古来より魔女はズルい生き物なのよ

「えっとつまり……どういうこと?」

「だぞ~?」


 エウリンカと言う玩具が使い物にならなくなったので、レニーラとシュシュは並んで座り外を見ていた。

 気づけば結構重要な会話をしていた。たぶん重要だ。意味は分からないけど。


「私たちって生きてるの?」

「だぞ~?」


 2人揃って首を傾げる。


 実は結構前から自分が人の形をした別のモノなのではないかと諦めていた。

 だって何度死んでも蘇るのだ。そう考えるのが普通だ。


 けれど知らない間に外では話が進んでいた。説明が欲しい。


「セシリーン?」

「私に聞かないで。全く分からないから」


 舞姫の呼び声にセシリーンは頭を振った。

 正直分からない。


「さっき居たグローディアは?」

「あっちで戻してるわ」

「根性の無い」


 根性で生理的に受け付けない物を克服するのは不可能だと、セシリーンは思いはしたがレニーラには何も告げずにいた。


「解説を求む」

「だぞ~」


 不満を告げる2人に対しセシリーンは小さく息を吐く。

 と……彼女の耳がそれを捕らえた。体重の軽い人物の足音をだ。




 ブロイドワン帝国・旧フグラルブ王国領



「兄さんがあっちの人なら説明は簡単です。たぶん」

「バ〇ス」


 滅びの言葉だとっ!


 カクンと頭を前に落としロボが停止した。そのままの勢いで崩れるように砂の上に倒れる。

 その言葉を知っているのはこの世界に僕とあれぐらいだ。


「全くこのロボは……喋り過ぎなのよ」


 姿を現したのは小柄なメイドだ。

 突如として湧き出るように姿を現した。


「説明して貰おうか?」

「え~面倒臭いし~」

「良い根性してるな?」


 可愛らしく顎の下に両手を運び、ポーラの姿をした悪魔が尻を振る。

 だが今の僕は本気だ。ハリセンを取り出しそれを構えた。


「可愛い妹を叩くと言うの? 兄様!」

「……」

「叩くの? 叩けるの?」


 叩くことはできる。相手がポーラでもこれだけ煽ってくれば僕の中のツッコミ精神が大炎上だ。

 問題は最近パシパシと叩きすぎている。兄として嫌われたくない。ならば最終手段だ。


「ポーラ! 今からお兄ちゃんは君を叩きます! でも全部終わったらギュッて抱きしめてほっぺにキスしてあげるから許してください!」


 全力で吠えた。リグとホリーの視線がとても冷たいけれど僕は叫んだ。


「ちょっと待ちなさいよ! 何で貴女はそんなにあれに激アマなのよ!」


 慌てた悪魔が騒ぐが遅い。

 ウチのポーラはお兄ちゃんへの優しさで出来ているのだ!


「くっ……こうなれば」


 砂を蹴りポーラの姿をした悪魔が動いた。

 サッと僕の方に駆けて来ると、不意に方向を変える。


「なぁ~」


 間の抜けた声を上げてリグが転がる。原因はポーラが抱き着いたからだ。

 ジタバタと暴れて悪魔がリグの背後を取った。


「その武器を捨てなさい。さもないとこの子の胸を晒すわ!」

「……」

「本気なんだからね!」


 トントンとハリセンで肩を叩くと、冷静なリグが自ら進んでブラを取った。


「何で~!」

「見てるの彼とホリーだけだし」

「恥じらいは? 恥じらいは何処に?」

「正直言うと苦しいから外してたい」

「この裸族が~!」


 そう。リグはそもそも甘えん坊系の裸族だ。常識はあるが裸族だ。


「こうなればそっちの……迷わず脱いでるし!」

「甘いわね魔女? 私はアルグちゃんの前ならば喜んで全裸になれるわ!」


 ポイポイと服を脱ぎ捨てたホリーの言葉は確かにそうなんだけど、その体はノイエのだからね? 僕の前でだけにしてね?


「くっ……こうなれば、最終手段よ!」


 自分の服に手をかけて悪魔がこっちを見る。


「大切な妹を全裸にしてポーラダンスしてあげるわ! それが嫌ならそのハリセンを……ってどうして大きく構えるの? 冗談だと思ってる? 私は本気なんだからね!」

「偶然だな。僕も本気だ」

「ありがとうございました!」


 脳天にハリセンを食らった悪魔が砂の大地に深々と埋まり、それはそれはとても熱いディープキスをした。




「グスンッ……私が何をしたというのよ!」


 上半身をロープで縛った悪魔が砂の上で正座している。

 僕はその背後に立って静かにハリセンを構えた。


「辞世の句は詠むか?」

「詠むか~! 私は何処の罪人だ~!」

「罪が多すぎて理解していないようだな。スパッとその首刎ねてやる」

「嫌よ~! さらし首はいや~!」


 倒れ込んでゴロゴロと砂の上を転がる悪魔をそのまま泳がせる。

 暫くすると動きを止めて起き上がった。


「覚えてなさい。今度絶対にすっごい復讐してやるんだから!」

「なら今復讐してやろうか?」

「いやんお兄様。冗談ですぅ~」


 腹立たしいとはこのことか? 僕の気が済むまで叩いてやろうか?


「で、何よ? 何が聞きたいの?」


 やさぐれた悪魔が胡坐を組んで座った。


「隠していることを全部吐け」

「全部は無理よ。女は秘密を着飾る生き物なのだから」

「ほほう。この状況でまだ語るか?」

「いやんお兄様。許して。ポーラからのお・ね・が・い」


 可愛いウチの妹の名を語るな!


 もう一度ハリセンを構えたら悪魔が両手を上げて降参の意を示した。

 ってロープは? あんなにぎっちり縛ったのに何でもう外れているの?


「縄抜けはオタクの必須スキルよ」

「いや無いから。普通覚えないから」


 だからどうしてそんなツチノコを発見したかのような驚きの表情するの? こっちの方がビックリだよ?


「まあ良いわ。知りたいのはこの右目の秘密でしょう?」

「それ以外も全部吐いてもらおうか」


 好き勝手するこの悪魔には首輪が必要だ。全部吐かせて好き勝手出来ないように、


「そこの2人。私に協力するなら妊娠する方法を教えてあげる」

「そんな言葉でウチのお嫁さんたちが……おいコラ。ホリーにリグよ?」

「全部あの魔女が悪いのよアルグちゃん」

「ボクもそう思う」


 あっさりと魔女に寝返ったホリーとリグが、僕に抱き着いてハリセンを奪った。


「形勢逆転ね」

「ズルいぞ?」

「古来より魔女はズルい生き物なのよ」


 クスクスと笑い悪魔は何処からともなく椅子を取り出した。


「まあ私は約束を守る女だからちゃんと約束は守るわ。それに一度実験したけど……たぶん左目の中に居る“天才”たちの手を借りれば可能なはずだから」

「なら私たちはアルグちゃんの子供を産めるの?」

「ええ。たぶんその体よりも簡単よ」


 ノイエが妊娠するのは絶望的って聞こえたんですが? まあノイエなら姉たちの子供を見て我が子のように可愛がりそうだが……あれ? 乳飲み子を抱いて途方に暮れつつも強く所有権を主張するビジョンしか思い浮かばないのは何故だろう?


 僕が将来のノイエを思い浮かべている間に、ホリーとリグがガッチリと抱き着いて来た。

 嬉しい感触による拘束だが、これでもう完全に逃れることが出来ない。


「なら答え合わせと行きましょうか?」


 真面目な顔して、悪魔が手を動かし閉じている瞼の上から右目に触れる。


「この中には貴女たちの肉体が封じられている。ロボが言っていた通りに冷凍保存に近い状態でね」

「冷凍保存してないの?」

「出来なかったのよ。氷魔法だと瞬間冷凍が不可能なの。だから凍るまでに体細胞が崩れてしまう。それに解凍するのも難しいから……だから人の入れる大きさの瓶を作った。そして時間凍結の魔法を作り出してそれを使った」

「はい?」


 何かすっごいことを言いませんでしたか?


「だからエッチなDVDの企画物とかで見かける、時を止める的な魔法を作って止めたのよ」

「普通に時間を停止したで良くない?前振り要る?」

「ふっ……ジョークよ」


 完全に滑ってますけどね。


「ただしそっちの精神病患者も言ってたでしょ? 右目で左目の面々を見たって」

「言ったわね」


 言ってましたね。


「なら質問。あの日カミューの馬鹿が飲み込んだすべての人間が左目に居るのかしら?」

「「「……」」」


 自然と僕らは息を飲んだ。

 そして魔女は軽く顔を傾け口を開いた。


「私は魔女よ。ただの魔女。どんなに歴史に名を残そうとも出来ないこともある」


 静かに顔を上げた彼女は自虐的に笑っていた。


「全ては救えなかった。だから救えなかった者たちを材料に、魔力にして貴女たちを入れる瓶を作ったのよ。それ以外にも得た魔力を流用したけれどね」


 それは、いつも陽気で馬鹿なことを言っている魔女がらしくないと思えるほどに寂しげな声音だった。




~あとがき~


 答え合わせの時が来ました。で、アルグスタVS刻印の魔女ですw

 気づけばお嫁さんたちがあっさり買収されて負けています。


 意外と真面目な話になるから嫌だったんだよね~




(C) 2021 甲斐八雲

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