こんやはほねつきです

 ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸



 ノイエはアホ毛を軽く振るわせながら歩いていた。

 土を固く踏み固めたような道を真っすぐにだ。


 今日はいつものようにドラゴンを殴っていたらお城から彼の声がした。

『ノイエ~。先に帰るからね~』だ。で、本当に彼は帰っていた。


 ドラゴン退治も終わったし彼の元へと思い走って行ったら……お城に彼は居なかった。無駄足だ。たぶんこれが無駄足だ。どうして居ないと思えば『帰る』と言っていた。思い出した。それをもっと早く思い出せていれば、わざわざお城まで行かなくても良かったのに。遠回りした。


 次はお城から屋敷に駆けて行こうとしたら怒られた。鎧を着た人たちが全員して『走らないで~』と叫んで来た。理由は分からないがそう言われたら走れない。

 だから歩く。今日はのんびり歩く。そう決めた。


 せめて真っすぐ歩く。


 屋根の上を歩いてたら下の方から声がしたが、走っていないから怒られないはずだ。たぶん他の人だ。

 真っすぐ歩いて壁を越えて今日はのんびりだ。のんびり行く。のんびり歩く。どうしてのんびり? 歩くのは好き。歩いてお腹が減ればご飯が美味しい。今日はお肉が良い。


 口の中をお肉一色にし、ノイエは真っすぐ歩く。


 途中で石を拾っては全力で投げて……命中した。でも仕事は終わっている。だからあれはあのままだ。

 ドラゴンの死体は回収せずノイエは屋敷へと向かった。


「ねえさま」

「ただいま」

「おかえりなさいませ」


 屋敷の玄関で掃除をしていた小さな子に声をかけ、ノイエは妹と一緒に屋敷へと入る。


「アルグ様は?」

「……おへやです」

「はい」


 何故か小さな子が『けっ』と言っていたが理由は分からない。

 まずはご飯だ。歩いて来たから美味しいはずだ。


「お肉」

「こんやはほねつきです」

「……」

「ねえさまっ」


 突如として早く歩きだしたノイエは真っすぐ食堂へと向かう。


 骨は大切だ。とてもご馳走な感じがする。太くて大きい骨は特に良い。最後は人を殴る道具にもなる。あれでカミューが良くみんなを殴り飛ばしていた。


「お肉~」


 アホ毛をブンブンと震わせながら、ノイエは妹を置き去りにしとにかく急いだ。

 何はさておき骨付き肉が待っている。それが重要だ。




 満足だ。お腹も膨れた。やはり骨付き肉は最強だ。

 丸焼きも良いが鳥だと食べ応えが少ない。丸焼きなら牛だ。大きい人は羊や山羊と言っていたがまだまだ甘い。牛こそ最強。牛より大きな肉の塊は存在していない。だから最強。


 満足気にアホ毛を揺らしノイエは歩く。


 ただしばらくするとまたお腹が減って来るのは分かっている。でも今は満足だ。

 だから機嫌よく……歩き出したノイエは辺りを見渡す。


「アルグ様は?」

「おへやです」

「はい」


 小さな子の返事にコクンと頷きノイエはその足を動かす。


 ならまずはお風呂だ。お風呂は好きだ。浸かっていると体の調子が良くなる。

 でも熱すぎるのは嫌いだ。焼かれるのは痛い。だから熱いのは嫌いだ。


 軽い足取りでお風呂へと向かい服を脱ぎ散らかしてノイエは思い出す。姉は何処にいる?


「お姉ちゃんは?」

「おへやにいますよ。けっ」

「はい」


 何故か服と下着を拾い集める小さな子が怒っている。


 どうして怒るのか分からない。

 彼は部屋に居て、姉も部屋に居るだけだ。怒る理由は……あった。


「2人とも部屋?」

「はい。そうです」


 拾い終えた服を洗濯籠に押し込んだ小さな子が今度は自分の服を脱ぐ。

 相変わらず色々と小さい。成長していない。


「ねえさま?」

「小さい」

「ねえさまっ!」


 胸を叩いて事実を言ったら怒られた。

 カミューがしたことを真似ただけなのにどうして怒のだろう?


「たぶん育つ?」

「どうしてぎもんけいっ!」

「努力は大事」

「してますからっ!」

「ならもう絶望」

「ねえさまっ!」

「むぅ」


 本当に会話は難しい。


 怒る小さな子から逃れノイエは浴場へと歩く。

 はて? 何か急いでいたような……思い出した。彼と姉だ。


 2人してズルい。

 先に一緒に遊ぶだなんてズルい。

 仲間外れはつまらない。遊ぶならみんな一緒だ。


 ちょこんと椅子に座ると、メイドたちが一斉に洗ってくれる。

 これは好きだ。楽で良い。


 ピカピカに磨き上げられノイエは解放される。

 あとはお湯に浸かって……はて? 何か忘れている気がする。思い出せない。


「ん~」


 でもお湯が気持ち良いからこのままで良い。

 のんびりとお湯に浸かって……ノイエは確りとお風呂を楽しんだ。




 若干アホ毛を怒らせ、ノイエは廊下を歩いていた。


 彼と姉が部屋で先に一緒に居るのだ。絶対に遊んでいる。

 ズルい。自分だけ仲間外れだ。


 もっと早くにこの事実を知っていれば一緒に遊べるのに……小さな子が悪い。

『どうしたら胸が大きくなりますか?』とか聞かれても知らない。

 胸は勝手に大きくなるものだと言ったら何故か怒られた。


 どうして怒る? カミューも同じことを言っていた。


 アホ毛をフリフリさせながらノイエは部屋の前にたどり着いた。

 扉を開いて突入する。

 居た。やっぱり2人で遊んでいた。ズルい。ベッドの上で仲が良さそうに。


「私も」


 急いでベッドに飛び込む。

 楽しいことはみんな一緒が良い。


「私も」


 驚く2人に抱き着く。


「私も一緒に」




 王都王城内アルグスタ執務室



「……来ない」


 上司の言葉を信じて昨日の仕事を軽めに切り上げたクレアは、翌日……憤慨していた。


 来ない。あの上司が来ない。昨日あんなことを言っていた上司が来ない。

 結果として2日分の仕事が目の前に山積みだ。


「来ない」


 わなわなと震えながらクレアは自分の机を叩いた。


「あの馬鹿上司~!」


 大絶叫から……泣きながら仕事に戻るのだった。




「ん~。腰が辛いな」


 そこにはトントンと腰を叩くエウリンカが居た。


 魔眼に戻って来たから体調の不調はしばらくすれば回復するだろう。だが今が辛い。

 流石にずっとすることになるとは思わなかった。


 優しくしてくれればと言ったが、ずっとすればかなり辛い。

 でも悪い気はしない。満足はした。何とも言えない幸福感で胸が一杯だ。


「お帰りエウリンカ」

「ああ歌姫」


 声をかけられエウリンカは視線を巡らせる。

 何故かセシリーンはファシーを抱いてとても悲しそうな表情を浮かべていた。


「どうかしたのか? そんな顔をして?」

「……もしかして泣きそうな顔をしているかしら?」

「ああ」


 自覚あるのか歌姫はそんな声を発した。


「そうね。ある意味でとても悲しいわ」

「だから……ひぃっ!」


 中枢の入り口から迫って来る存在に気づいたエウリンカは悲鳴を上げた。

 魔女と殺人鬼がおどろおどろしい表情で入って来たのだ。


「エウリンカ」

「……」

「ちょっと来なさい」


 青く長い髪を生き物のように蠢かす殺人鬼に呼ばれ、エウリンカは全身を震わせる。

 自分が何をした? 何もしていないはずだ。


 だが逃げられない。相手は殺人鬼と魔女だ。

 どうして魔女も? 分からない。何も分からない。


「自分が何をしたという!」

「……自覚をしていないからあの2人が怒るのよ」

「どういう意味かね? 歌姫?」


 今一度彼女に視線を向けると、やはりセシリーンは悲しい顔をしていた。


「大丈夫よエウリンカ。この場所なら液体になっても生き返れるから」

「液体にされることは決定なのかね!」

「ええ。それにたぶん拷問も」

「えっ?」


 拷問? その言葉は流石に理解できずエウリンカは首を傾げる。


 だが近づいて来た2人に捕まり引きずられている途中で気づいた。

 待っているのは拷問ではない。たぶんただの処刑だろうと。


「誰か助けてくれ!」


 エウリンカの叫びは空しく響き……そしてしばらくしてから悲鳴が響き、断末魔の声へと変化した。




~あとがき~


 ちょっと尻切れトンボ気味ですが今章はここまでです。


 実はミジュリの復讐は終わってません。あの病んは一度の失敗ぐらいで諦めません。また何かを企み…アイルローゼ先生。あの馬鹿はやはり融かしておいてください。面倒です。


 ファナッテが外に出るとアイルローゼに液体にされることがほぼほぼ決定事項なので…絶対に中途半端になると思っていました。

 エウリンカは不幸属性持ちなのである意味で融かされるのは決定事項です。


 閑話を挟んでから物語は新章に突入します。

 大陸西部編です。プロットだと『西の狂人たち』となっています。

 コンプライアンスは大丈夫なのか? な人たちが多数出て来ます。そして問題しか存在しないノイエの姉もです。本気か作者? 普通に死ぬぞ?


 流れとしては変態の巣窟サツキ家が存在する村へ向かい物語が始まります。

 頑張れグローディア。主人公たちの活動範囲を広げるのが君の仕事だ!




© 2022 甲斐八雲

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