お前がそれを言うのか?

 ユニバンス王国・王都王城内近衛団長執務室



「ビルグモール」

「何でしょうか?」


 上司に呼ばれ若きイケメン騎士と評される彼はその顔を向けた。

 自分の席に着き椅子に腰かけている巨躯の主は……何故かプルプルと全身を震わせている。


「この紙は何だ!」

「フレア様が置いて行きましたが?」


 やはりだ。ふらりと現れた二代目メイド長が予言していったように主は怒りだした。


「北の舞台で暗殺者をおびき寄せるだと?」

「はい。密偵衆の手配はフレア様の指示で自分が動かし終えてあります」

「手際が良いな!」

「お褒めの言葉として受け取っておきます」

「皮肉だよ!」


 ドンと机を叩いて彼は怒りをわずかでも発散する。

 あまり効果を見せていないように見えるのは……その様子からして明らかだ。


「ですがハーフレン様は国王陛下代理としてのお仕事もありますし」

「そんなことは分かっている。だが必要なら親父を引きずって来て国王の椅子に座らせる」

「前王は体調を崩していると聞き及んでいますが?」

「お袋が嫉妬に任せて暴れただけだ。怪我もしていないし病気でもない」

「そうでしたか」


 老いても仲の良い夫婦は良いことだとビルグモールは思う。

 ただ前王妃様は老いを全く感じさせない人であったが。


「とはいえやはり無理でしょう。貴方は王弟。現国王に何かあれば次の王になることが決まっている人物です」

「んなことは分かっている」

「分かっているなら」

「分かっていても俺も混ざりたいんだ!」


 相手の言葉にビルグモールは口を閉じ一瞬……少しの間思考した。


 結論。子供か?


「我が儘は今夜帰ってからフレア様にでも」

「そのフレアは何処にいる!」

「その紙にはなんと?」

「……『報告はちゃんとします』だと!」


 つまりその通りだ。


「ですから報告に必要な事柄をその目で見ているはずです」

「物は言いようだな!」

「はい。ですが事実です」


 事実なのだから仕方ない。

 二代目メイド長は主への報告の為にその足を運び現地に出向いているのだ。


 アルグスタは今回『ノイエ小隊を動員して暗殺者を迎え撃つ』とだけ告げていた。


 それを聞いていた二代目メイド長は“元”ノイエ小隊所属の副隊長でもある。『現役の』と言う文字が無いことに気づいた彼女が、勝手に行動することに何の問題があるのか?

 今回はとにかく勝手解釈を理由に色々と画策しているのだから、それをメイド長が習って何の問題があるのか?


「本当にアルグスタ様は人望のある御方のようで」

「……どうだか」


 足を組み膝の上に肘を乗せて頬杖をついたハーフレンは露骨に不機嫌そうな声を出す。


「あの馬鹿に責任を負わせて不満のはけ口にしようとしてるんじゃないのか?」

「でしたらその不満を貯め込むような状況にフレア様を追いやっている人物が一番悪いのでは?」

「……」


 ビルグモールの言葉にハーフレンは顔を顰めると吐き出すように口を開いた。


「つまりお袋か」

「ハーフレン様がそう言うのであればそれで宜しいかと」


 主人がそう言っているだからそうなのだろうとビルグモールは理解した。




 ユニバンス王国・王都内北側



「……」


 人の目を避けるように身を隠しながら……無人の場所歩くこととなった。


 普段なら警備や清掃の者たちが居ると聞いていたがその人たちも居ない。

 やはり罠だったのだろう。それを理解し『少女』は唇を噛みしめた。


 どうせ自分は仕事をしなければ生き残れない。成功しても生き残れる可能性など微塵も無い。

 それでも僅かな希望に手を伸ばしたいならやるしかない。やるしかないのだ。


 回りに異変が無いか気を付けながら少女は走る。

 一気に広い通りを抜けて……そして足を止めた。


 通りの真ん中にそれは居た。


 人だ。たぶん人だ。人型の何かだ。

 それが通りの真ん中で横になって寝ていた。


「ああ面倒臭い」

「……」


 横になっているだけで相手は起きているようだ。


「で、君があの上司の首を狙う暗殺者で良いのか?」

「あなた、は?」

「うむ。イーリナと言うただの魔法使いだ」


 言って魔法使いは上半身を起こした。

 フードで顔を隠しているのでどんな人物かは分からないが、声からして女性だ。


「どうして?」

「何かな?」


 暗殺者の問いにイーリナは聞き返す。


「どうして、そんなところでねてるの?」

「説明すると長くなるけれど聞きたいか?」

「ながくなるなら、ききたくない」

「そうか。それは仕方ない」


 互いに面倒臭いのは嫌だとばかりでこの話は終わった。


「それで君は暗殺者の1人なのかな?」

「はい」


 コクンと頷いた少女にイーリナは深く息を吐く。

 親友が引き取り自身の後継として育てている“妹”程の年齢にしか見えない。

 幼さが前面に出ていて……このような少女を暗殺者とする馬鹿な貴族など滅びれば良いとさえ思う。


「ならどうやらここから先には行かせられないらしい」

「どうするの?」

「そうだね」


 立ち上がりイーリナは軽く肩を回した。


「暗殺者は晒し首にするのがこの国の決まりらしい」

「……」

「案ずるな。晒し首にする以上は、頭部は無事に回収するから」


 それ以外は保証できない。

 何故ならイーリナの扱う魔法は手加減が出来るような類の物では無いからだ。




「メイドですか」

「はい」


 老メイドと共に無人ののを進むが如く前進して来たお嬢様は、立ち塞がるメイドにその目を向ける。

 古めかしいメイド服に身を包んだ女性が立っていた。


「確か……」


 お嬢様はゆっくりと思い出す。


「そう。確か貴女はクロストパージュ家のご令嬢様だったかしら? 元ノイエ小隊所属で名前は『フレア』だったと思うのだけど?」

「いいえ。その者は馬鹿をしでかして亡くなっております。この場に居るのはただのフレア。現在は先代のメイド長より二代目を任されているただのメイドでございます」

「ふ~ん」


 相手の言葉に苦笑し、お嬢様は背後に控えている老メイドに視線を向けた。


「貴女は先代のメイド長を知っているのよね」

「はい」

「で、率直な感想は?」


 問われて老メイドは二代目を見る。


「底知れぬ恐ろしさを感じます。1人で戦えば五分の結果かと」

「そう。なら2人で当たればこちらの勝ちね」


 告げてお嬢様は持っていた鞄を開いた。

 中に収めてある相棒を手に取り、そして軽くそれを構えて見せる。


「ボウにございますか」

「知ってるんだ。正解」


 フレアの問いに、お嬢様は軽くボウの動きを確認する。


「私はこの武器で数多くの依頼を実行して来たただの暗殺者」

「つまり祝福を持つ御仁はそちらのメイド様ですか」


 軽く笑いフレアは自分のスカートをパンと叩いた。

 金具が外れ巻き付けていた黒い布がスルスルとスカートを転がり広がっていく。


「ですがただの弓使いと祝福持ち程度が二代目とはいえメイド長を相手に本気で勝てると?」

「どうでしょうね」


 軽く肩を竦めてお嬢様はボウに特製の矢を装填した。


「ただ勝負は時の運なので何が起こるか分からないわ」

「そうですね」


 クスリと笑いフレアは楽しげな表情を相手に向ける。


「その通りだと思います」




「……暇だ」


 舞台の上で1人座って待機とか、暇潰しを考えておくべきだった。

 うっかりだよ。僕のお馬鹿!


 今から誰かを呼ぶか? それともこの場を離れて……それだと餌の意味が無くなるしね。


「暇なんだよ~!」


 騒いでから後ろに向かい倒れ込む。横になって青い空を見上げる。

 今年も順調に乾期が終わって行こうとしている。次は雨期だ。秋雨的な時期だ。

 出来たらノイエを誘ってのんびりしたいんだけど……無理かな? 仕事が僕を逃してくれ無さそうな気がする。

 にしても暇だ~。


「と言うか周りの様子が分からないから困るんだけどね」


 僕が居ない場所で迎え撃っているあの変態共がちゃんと仕事をしているのか不安になる。


 唯一大丈夫そうなのはフレアさんだけだ。あの人は信用できる。

 後のメンツは……不安しか覚えない。


「シリアス展開とか無理そうな人ばっかだもんな~」


 まあ僕ほどシリアスが似合う人は居ないはずだけどね。後のメンツは……はて? 今凄い遠くで『お前がそれを言うのか?』と言うツッコミが? 気のせいだろうか?


 あ~。暇だ。




~あとがき~


 この主人公は自分がギャグキャラだと理解していません。

 お前のせいでどれほど作者が苦しんでいるのかを知らずに…。


 ノイエが午前中にドラゴン退治をしてから西部に行くからノイエ小隊は基本暇です。

 暇な奴らにお仕事提供ってことで…何故かフレアさんが居るんですけど? どうして?




© 2022 甲斐八雲

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