を相手にすると常識が根底から崩れるらしい。少しは反省しなさいエウリンカ。
「その魔剣の実物はあるのか?」
目を爛々とさせたケインズの親父が迫って来る。
流石にその様子が恐ろしすぎて……ええい。エウリンカが怖がっているだろうが。このエロ親父が!
彼女の前に立ってエロ親父の盾となってやる。
「退いてくれアルグスタ。私はそれが、魔力回復の魔剣が最も欲しいのだ!」
エロ親父の進撃が止まらない。
必死に抗うが……まさか強化系の魔法か? 相手の押しが半端無いんですけど?
「ポーラ!」
「はい」
スッとエロ親父の背後に移動したポーラが何かをした。
ビクッと全身を震わせたケインズさんが膝から崩れ……股間を押さえて震えている。
ポーラさん。背後から何をした? その銀色の棒はちょいちょい手にしているよね?
「まさか!」
「うおっ!」
僕の背後からエウリンカの声が。
振り返ると彼女は何故かポーラが持つ銀色の棒を凝視していた。
「そうか。硬化と軟化を併せ持つ性能を待たせれば……面白い。それがノイエの魔剣の……もがっ」
「黙れ馬鹿者。次に口を滑らせたらお前の穴と言う穴に氷柱を突っ込んでから永遠に凍らせてやる。分かったら頷け」
全力でエウリンカが頷いた。
それを確認してから僕は彼女の頭の後ろに手を伸ばす。
さっきこの辺から魔剣を取り出していたよな? 四次元的なあれは……存在していない。いてっ。
チクッとしたから手を引っ込めると、人差し指の先端に血の泡が出来ていた。
軽く切れたっぽい。
「ガリガリ……危ないから勝手に漁らないで欲しい」
「ならどこに魔剣を隠している?」
「決まっている。魔剣の中に……氷はもう止めてっ!」
大変女性っぽい悲鳴を上げてエウリンカが頭を下げて来る。
「拘束を解いてくれれば取り出す。だから氷は」
「暴れない?」
「誓う。ノイエに誓う」
「ならば良し」
上半身を拘束している縄を解いて……やっぱ不安だから右手だけな。
実は左利きとか言わないよね? 両利きなんだ。アイルローゼも両利きなんだよね。天才と変人は両利きなのかな?
自由を得たエウリンカの右手が、また後頭部の辺りの髪の毛の中に差し込まれる。と、一本の剣が出て来た。
良く見るごく普通の形をした『鋳型で作られたの?』と言いたくなるほどポピュラーな両刃の剣だ。RPGとかだとブロードソードとか呼ばれる類の物だね。
「これだ」
「ふむ」
エウリンカから受け取って確認する。
軽く魔力を流してみるけど変化は無い。騙したな?
「騙してなどいない。それは普通の魔剣と使い方が違う」
必死な感じでエウリンカが言い訳をする。
「それは魔力を回復したい者に突き刺して使用するんだ」
「「……」」
胸を張ってそう告げたエウリンカを僕ら以外の人たちが何とも言えない目で見つめる。
ただし僕だけは理解した。これは間違いなく魔眼の中でのみ使用することを前提とした魔剣だ。魔眼の中ならどんな怪我でも回復する。
「つまりその魔剣は対象者に突き刺すと?」
代表して陛下が質問して来た。
「そうなりますね」
エウリンカは口を滑らせやすいから代わりに僕が答える。
「たぶんこうして相手に突き刺し」
「んんっ!」
エウリンカの脇に魔剣を突っ込んだら何故か彼女が両眼を見開いた。
案ずるな。斬ってはいない。ちょっと服を擦ったぐらいだ。
「で、放っておくと魔力が回復するみたいな? そんな感じで良いのか? エウリンカ?」
「……ああ」
不思議と顔を真っ赤にしたエウリンカが頷いて寄こした。
「だからノイエに使うなら問題無いでしょうけど、普通の人に使うには危険が生じますね」
「なるほど。あくまで対象者はノイエと言うことか」
軽く誘導したら陛下たちはそっちの方に思考を向けた。
この国で怪我に強い人物と言えば筆頭がノイエだ。彼女ならこの魔剣を突き入れられても動き続ける。
「これは世には出せない物だな」
「ええ陛下。効果だけを知った馬鹿共が騒いで確認の為にと……なんてことが起きようものなら厄介です」
お兄様と馬鹿兄貴がそう結論を出し、僕に視線を向けて来てからエウリンカへと視線を移した。
つまり隠せと言うことだろう。
「エウリンカ。頭に突っ込めば良い?」
「死ぬ! 死んでしまうから大人しく渡して欲しい」
まだ頬を赤くしているエウリンカに魔剣を渡すと、彼女はそれを慣れた手つきで髪の中に戻した。
どうなっているのその髪の毛? 実はカツラですか?
「失礼だな。さっきも言った通り魔剣だ」
「何の?」
「収納の魔剣だ」
ザワッと本日一番のざわめきが。
~あとがき~
その昔…当時の魔法学院の学院長はエウリンカの魔法を見てこう思った。
『あっこれは世に出しちゃいけない類の存在だ』と。理由は魔法で魔剣を作り出せるという部分もそうですが、あっさりと不可能とされている物を作り出しちゃう恐ろしさの方が目だったので。
だから学院の近くで隠し部屋を作り囲っていたのです。
で、エウリンカは収納の魔剣を所持しています。
詳しい内容は…次回の本編で!
© 2022 甲斐八雲
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