ちょっと死んでみる?

 旧フグラルブ王国領・王都廃墟郊外



「ほい。再起動」


 ポチっとスイッチを入れたメイドがロボから離れる。


「はっ! 亡き兄弟たちが川の向こうで」

「アンタの兄弟は大半がスクラップよ」

「そんな殺生な~」


 寝かせていたロボが上半身を起こした所を小柄なメイドが蹴りを入れた。


「痛いですって。お嬢ちゃん」

「なに寝言を言ってるのよ? お前を屑鉄にしてやろうか?」

「はて? そのぞんざいな物言いには覚えがありますが?」

「そう。私もアンタみたいな間抜け面に覚えがあるわ」


 軽く笑って見せるメイドにロボは戦慄する。

 ガバッと起き上がり一気に土下座まで移行する。その動きに淀みは無い。


「お久しぶりです創造主様!」

「今の今まで気付かなかったの?」

「そう言われましても……外見が全く違いますし。創造主様はもっとこう露出の多い黒いレザーの服装でっ!」


 全力で振り抜かれた蹴りがロボの頭を吹き飛ばした。


「忘れなさい。消しなさい。そんな黒い歴史なんて」

「わっかりました!」


 頭を探し求めながらロボは砂の上を這う。


「で、ちょっと確認したいんだけど……会話できる?」

「今自分の頭を蹴り飛ばしておいて、ほんとに創造主様は」

「あん?」

「何でもありませんて」


 見つけた頭を首に押し込み、ロボはチカチカとその目を光らせた。


「で、何ですか?」


 胸の前で腕を組み小柄なメイドはため息を吐く。


「……アクセス権限は?」

「最終アクセス者様です」

「誰?」

「リーア様です」

「やっぱりね」


 椅子を取り出し少女はそれに腰かけた。


「リーアは天空城の位置を確認した感じ?」

「その通りです」

「で、天空城は?」

「それはプロテクトが」

「製作者権限によりすべての情報を開示しなさい」


《接続……確認》


「全ての権限は貴女様に」

「宜しい。で、今は何処に?」

「この星に存在していません」

「なっ?」


 流石にその答えを想像していなかったメイドも意表を突かれた。


「存在していないの? 壊れたとか墜落したとかじゃなくて?」

「はい。存在しておりません」

「……あの馬鹿。何したのよ」


 そうなるとあの城に隠されている魔道具を今回のご褒美と言う訳にはいかない。

 流石に今のままで帝国の帝都に行けば……かなり厄介だ。


「あっちの方にここに封じていた廃棄品が多数存在するはずなの。管理人だった貴方なら感知できるはずよね?」

「あちらですか?」


 グルっと首を回しロボは指示された方を見る。

 チカチカとその目を明滅させた。


「多数存在しています。あれは創造主様が冗談でお創りになった最終決戦兵器の試作品も」

「やっぱりあれか~。鍵を見た時からそんな気がしたのよね~」


 若干頭を抱えてメイドは苦悩する。


 まさか自分が過去に冗談半分で作ったあれが世に出されているとか……考えただけで死にたくなる。何と言う黒歴史の晒し方か。ネットで過去を検索されるよりも痛々しい。


「どうにか爆発させられない?」

「その手の機能は喧嘩になったら自爆させまくると言って創造主様が禁止しましたでしょう?」

「あ~も~! あの馬鹿ユーアのおかげで本当にケチが付く!」


 これもそれも全て始祖の魔女が悪い。そう決めつけてメイドは足元の砂を蹴った。


「決めた。あの馬鹿を絶対に殴り飛ばす」

「……」

「言いたいことがあるなら言いなさい」

「でしたら言います。まだ喧嘩してるんですか?」


 ロボの言葉にメイドは大変穏やかな笑みを向けた。


「違うわ。ただの殺し合い」

「……悪化してるじゃないですか」

「時が解決しない喧嘩もあるのよ」


 呆れ果てるロボにメイドは穏やかな口調で語る。


「良く言うでしょう? 互いの足取りが違くても目指すところが同じならいつか必ずその道は重なると」

「リーア様がそのようなことを言ってましたね」

「でも私とユーアの場合は、目指すところがこの星の反対側だとしたら……右回りか左回りで歩き出す。ゴールまで絶対に互いの道が重ならないのよ。そう言う道を選んでしまったのよ」

「……リーア様が最後まで嘆いていたのが事実みたいですね」

「そうね」


 姉との仲直りを願っていた妹の気持ちは痛いほど分かっている。

 けれど仕方ない。自分もユーアも道を違ってしまった。そしてリーアもだ。


「ねえロボ」

「何でしょう?」

「私たち3人は3人とも人としての道を踏み外した。長生きなんてするべきじゃないわね……本当に」

「ですが創造主様は」

「ええ。まさかリーアに告げてないでしょうね?」


 冷たい目を向けられロボは静かに頭を振る。


「はい。『あの事だけは決して告げるな』と言うのが創造主様のご命令でしたから」

「なら良いわよ。そのまま秘密を抱えて死んでくれるかしら?」

「はい。それがご命令でしたら」


 恭しく首を垂れるロボにメイドは笑った。


「で、ロボ」

「はい」

「この近くにあの冗談で作った決戦兵器に匹敵する魔道具はある?」

「ありません」

「えっ?」


 これまた予定外の言葉にメイドは固まった。


「ちょっと待ちなさいよ! ここは私たちの廃棄場でしょう? 地下と異空間を含めて多くの厄介な、」

「全てリーア様が回収し、天空城にお運びになりました」

「……あのヤンデレ同性愛者が!」


 座っていた椅子をちゃぶ台のようにひっくり返し、メイドは何かを発散した。


「何してくれてるの? 地球7回は破壊できる武器よ? 分かっているの?」

「分かってます。自分それを管理してましたし」

「ならどうしてそれを運び出すのを黙っているのよ!」

「アクセス権を握られれば自分ただの置物なんで」

「あ~も~! これだからロボは! 少しは上に逆らう気概を見せなさいよ!」

「……見せて良いんですか?」

「私以外が命令権を握っている時ならね!」


 投げ飛ばした椅子を元に戻し、メイドはそれに座り直す。


「仕方ない。突貫で何かを作ろうかしら」

「創造主様?」

「何よ?」

「実は……工房の方が先の戦争で破壊されまして」

「はい?」


 ギギギと首を巡らしメイドはロボを見る。


「と言うか緊急消滅装置が誤作動しまして」

「……」

「もう奇麗さっぱり存在してないんです」


 静かに頷きメイドは顔を上げた。


「ロボ。ちょっと死んでみる?」

「自分に文句を言われましても……」


 肩を竦めるロボに対しメイドは深く息を吐いた。


「そうなると……」


 考え込んでからメイドはポンと自分の足を叩いた。


「分かった。やっぱりロボ」

「はい?」

「死ね」


 アクセス権限を持つ者の命令は絶対だ。




 旧フグラルブ王国領・王都廃墟



「ノイエさん」

「はい」

「僕の質問に答えてくれますか?」

「はい」


 僕らの前に居たノイエがその場に座る。

 ペタンと足を外に曲げた俗に言う女の子座りだ。


「どうして今日のノイエさんは」

「ノイエ」

「はい?」

「さん付けは嫌」


 どうでも良い場所で変なこだわりを見せるなよ。


「ノイエはどうして今日はそんなにお喋りが上手なの?」

「上手? 私はいつも通り」


 いつも通りと言う言葉を辞書で引け。


「助けてリグ」

「頑張れ」


 僕の膝を枕にしたリグがゴロリと横になった。

 現実逃避するな。起きろリグ。


「えっとノイエ」

「はい」

「今日のノイエは普段以上に喋れています」

「?」


 やはり通じないか。ノイエが不思議そうに首を傾けている。


「質問を変えよう」

「はい」

「さっき踊っていたよね? どうして?」


 少しずつ謎を解いて行こう。


「周りの人がそう願うから」

「はい?」

「周りの人たちが『この地から解放されたい』と願うから。だからレニーラお姉ちゃんの踊りに聖女の力を加えてみた。お腹が空いたけど」


 納得だ。もう納得しておこう。


「で、ノイエの背中にはいつもユーリカが居るよね?」

「っ!」


 今更気づいたのかノイエのアホ毛が奇麗な『!』になった。


「ユーリカお姉ちゃん!」


 ガバッと振り返ったノイエが何やらブツブツと言葉を続ける。


 部分的に聞こえて来る言葉を拾うと、どうやらユーリカは存在しているっぽい。

 傍目から見ると焚火に向かい呟くノイエの姿にしか見えないが。




~あとがき~


 今度は刻印さんとロボの語らいです。

 始祖の魔女がユーアで召喚の魔女がリーアです。双子の姉妹です。

 始祖さんと刻印さんが居なくなってから召喚さんは大暴走しました。その結果天空城を乗っ取り大量の武器を詰め込んで…その話は遠い本編で。


 お嫁さんと未知との遭遇状態のアルグスタは語らいます。

 ノイエは自分が普通だと言いますが、その普通にユーリカは…頑張れお姉ちゃんw




(C) 2021 甲斐八雲

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る