弱いのが悪い
ブロイドワン帝国・旧フグラルブ王国領
「いくら注意しても魔法書を読みながらベッドの上でご飯やお菓子を食べる。着替えるのが面倒臭いからって自室だと下着姿で居た。引きずって行かないとお風呂も入らない。アイルはそんな人間なんだよ」
「……はい」
リグの圧に屈してノイエも頷く。
僕はいったい何を聞かされているのだろうか? リグさん。君の目には僕が持つこのロボの頭は映っていますか?
「あの髪だってミローテが毎日手入れしていたから……それにアイルは同性愛者って噂もあったし」
「はい」
だから適当に頷くなノイエ。先生が君の目の中で……液体になっているらしいから大丈夫か。
また自殺とかされたら大変です。僕の愚痴を聞きながら踏んでくれる存在が居なくなります。
「だからアイルは君が言うほど、」
「それほど語れるぐらいに、リグはアイルローゼと一緒に居たんだね。よく観察している」
「……違う。ボクは」
そっとリグに笑いかける。
「リグはアイルローゼのことが大好きなんだね。そうじゃ無ければそんなに見てないよ?」
「……もう知らない」
拗ねたリグが顔を背けて頬を膨らませる。
何だかんだでリグはアイルローゼを心底慕っているんだろうな。拗ねてる姿も可愛いや。
「さて。アイルローゼの恥ずかし私生活を知ったのは良いとして、問題はこのロボの頭です」
「はい」
瞬間移動でやって来たノイエがリグを抱えたままで僕の手からロボの頭を奪い取った。
一瞬理解できなかったが、彼女が頭を下げたと思ったら手の中からロボの頭が消えていたのだ。
犯人は彼女のアホ毛だ。
もうあれってば前世とか絶対に象の鼻だったのだろう。普通アホ毛を巻き付けてロボの頭を頭上に掲げたよ。
「直せば良い」
「直せるの?」
ノイエにそんな技能があるなんて僕は知りませんでした。
ですがリグが全力で顔を左右に振っているのでいつも通りのノイエの暴走か。
「ほいノイエさん。その頭を返しなさい」
「大丈夫」
「何が?」
どうして君はリグを抱えたままでそんなにも自信満々で胸を張っているの?
下着姿なのは寒いだろうからそろそろ服を着なさい。と言うか実は寒いからリグを抱きしめて暖を取っているのか? もう服を着ろ。
「カミューに習った」
あの暴力女に何を?
「壊れた物は叩けば直る」
振りかぶってロボの首に向かって頭部を叩きつける。見た感じは大きく背を反ってから全力で頭を下げた感じだ。
ガツッと酷い音を立てて……ロボの胴体が砂の中に埋まった。
「ノイエさん?」
「……弱いのが悪い」
君を教育した人が悪いのだと思います。
アホ毛をフリフリさせながら爪先でノイエがロボを突っつく。
もう。これはそろそろあの悪魔を呼び出して、
「何です? 何かありました?」
ガバッと体を起こしたロボの胴体からコロコロと頭が転がり落ちた。
「何です~! 何か世界がゴロゴロとっ!」
「安心しろ。君の頭が転がっている」
「何を言うてますねん。兄さん。自分の頭はここに……ここに……ここにありませんがな~!」
全力で空振りしているロボの手が空しい。
近づいて砂の上に転がっている頭を掴む。
「見えるか?」
「見えます。見えます。兄さんの間の抜けた顔、」
「天誅!」
「殺生な~!」
地面に叩きつけてから数度踏みつける。
怪しからんロボの頭を無事に退治できた。
「って頭が無くても動くん?」
「そりゃ動きます。自分本体は体の方ですし、頭なんて飾りですから」
砂の上に座り込んだロボが全力で自分の頭部を探し出した。
「で、ずっと止まっていたのは?」
「あ~。何か急にメンテナンスモードが実行されたみたいです」
破壊の言葉がメンテの合図って何さ? 一度メンテしたら動かなくなるのこのロボは?
「それでメンテが終わったと?」
「いいえ。ずっと前から終わってました。ただスイッチを入れてくれへんと動けないんです」
「旧式が。音声入力にでもしろ」
「ほんま殺生やわ~」
僕が叩きつけた頭部を発見しロボが首の上から捩じるように押し込んだ。
「あ~。それでも頭が無いと寂しいですし、良かったですわ~」
若干頭が傾いている気がするがロボが満足しているなら問題ない。
「と言う訳でロボよ」
「何か説明がごっつう飛んでる気がするんですが?」
「気にするな。で、夜になったから案内しろ」
そもそもこれが本題だったはずだ。
「分かってますがな兄さん」
グルっと頭を左右に一周させ、ロボは視線をリグへと向けた。
「ならお嬢様。手伝って貰えますか?」
「ん? 何するの?」
抱えているノイエの手が緩んだのか、リグの体がだいぶ下の方に動いている。
もうバンザイをする感じで胸が引っかかっている感じだ。
「隠し扉を開きます。ので、お嬢様には全ての服を脱いでもらって欲しいんです」
「分かった」
言いにくそうに告げたロボが何故かフリーズしている。
代わりにノイエの腕から砂の上に戻ったリグは迷うことなく着ている物を脱いで肌を晒した。
「ロボ。出来れば見ないで欲しい」
「分かってます。分かってますが……」
『普通こんなあっさり脱ぎますか?』とロボが愚痴っているがリグだから仕方ない。これは裸族だ。
で、ノイエさんはリグが脱ぎ捨てたブラを手にするとそれを見つめてから自分の胸に。
止めてノイエ! 君は決して負けていない。ただ敵が強くて膨大なだけだ。それだけなんだ。
「アルグ様」
何故か僕の方を見てアホ毛をしょんぼりさせている。
「ノイエ」
「はい」
「君の胸は決して小さくない。それで不満を言ったら中の人たちと戦争になる」
「……お姉ちゃん」
「はい?」
クルンとアホ毛を回してノイエが僕を見る。
「お姉ちゃん小さい人が多い」
言うなノイエよ。君の言葉でとどめを刺された人が複数いるはずだぞ?
「ぐふっ」
「がふっ」
「私は負けてないから」
踏ん反り返って胸を張るホリーは、自分の立派な双丘を大きく揺らした。
ノイエにも負けない立派な胸だ。これ以上は2人しか居ない。
「歌姫もそこまで卑下しなくて良いはずよ?」
「……本当に?」
吐血した血液を拭いながらセシリーンはホリーの声に耳を傾ける。
「ええ。それに妊娠すれば胸が膨らむと言うし、その状態ならノイエと互角に戦えるかもしれない」
「……」
無言で自分の胸に手を当て揉みだしている歌姫をホリーはそのままにした。
問題はもう1人だ。あっちは救いようがない。
今だってあまりの衝撃で踏ん張っているがもう少しで崩れそうだ。生まれたばかりの小鹿のような足取りのグローディアに対しホリーは生温かな目を向けた。
「王女」
「大丈夫。大きいだけが全てじゃ無いから」
『小さいのは堅い』
「ふぐっ!」
外から聞こえて来た妹の声がとどめの一撃となり、グローディアは前のめりで倒れた。
「まあ昔はノイエは小さかったのに……あの子本当に成長したから」
ため息を吐きながらホリーは思う。自分の行いを棚上げして思う。
さっさと魔道具とやらを見に行ってはくれないものかと。
~あとがき~
古い電化製品は叩いて直す物です。
と言う訳で…カミューはノイエに何を教えていたのだろう? 何を叩いて直していたのだう?
グローディアはファシーよりも薄いという噂が…。
あくまで噂です。彼女の名誉のために多くは語りません。
ちなみに中の人たちと比較すると、ノイエは上位10名の中に入ります
(C) 2021 甲斐八雲
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