適当で良いのだろう!

 ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室



「そもそもあの魔剣は自分の意に反して作った物で興味はない。好きに売り買いして貰っても構わないが、もし条件を出して良いというのであればこの中のどれかと交換、」

「あん?」


 だからそれは国宝だと言っているよな? もう一発ハリセン食らうか?


 露骨に睨みつけたら……エウリンカが深いため息を吐きだした。


「……は難しそうだから希少な鉱物などを得られると嬉しい。それか使用不可となった古い魔道具などでも構わない」


 エウリンカの喋りって何処か偉そうな感じがするのだけど、現状魔剣を3本抱え持つ彼女は玩具を得た子供のようにしか見えない。つまり威厳など微塵も感じられない。

 そもそもメイド姿で偉そうに振る舞えるなんてこの国だと叔母様ぐらいだ。


 あっ忘れてた。おいポーラに宿る悪魔よ。義碗はどうなった? もう完成している? 仕事が早いな。ん? 最近この手の人形を修復したばかりで材料とネタが余っていたと。材料は分かるがネタって何だ? だから僕の目を見ろ。ポーラに変わるな。キスしてこようとしないの妹よ。


 額の紙を元に戻してポーラにはまだまだ反省を促す。


 エウリンカが提示した条件の鉱物は分かる。魔剣は基本剣なので鉄製だ。よって鉄などの金属が必要になる。

 我が国ではある人に頼むと大量の砂鉄が集まるので触媒としての鉄には事欠かない。それ以外のちょっとしたアクセントのような物としてエウリンカは貴重な鉱物を求めるっぽい。


 普段ポーラが窓口になって商人たちから希少な鉱物を買い求めているのだが、不思議とポーラの部屋に置かれている希少物入れから中身が溢れたりはしない。むしろ常に枯渇状態だ。

 犯人はいつも1人!

 今度あの馬鹿に無駄遣いとは何たるかを説く必要がある。


「鉱物は分かるが、使用不可の魔道具とは?」


 真面目なお兄様がエウリンカに質問をする。


 馬鹿兄貴まで合流したもんだから部屋が狭くなった。

 クレアとイネル君には済まないと思うが馬鹿兄貴の執務室に一時的に避難して貰っている。


 ケーキと一緒だから不満は口にしなかったが、これだと今日の分の仕事が遅れそうだから……残業を強いる悪い上司になってしまうな。うん。この世界に残業って概念は無いんだけどね。それでもだ。


 陛下の問いにエウリンカは膝の上に置いている魔剣を軽く叩いた。

 だからそれは国宝だと言っているだろう?


「魔道具の多くは……と言っても近年の物では駄目だ。少なくとも200年以上前の物が好ましいが、その時代の魔道具には多くの希少な鉱物が使用されていることが多々ある」

「それは初耳だな」


 僕もです。


 陛下は自分の背後に控えている馬鹿兄貴に何やら指示を出す。

 もしかして使用不可の古い魔道具とかがあるのかもしれない。


「それに忘れているかもしれないが、この国には魔女が居るのだろう? 物によっては魔女の修復で再利用できるようになるかもしれない」


 言われてみれば確かに。アイルローゼほどの天才なら……何故かお兄様方の表情が渋いのですが?


「我々もそれを考えて一度古い魔道具を魔女に渡したことがある。『再度動かせないだろうか?』と尋ねもした」

「結果は?」

「断られた」


 おい先生。僕の知らない場所で何していたの?

 教えてポーラさん。今の話は本当ですか? 本当なのね。でもどうして? はいっ?


「墓荒らしのような真似はしたくないとのことだった」


 ポーラとお兄様の言葉は同じだった。


 つまり一度生まれ天寿を全うした道具を直して使う……エコの観点からすれば立派なのだが、アイルローゼはそれを是とはしなかった。理由は何となく分かる気がする。


「……発言は立派だ」


 エウリンカも気づいたらしい。


「古い物を直すぐらいなら自分で新しい物を作りたいという本音が見え隠れしている」


 その通りだと思います。

 特に先生は自分で作るという部分に強いこだわりを持っているしね。

 だからエウリンカ。隙あれば魔剣を出し入れしない。


 君も先生と同類だろう? 違うのか?


「自分は古い物を読み解いて新しい物を作ることに抵抗はない。何より魔剣はその構造上、再利用は不可能だから魔女のようなことは言わない」

「……つまり再利用できる魔剣がお前の手元に届いたら?」

「ふむ。そんな物は炉にでもくべて、待ちたまえ。どうしてその凶器を構える?」


 構えるだろう? お前が言っていることはアイルローゼと同じだ。


 僕の問いに迷うことなく本音を答えたエウリンカに対し静かにハリセンを構えると、彼女は怯えだし……お兄様が軽く咳払いをしたので振り下ろすのは勘弁してやった。


「それでエウリンカ殿」

「何か?」


 そろそろその太ももの上の魔剣を返せと陛下が目で語っているぞ? 返せよ。他人が作った者には興味は無いんだろう? そう言う意味ではない? 古い物には興味がある? ただ直したり似せて作ったりするのが面倒だと……それが本音か? 叩くぞ?


 陛下の代わりにエウリンカから魔剣を取り上げようとしたらお兄様から制止が。

 後でちゃんと回収するが今ではないと……納得です。


 そしてどうしてそんな絶望気味な表情をするんだエウリンカ? その魔剣は国宝だと言っているだろう? 国宝に選ばれるだけあって色々と希少な鉱物が複数使われている。それがどうした? ぜひ自分の魔剣の材料にしたいと? なるほどなるほど。やはりお前は世に出しちゃダメな人間らしいな?


 パンパンとハリセンを僕の手で打ち鳴らすと、本当に渋々といった感じでエウリンカが太ももの上の魔剣を差し出してきた。

 最初からそうすれば良いのだ。分かったか?


 陛下の護衛をしているメイドさんたちが魔剣を回収していく。

 この馬鹿に渡しておくと材料にされそうだからさっさと宝物庫に戻してください。

 そしてエウリンカよ。後ろ髪を引かれるな。あれはそもそもお前の物ではない。


 と、魔剣と入れ替わる形で新しい台車がやって来た。

 その上にはゴロゴロと転がる石と半壊したランプのような物が乗っている。ぶっちゃけガラクタにしか見えないが見る人によってはお宝らしい。

 その証拠にエウリンカが立ち上がってめっちゃ笑顔だ。


「陛下。それは?」


 餌を前にした犬のように駆けだしそうなエウリンカの肩を掴んでソファーに座らせる。

 うおっ……抵抗が半端ない。大人しく座れ。待てだ待て。


「今城にある鉱物と完全に壊れている古い魔道具であるな」

「……で?」


 思わず素で質問したら馬鹿兄貴に睨まれた。


 失敬失敬。うっかりだよ? ホントウダヨ?


 大きく息を吸い込み、陛下は自身の正面に居るエウリンカにその目を向ける。


 だから落ち着けエウリンカ。何より陛下が見ているんだから少しは気にしろ。


「これらの物を使って魔剣を1本作って欲しい。可能か?」

「……ふむ」


 パシッとハリセンでエウリンカの肩を軽く叩いたら彼女は正気に戻った。

 そして深く考えて……たぶん碌なことを考えてないな。だってコイツ馬鹿だもん。


「気分が乗らない。断らせて、」


 パシッ


「……だが気乗りが、」


 パシッ


「…………そうは言ってもやはり、」


 パシッ


「脅迫か? 脅されても屈する自分だと思っているのか?」


 三度ハリセンで肩を叩いたが、エウリンカが余計な根性を見せた。ならば仕方ない。


 壁際に向かい足を進め窓を開く。


「ノ~イエ~!」

「……なに?」


 要モザイクな状態だけどノイエがやって来た。

 本日も絶好調でドラゴンを引き裂いているらしい。白と赤のコントラストがエグい。


「エウリンカが我が儘を言って困ってます」

「ちょっ! 待ちたまえノイエの旦那よ!」

「……」


 慌てるエウリンカにノイエが視線を向ける。


「我が儘言わない」

「違うんだノイエ。これは我が儘ではなく」

「我が儘はダメ」

「だから」

「……」

「……分かった。適当で良いのだろう!」


 ノイエの無言の圧に屈し、エウリンカが投げやりになった。


 ズカズカと台車に近づきその上に置かれている物を拾い上げると、辺りを見渡して適当に物品を漁る。予備の羽根ペンやメイドさんのヘアピンなど……相変わらずコイツの魔法は謎である。


「適当だから文句など受け付けないぞ!」


 叫びエウリンカが魔法を使い始めた。




~あとがき~


 面識は無くとも資料は…現在主人公の元ですな。

 だから誰もがその事実に至るのです。

『この見た目だけは特級品の女性が本当にあのエウリンカなのか?』と。


 確認したければ実力を見せてもらえば良い。

 簡単なことなのですが、この職人気質の怠け者は…ノイエの圧には勝てませんw


 適当に魔剣を製造してみます。はい。適当です




© 2022 甲斐八雲

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