それってどんな死刑判決?

 ブロイドワン帝国・帝都帝宮内



「旦那君!」

「シュシュ!」


 ヒシっと抱き合い、石畳を転がって急いで光の壁の中に身を隠す。

 突然ポーラが消えてしまったのだ。おかげで人形たちが僕らに向かいやって来て……急いでシュシュの魔法で壁を作った。


 ピンチだ。誰の嫌がらせだ? 僕らが一体何をしたと言うんだ!

 ただ衝撃映像に耐えられずエロエロしていただけじゃないか! シュシュと2人でずっとエロっていただけだ!


「どうしてこうなった!」


 理由は分かっていますとも。ポーラがクルっと銀の棒を回したと思ったら、突然その棒で空間を切り裂いて中に入って行ったのです。

 どんなファンタジー? あの妹様は大人バージョンになると不可能って概念が無くなるの?


「にゃ~」

「どうしたシュシュ!」

「ちょっと壁が薄いかも!」

「なに~!」


 よくよく見れば急いで作ったせいかあっちこっちに穴が見える。

 その穴に向かい人形たちが手を入れて中に入ってこようとしているのだ。


「弾幕薄いよ!」

「だんまくってなんだぞ~!」


 追加で壁を作れと言いたいが、問題が発生していた。

 慌てて作った壁なので範囲が狭い。結果としてシュシュは手を振り回せずにいる。


 普段から観察してて気づいたが、シュシュは大きい動作で魔法を使うことが多い。両腕を振るったりとかそんな感じだ。

 で、振るスペースが無いとどうなるのか?


「気合だよシュシュ!」

「無理だぞ~! 目標に魔法を投げられないぞ~!」

「そこは気合で!」

「無理~!」


 ぶっちゃけどうやらシュシュはコントロールに難があるっぽい。

 頑張れ次点の天才児。アイルローゼの次に天才っぽいのが君の売りだろう?


「根性だよシュシュ!」

「そんなの持ってないぞ~」

「根性は捻り出すんだ! 搾ってやる!」

「腰~! 腰をギュッとするのはダメだぞ~!」

「あれ? 意外とお肉がっ」


 こっちを見たシュシュの目がヤバい。


「旦那様。言って良いことと悪いことがあります。分かりますよね?」

「……ふぁいっ!」


 底冷えするようなシュシュの声に僕は懺悔した。

 良く分からないけど懺悔した。


「ってあっち側の穴が~!」

「頑張れシュシュ~!」

「無理だぞ~」


 人形たちが無理矢理穴に手を入れて拡張しようとしたせいでピシピシと光の壁に亀裂がっ!


 アカン。まさかの大ピンチだよ!


「遅くなりました兄様。お姉様」

「「ふぇ?」」


 フワリとスカートを翻し、ポーラが突然姿を現した。

 クルリと銀の棒を振り回すと、恐ろしい勢いで人形たちを打ち倒していく。


「少しの我慢を。駆逐しますので」

「ポ~ラ~!」


 僕らは死地で百万の援軍を得た。


 やっぱりポーラは頼りになる妹だ。

 あっという間に……あれ? 数が全然減らないね。うん。


「兄様。問題が」


 大きく棒を横に振り払い、人形たちと距離を作ったポーラが汗の浮かぶ顔を向けて来た。


「敵の飽和攻撃です」

「ほうわ?」

「はい。つまりは……数の暴力です」

「納得」


 ワラワラと襲ってくる人形たちの勢いが止まらない。押し寄せる津波を見ている感じだ。

 津波が全て人形で、それが僕たちに殺到して来る。


「どうすれば良い? どうしたら良い?」

「打つ手がありません」

「のっはぁ~」


 大ピンチだ。これはもう四の五の言ってられない。

 2個目の宝玉を使って……誰を呼ぶ? 誰も居な~い!

 と言うかニクはどこに行った? まさか本当にお肉に?


「シュシュ」

「何だぞ?」

「ウチのリスを知らない?」

「あそこだぞ」


 スッと指さすシュシュの動きに釣られて視線を向けたら、手が出る部分をパタパタと動かしロボがリスを乗せた状態で浮いていた。

 あれならば狙い撃たない限り大丈夫そうだ。


「って、ご主人様よりも先に安全な場所に居るってどうなのよ! 死ぬの? 殺すぞ!」


『なんでやねん』


「こっちの言葉じゃ~!」


 全力で吠えたら方向転換してロボが背を向けて来た。

 狙い撃ちたい。全力であのロボを撃墜したいです!


「旦那ちゃん!」

「何ごと?」

「四方八方に人形たちが!」


 言われなくても分かっています。あの魔女はこの帝都に居た住人全てを人形にしたのか?

 意外とマメだな。その勤勉さを世の為人の為に使えと言いたい。


「シュシュ! 魔法でどうにか出来ないの?」

「……無理だぞ」

「諦めが早いな!」


 こうなればポーラは……あれ? ポーラさん?


 気づけば人形の波に押されポーラが僕らの傍から居なくなっていた。

 遠くで人形が部品を撒き散らして宙を飛んでいるから大丈夫だと思いたい。


「だぁ~! だから大国って嫌い! 最後は物量戦だよ! 小国の僕らにどうしろと!」

「アイルローゼが居れば問題無かったんだぞ~!」


 ですね。ですよね!


「後で泣かす! アイルローゼを泣かす! 生きて帰ったら一晩中あの足を愛でてやる!」


 先生を戦わせたくないんだけど、こうなってしまうと文句の1つも言いたくなるのです。


「別にひとり遊びしたって良いじゃん! 僕は先生のあの姿を見て可愛いな~って思いましたよ!」

「旦那さん! 気をしっかり持つんだぞ!」


 こんな状態で正気なんて保っていられるか!


「きーめーたっ! 先生にあの姿を見せながらもっと凄いことしてやる~! この恨みを晴らしてやる~!」

「誰か! 医者を呼んで来るんだぞ! 旦那ちゃんが狂ってしまったぞ!」

「狂ってないやい! こうなったらシュシュの胸でも揉んでやる!」

「落ち着け~! 旦那く~ん!」


 死ぬのならせめて恐怖を感じずに死にたいのです!


 もう全力でシュシュの胸を……そう思ったら外の様子が一変した。

 僕らに殺到していた人形たちが一斉に地面へと倒れたのだ。

 違う。倒されたのだ。青い刃の一撃を食らい。


「……アルグちゃん?」

「ひゃい」


 地の底から響いて来る恐ろし気な声に僕は震えながら全力でシュシュを抱く。

 だって捕まえていないとこの裏切り者は全力で逃げ出そうとするに決まっているからだ。


 ワラワラと動く青い物体が、時折蠢き鋭い動きを見せる。

 首を、足を、腕を、胴体を……青い刃に裂かれた人形が地に伏し動きを止めた。それも複数だ。


「お姉ちゃんの前でそんなことを言うのね? するのね? 許さないわよ?」


 腰まである長いノイエの髪の毛が、10倍くらいに長くなっている気がする。


「許さないわよ?」


 前髪で顔の半分を隠しているノイエが……間違いなくホリーが僕らの方を睨みつけて来た。


「ホリーお姉ちゃん!」

「なに?」


 ブチギレていらっしゃる。ホリー様がブチギレていらっしゃる。


「いつになったら僕との子供を孕んでくれるんだよ! ずっと待ってるのに!」

「……」

「帰ったらお姉ちゃんを一晩中独占して、眠らせないんだからね!」

「……えへっ」


 ワラワラしていた髪の毛が落ち着き、口元に手をやったホリーがあっさりとデレた。


「もうアルグちゃんったら……そんなこと言われたらお姉ちゃんキュンキュンしちゃう」


 乙女が恥じらうように体を揺さぶり、何故か伸びている髪の毛が迫って来る人形たちを切り裂く。

 行動と結果が伴わない実例だ。


「決めた。お姉ちゃんが妊娠するまでずっとアルグちゃんのことを愛してあげるからね」


 満面の笑みで……えっ? それってどんな死刑判決?


「楽しみに待っててね! あ~帰るのが楽しみだわ~」


 スキップしながらホリーが次から次へと人形を切って捨てていく。


「旦那様」

「はい」

「命乞いに失敗したね」

「……助けてシュシュ~!」

「無理だから」

「そう言わないでさ~!」


 どうして僕はいつもホリーを相手にすると自滅するんだろう?




~あとがき~


 飽和攻撃で流石のポーラも大ピンチです。

 何よりそんなピンチでも…緊張感のない2人だな~。


 で、アイルローゼへの不満を口にしたらホリーお姉ちゃんが鬼女りましたw




(C) 2021 甲斐八雲

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