お前の妹も腐らせてやろうか!

 ブロイドワン帝国・旧フグラルブ王国領



「寒い」

「申し訳ないですお嬢様」

「ん」


 また全裸となったリグがこっちに来て、僕とノイエを捕まえて引き寄せる。


「まだ暖かい」

「はい」


 姉に対して激アマなノイエは、リグが甘えてきていると思ったのかギュッと抱きしめる。

 そろそろ服を着ようか? 自慢のお嫁さん。


「ポーラ~?」

「ふぁい」


 ん? ポーラが変な声を?


 視線を向けたらガタガタと震え正座している妹が居た。

 あの様子からして足が痺れているに違いない。限界の向こう側まで我慢してはダメです。


 行ってポーラの回収を実行する。


 抱き上げてお姫様抱っこをすると、ポーラが顔を真っ赤にして恥ずかしがった。

 こうしていればウチの妹さんは本当に可愛らしいのです。


「ダメ」

「ノイエさん?」

「ダメ」


 リグを抱えて瞬間移動してきたノイエがポーラを回収する。

 2人を抱えて……ノイエさん。本当にそろそろ服を着ようか? 無理な格好で2人を抱くものだから、下着が大変なことになってます。


「ポーラはノイエに服を着せてあげて」

「はい」


 ただまだ足が痺れているのか、砂の上に立ったポーラが生まれたての小鹿のようにガクガク震えながら必死に耐えている。


「で、ロボよ。話を進めろ」

「兄さんたちが話の腰を折りまくっているんですが?」

「些細なことは気にするな。大きな男になれないぞ」

「意味が分かりませんて」


 リグの言葉に忠実に従うロボは、僕らに背を向けている。

 やはりコイツはロボである。感情は無いらしい。


 普通男だったら振り返るだろう? 全裸のリグだぞ? 見るだろう?

 それを我慢出来るだなんて信じられない。


「ごめんなさい」

「平気」


 あれを見ろ。事故を装ってポーラがリグの胸に顔から突っ込んでいるぞ? あれが普通だ。普通か? ポーラに宿る悪魔ならやりかねないな。だがしかし、あれをして良いのは僕だけのはずだ。後でやろう。


 こう見ていると本当にノイエって動じないよな。

 ノイエの服を持って震えるポーラとノイエに抱えられているリグ……僕なら反射的にどちらかにツッコミを入れるはずだ。


「リグを全裸にしたロボよ」

「語弊! 兄さんホンマ酷いわ~」

「事実だろう? 現にリグは全裸だ」


 裸族なリグが全裸なのは普通だけどね。


「さては、いやらしいことを企んでいるな? 内容次第では手を貸そう」

「ちゃいます。隠し扉は生体認証なんです」

「誰の知識だ?」

「確か召喚の姉さんだったと思います」


 犯人だと思ってポーラに向きかけた顔を止める。

 大丈夫。僕は妹を信じていました。あの悪魔は敵ではあるが。


「まず扉を探しましょう」

「探すの?」

「はい。ただお嬢様が歩き回れば向こうが見つけてくれるはずです。あんな具合に」


 気づけば空中に矢印が浮いていた。赤い立体的な矢印だ。

 手を伸ばすとすり抜ける。立体ホログラムとか言う部類の物か?


 突然矢印が浮かんだ理由は簡単だった。ポーラが着させようとする服から逃れたノイエが、リグを抱えたままで移動を開始していた。その移動で反応したらしい。


「何で今更?」

「何がです?」

「ロボが起きるちょっと前までリグは全裸で居たんだけど、あんな反応なかったよ?」

「兄さん……」


 呆れ果てた声音でロボが僕を見た。事実を言っただけだ。


「自分の案内が必要なんです。自分言うか自分らですが」

「ふ~ん」


 良く分からんが納得した。

 ロボがシャットダウンしていたからさっきは反応しなかったらしい。


「らって? 仲間とかいたの?」

「昔はぎょうさん居ましたわ~。自分以外の大半は天空城の方に居ましたが」

「その話もあったな」


 いずれあの悪魔がやらかした過去を一度洗いざらい確認しなければいけない。


「天空城って天空に浮かぶお城って感じ?」

「そうです。何でも創造主様が『これで言える! これで言えるわ! 人がっ』と叫んだ辺りで召喚の姉さんに張り倒されてましたけど」

「……常識ある人だったんだね」


 過去の行いからして一番サイコパスだと思われる召喚の魔女が一番まともだったらしい。

 得てしてそうだ。馬鹿なことをしている奴に限ってまともだったりする。逆に頭の良い人に限って馬鹿をする。


 あれ? どうしてホリーお姉ちゃんの顔が思い浮かぶのだろう? お姉ちゃんは良い人である。おっぱい大きいし……そろそろ巨乳過多だな。お尻とクビレと美脚の栄養素が欲しい。クビレはノイエで補充できるから、お尻と美脚を先生で補充したい。

 寝る前に悪魔に頼んで先生の録画でも見せて貰おう。


「兄さん。遠い目をしてどうしました?」

「何だろう。ちょっと生足が恋しくなった」

「あっちに揃ってますが?」

「あれはあれで良いのだが、僕が欲しいのは特級品なのです」

「意味が分かりませんがな」


 器用にロボが肩を竦めた。


「それで」


 続いてたの?


「次に召喚の姉さんが叫んだんですわ。『人がゴミのようだ!』と。兄さんの世界だと空に浮かべ城を見るとそう叫ぶ風習とかあるんですか?」

「決してそんな風習は無い!」

「何で怒ってます?」

「僕のこの裏切られた感を理解できれば納得できる!」

「自分無理なんで堪忍や」


 畜生がっ! やっぱり召喚の魔女もダメなのか!

 何より天空城を見ながらその名言が言えるだなんて羨ましい。叫びたい。そして見下ろしたい!


「兄さん。何で地面を蹴ってますん?」

「そういうお年頃なの!」

「分かりました」


 何故かロボの奴が諦めた様子で歩き出し、宙に浮かぶ矢印を眺めている3人の元へと向かった。

 これこれロボさんや。僕を置いて行くでない。寂しいだろう?


 慌ててロボの後ろを追いかける。


「この矢印を追って行けば隠し扉に着きます。お嬢様。もう少し我慢してな」

「平気。ノイエが暖かい。で、ロボはこっち見るな」

「堪忍です」


 リグに顔を向けかけていたロボが、グリッと頭を回した。

 そんな無理しているとポロっと取れるぞ?


「別にロボなら見られても……リグさん?」

「……」


 ホリー並みにリグの視線が凶悪なのです。

 そのまま人を殺してしまいそうなほどに険しく怖い。僕は何か間違ったことを言いましたか?


「ごめんなさい」

「……知らない。ノイエ行こう」

「はい」


 若干リグの声にかぶせ気味でノイエが頷き歩きだす。

 どうやらノイエもリグの視線が怖いらしい。


「なあロボよ。僕の話を聞いてくれるか?」

「何でしょう?」


 先を行くノイエの後ろをロボと共に追いかける。

 今の内に後姿のノイエからクビレ分を吸収しておこう。


「僕には愛らしいお嫁さんがたくさん居るんだが、困ったことに彼女たちの考えが分からない時があるんだ。僕はどうすれば良いのだろうか?」

「兄さん……それを本気で聞いてます?」

「本気と書いて『マジ』と読むぐらい本気で聞いてますが?」

「そうですか。なら自分が言える言葉は……創造主様から伝え聞いたことだけですわ」

「うむ。言うが良い」

「ほな。『お前みたいなリア充はもげて死ね!』以上ですわ」

「なるほどなるほど」


 良く分かった。


 ノイエに服を着せることを諦めた様子のポーラは、姉の腕を掴んで一緒に歩いている。

 理由は分からんが……せめて逃げ出さないようにしているとかかな?


「ポーラ? ちょっと君の所の悪魔を呼んでくれるかな?」

「なんですかにいさま?」


 歩きながらポーラが振り返る。目は普通だ。


「良く分からないんだけど一発全力で殴りたくなった。だから『死にさらせこの腐女子が!』って伝えておいて」


 立ち止まったポーラがノイエの腕から手を離した。


「……誰が腐女子よ! 褒めないでよね!」

「出たなこの諸悪の根源!」

「あん? 何ならお前の妹も腐らせてやろうか!」

「止めて~。それ以上ポーラを腐らせないで~!」



 アイルローゼとは違う腐敗を司る悪魔を前にし、最初から僕が勝てるわけなど無かった。




~あとがき~


 ようやく未発掘の魔道具の捜索に向かいます。

 そして今回は家出をしているシリアスさんの出番です。だから帰ってきてください。


 刻印さんは自分が腐女子であることを理解し誇る御仁です。

 生半可な言葉ぐらいで彼女は揺るぎません。


 そろそろ足が恋しくなってきましたw





(C) 2021 甲斐八雲

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