良く分からないけど嫌ぁ~!

「久しぶりの御対面かしらね?」


 コンコンと背後に立つ存在を叩く魔女に、アイルローゼとリグは何とも言えない視線を向けていた。


「本当に小さ」

「リィグゥ~?」

「……慎ましい」

「変わらないわよ! この肉袋!」

「うん。でも彼はその袋を喜ぶ」

「……」

「ごめん。無言で握らないで。怖い」


 白い板の上に乗ったままで背後から胸を掴む存在に、リグは言いようの無い恐怖を覚え震えた。


「遊んでないで話を聞いてくれるかな?」

「どうぞ」

「まあ良いわ」


 無言で幼馴染の胸を揉んでいる若き魔女は、どうやら久しぶりに対面した自身の体に不満を持っているらしい。

 チラリと視線を向けた刻印の魔女は、その整った容姿に軽い嫉妬を覚える。

 完璧なモデル体型だ。ただ足から尻へのラインは確かにエロい。


「どうしてアイルの体を回しているの?」

「今から外に出すから欠陥が無いかの確認かしらね」

「ふぐっ」


 アイルローゼがまた悲鳴を飲み込んだ。


「医者の目から見てどうかしら?」

「……外見は異常なし。中身は確認のしようが無い」

「その通りね」

「ただ。やはり」

「気になる?」


 クスクスと笑い魔女はまた背後のフラスコを叩いた。


「この体は貴女たちがこの魔眼に放り込まれた日から成長していない。厳密に言えば数か月のみ経過しているけれど誤差の範囲でしょう?」

「そうだね」


 リグは素直に認める。


 子供から大人への成長であれば数か月でも変化が生じることもある。リグ自身の胸も数か月で二回り大きくなったこともある。

 あの時は何故か魔法学院に所属する女学生たちが飛んで来て観察された。


『秘訣は?』と何度も聞かれたが成長の秘訣など『規律正しい生活を送ること』と説明するしかない。

 たぶん昼寝が良かったのかもしれない。あの頃は暇さえあれば寝ていた気がする。


「ボクらは本当に作られた体の中に居るんだね」

「ええ」


 パチッと魔女が指を鳴らす。立ち並ぶフラスコが勝手に移動を開始した。

 入れ代わり立ち代わり流れ、ある一つのフラスコを運んで来る。


「ボクか」

「ええ。どう? 本来の貴女は?」

「……こっちの方が小さく見える」

「「あん?」」


 何故か声が2つだった。

 素直な感想を口にしただけなのに……その不満を口にせずリグは飲み込んだ。


 ただ瓶の中に入っている自分の身長が低く見えただけなのに怒ることは無いと思ったが。


「それでアイルを外に出すのならボクは要らないよね。帰って良い?」

「寝るだけならここでも良いでしょう?」


 若干胸を背後に居る幼馴染に強く握られたが、リグは耐えた。


「ここに残る理由は?」

「あら? おっぱいだけの子じゃないのね」

「ホリーとの会話で何となく察しただけ」

「そう」


 苦笑し魔女はフラスコに背を預ける。


「そこの魔女を外に出す都合、しばらくの間……とある問題が生じる」

「問題?」

「そう。ここの管理よ」


 軽く両手を広げて魔女は自分の周りをアピールする。


「下手なことをしなければ問題無い。それでも時折問題は生じる。このフラ……瓶の方の管理は私の人形を置いて行く。貴女にして欲しいのは瓶の中身に問題が無いか確認して欲しいの」

「……医者の領分だね」

「そう言うことよ。どう?」

「寝てて良いなら」

「問題無し」

「それと……」


 唯一の気がかりをリグは抱いていた。


「ボクは1つの魔法しか使えない。だからここに居ると外が見えない」

「貴女の場合は体を弄り過ぎよ。だから他の魔法が発動しない」

「分かってる。施術したアイルもそう言っていた」

「その通りよ」


 素直に認め刻印の魔女はゴソゴソとローブの中で手を動かす。


「これを使いなさい」


 投げて寄こした銀色の盆をリグは見つめた。

 本当に銀製のお盆にしか見えない。皿でも載せたら食堂で普通に使えそうだ。


「魔道具ね」


 リグの肩越しに覗き込んだアイルローゼはその盆に軽く手をかざす。


「遠目の魔法に等しい魔法を感じるわ」

「正解。本当にその解析力は狂ってるわね」

「……」


 褒められているのか貶されているのか分からず、アイルローゼは警戒する。

 両腕の中には立派な肉の盾が居る。何かあればこの肉で弾けばいいのだ。


「念じて魔力を通せばあの子の視界に繋がるわ。ただし右目だけどね」

「右左って関係あるの?」

「微妙な角度の違いだけよ。普通の人なら気にならない」

「分かった」


 言われるがままにリグは受け取った銀板に魔力を流す。

 すると平面の部分に映像が浮かび上って来た。


 確かにノイエの視界だ。彼をジッと見ている。


「見れた」

「ならそっちの問題は解決ね。契約成立で良いかしら?」

「うん」


 そのままお盆を抱えリグはその場でコロンと横になる。


 こうなると困るのがアイルローゼだ。

 今から自分の本体で外に出ることになる。なってしまう。


「どうしてそんなに顔を赤くしているのよ?」

「ふえっ?」


 問われてアイルローゼは自分の頬に手を当てる。

 確かに若干熱くなっているような気がした。


「もしかして……自分が歌姫の二の舞になるって怖れているの?」

「なななななにを、ナニを、何を言っているのかしら?」

「そこまで動揺する人間を久しぶりに見たわ」

「動揺なんてしてないから。うん。してないから」

「あっそう。なら絶対に妊娠するようにこの体に細工を」

「止めてくださいお願いします~」


 あっさりと涙腺を崩壊させてアイルローゼは懇願する。

 その様子にリグはため息を吐くと、現実逃避するようにノイエの視界に集中した。


「何か問題でもあるの? 別に彼と関係を持たなければ妊娠しやすくなってても大丈夫よね? 違うの? ねえ?」

「……」

「それとも遂に彼に股を開く覚悟でも出来たの? それはそれで楽しみではあるのだけれど……出来たらこうドロドロの状態になってくれる方が好きなのよね。汁多めで」

「汁って何よっ!」

「そこのおっぱいに聞きなさい」

「……」


 そっと体を折ってリグの口に耳を寄せたアイルローゼの全身が赤く染まる。

 またどこかが切れたのか出血を伴っての大興奮だ。


「なんてことをさせる気なのよっ!」

「普通に子作り?」

「こっ!」


 ビューっと頭頂部から血を吹くアイルローゼに、リグは手にした盆で降って来る血液を遮った。


「アイルで遊ぶのはほどほどにした方が良い。アイルは頭は良いけど男性との経験は全く無いから」

「だから揶揄い甲斐があって楽しめるのでしょう?」

「巻き添えで血まみれにされるボクのことを少しは察して欲しい」

「だったらそこから逃げれば?」

「……」


 チラリと相手の様子を確認したリグはコロコロと転がり逃げ出した。

 白い板から落ちることになり、全身を軽く打ったが無事に逃れることが出来た。


 何故ならばアイルローゼは両手で自分の頬を押さえて気絶寸前なのだ。


「やはり刺激が強い」

「あはは~。だから楽しいのでしょう?」

「悪趣味」


 リグは相手に告げて体を起こす。

 逃れた結果、アイルローゼの本体が収まっているフラスコの傍に来た。

 こうなると興味が勝る。立ち上がりそっとフラスコを触ってみる。


「簡単に割れないけど下手に魔力は注がないでね」

「注ぐと?」

「簡単に暴走しないけど暴走することもあるのよ」

「すると?」

「フラスコが割れる。中の魔力が溢れて……きっと楽しいことが起こる」

「うん分かった。やらない」


 あっさりと好奇心を捨ててリグは中身を観察する。

 変わらずに奇麗だ。アイルローゼはあの頃と変わらずに美しい。


「ねえ魔女」

「何よ?」

「……服は?」

「準備してある」


 ゴソゴソとローブの中を漁って刻印の魔女はそれを取りだした。

 前回アイルローゼが今着ている衣装そのものだ。


「これが本物」

「……服まで複製するんだ」

「私は完璧主義だから」


 クスクスと笑い刻印の魔女は服をリグに渡すとその手にハリセンを呼び出した。


「さてと。魔女……そろそろ外に出ましょうか? 正気に戻らないなら排卵剤を突っ込んでウエルカムな状態にするわよ!」

「良く分からないけど嫌ぁ~!」



 正気に戻ったアイルローゼは、刻印の魔女から今回の行動指針を受け泣く泣く外へ出た。

 出たら何故か彼に太ももを触られることになったが……。




~あどかき~


 ごめんなさい。予約投稿する日を間違えてました。



 アイルローゼが玩具のようだw

 そしてリグが一番動じない子と化して来たな~。


 まあ何も問題が起きないなら排卵剤を飲まされても怖くありません。

 何より流石の刻印さんだってそんな便利アイテムは持っていませんけどね。


 こうしてアイルローゼは外に出たら、馬鹿に太ももをがっつりと触られていたのでしたw




(C) 2021 甲斐八雲

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