このロリコンが~!

 ブロイドワン帝国・旧フグラルブ王国領



「私は凄く悪い女なのよ」

「「「……」」」


 沈黙する僕らに悪魔が顔を向けて来た


「ちょっと? 何でそんな胡散臭そうに私を見てるのよ?」

「自分の胸に手を当てて考えてみなさい」

「もうすぐBカップ」

「何の話だ?」


 Bは言い過ぎだろう? ちょいちょい見るがまだAでしょう?


「私がとても心苦しい過去を語ろうとしているのよ。それなのに」

「で、どこまでが本当の話だ?」

「……」


 スッと悪魔の目が横に向かって泳いだ。


「セシリーン。この馬鹿の心音を随時調べておいて」

「卑怯よ!」

「気にするな。古来より魔女は罠にはめられて処刑されるものだ」

「酷い話よね。魔女が何をしたというのよ?」

「他の魔女は知らないが、お前は面白おかしく好き勝手だろう」

「反論できないわ!」


 大きく両腕を広げ、開き直るなと言いたいわ。


「まあ実際死体を材料にしたのは本当よ?」


 まだ続くのかその笑えない冗談は?

 椅子に座る悪魔は高らかと足を組んだ。


「事実よ。と言うかこの件に関しては私じゃなくてカミューに文句を言って欲しいのだけどね」

「「「……」」」


 組んだ足に肘をついて彼女は頬杖を突く。呆れた感じでため息を吐いた。


「あの日あの馬鹿はあの場所に居た全員を魔眼の中に取り込んだ。ただ私は魔女なの。普通に魔女なのよ。能力不足で全員を受け入れることはできない。だから私は急いで仕分けした」

「仕分けって?」

「……未練よ」


 鼻で笑って悪魔はどこか遠くを見つめている。


「救っても全員が生きることを望むのかなんて私にも分からない。なら一定の基準を設けるとし、どうすれば良いのか? 私が選んだのは『未練』だった」


 椅子から立ち上がり悪魔は歩き出す。


「未練の強い子たちを選択し残すことにした。まあ突貫で作った魔法だから色々とすり抜けた存在も居たけどね」


 リグを指さし悪魔はまた歩く。


「で、残りの子らからは全てを奪った。魔力からその能力、魔法に至るまで全部をね。ただし何度も言うけれど突貫で作った魔法だっのたよ。結果として私が設置した網にかかった者たちの半数が外に出て、残りの半数がその過程で溶けて消えてしまった」


 腰の後ろで手を組んで魔女は空を上げる。


「あのまま生きて行けない存在なのは分かっていたけれど、だからってあんな形で殺してしまったのは私としては不本意だった。だから償いとして色々と頑張ったのよ。

 貴女たちの本体を魔力に干渉されないように封印した。ずっと寝たままで起きたら何年も経過していたとかだと戸惑うだろうと、左目に貴方たちが住める環境を作った。

 でも姉さまの魔力に満たされた環境では、貴女たちの体を攻撃し溶けてしまう。姉さまの魔力でホムンクルスを作りその体に貴女たちの意識と繋いだ」


 ピタッと止まって悪魔がこちらを向いた。


「償いとしたらこれが私の精いっぱいだった」


 たぶんこれは彼女の本心だろう。いつもふざけているがこの悪魔だって元は人間だ。

 人間か? 本当に人間なのか? 最近色々と不安になるぞ?


「ねえ魔女」

「何かしら?」


 黙って聞いていたホリーが口を開き、悪魔が素直に応じた。


「前から疑問に思っていたのだけど……どうして私たちの体を外に出さなかったの?」

「……」


 佇んでいる悪魔は何処かホリーに言葉の続きを促しているように見え、それに応えるようにお姉ちゃんは会話を続けた。


「あの施設でノイエは保護された。それ以降いくらでも私たちを外に出す機会はあったはずよ」

「ええそうね」

「でも貴女は私たちを外に出さなかった。それは何故?」

「え~。だって犯罪者を野放しにしたら面倒でしょう?」


 また顎の下に両の拳を添えて悪魔が可愛らしい感じで振る舞う。


「本音は?」

「本当よ」


 可愛い子ポーズを止めて悪魔が肩を竦めた。


「貴女たちの存在が早いうちに明るみになれば誰が怪しまれる? その子よ。あの当時は私も本当に色々と無茶してて十分に動けなかった。だからその子が狙われることは極力避けたかった」

「……本音は?」

「しつこいな~」


 疑うホリーに悪魔が呆れ果てる。


「だって魔眼の中に居る人材は優秀な者だらけなのよ? 普通囲うでしょ? 私はこの後始祖の馬鹿と決着をつける気で居るんだから確保するでしょ?」

「それで?」

「……私、この精神異常者嫌い~」


 拗ねて悪魔が膝を抱えて座り込んだ。


「分かったわよ。言うわよ。出せなかったの」

「はい?」


 拗ねた悪魔の声に思わず僕が反応してしまった。

 抱き着いたままのリグはもう半分寝落ちしかけているし、ホリーの方は聞くだけ野暮だ。僕を捕まえている手が色々と弄って来ている。そろそろ帰って欲しいんですけどね。


「出せなかったって?」

「言葉の通りよ」


 イジイジと悪魔が砂地に『の』の字を書き続ける。


「この魔眼から飲み込んだ生き物を時間が経過してから外に出すことを想定してなかったの。一時的な仮置きでなら行けたんだけど、長時間置いておくと色々と変質しちゃって出そうと思ったら出なかったの。その原因究明に凄い時間が掛かったの。で、ようやく対処魔法が完成して前回歌姫を出して……成功したけどまだまだダメなの」


 膝を抱いたままでコロンと横になって拗ねる悪魔が止まらない。

 愛らしいポーラの容姿だからずっと見ていられるけど。


「容量、魂の容量が足らなくなると魔眼が機能しなくなるの。瓶に詰めて干渉を避けた気で居たけど、それはあくまで魔力からの干渉のみだったの。本当に大変なんだから……前回の時だってこの子が歌姫の代わりに自分の魂を差し出してくれてどうにかなったけど」

「ちょっと待て? 今なんて言った?」

「ん? この子が自ら進んで『兄様が喜ぶなら』って、魂を差し出してくれて容量不足を補ったのよ」

「……」


 静かにリグを見る。彼女は手を離してくれた。

 静かにホリーを見る。彼女はキスしてから手を離してくれた。


 迷うことなく転がっているポーラの元に駆け寄り、捕まえて脇に抱える。


「ちょっと! この体勢はさっき食べた何かが出ちゃうかっ!」


 ビシッとポーラのお尻を叩く。


「全くこの子は……自分を犠牲にするようなことはお兄ちゃんは絶対に許しません」

「はんっ! んっ! いたっ! いたいっ! いたいって! にゃんっ!」

「返事は?」


 最後に強くバシッと叩いたら……涙声が聞こえて来た。


「ごめんなさい。にいさま」

「次は絶対に許さないからね」

「はい」


 シュンとして居るであろうポーラの体勢を変えて僕の前に立たせる。

 案の定首を垂れてポーラが泣いていた。


「ポーラに何かあれば僕もノイエも悲しいんだから」

「……はい」


 しゃがんで彼女の顔の高さで正面から見る。

 ポロポロと涙するポーラに微笑みかけると、彼女は僕に飛びつき首に腕を回してきた。


「ごめんなさい。にいさま」

「分かれば良いのです」

「はい」


 良し良しと頭を撫でてやり、そっと抱きしめてやる。

 凄く良い位置に白くてふっくらとした彼女の頬が見えた。涙で濡れているけれど。


「あっ」


 唇を近づけてキスしてあげると、驚いたポーラが真っ赤に染まった。


「叩いてごめんね」

「へいきです」


 涙目のままでポーラが笑う。


「だってだいすきなにいさまの……このロリコンが~!」

「続行!」


 また悪魔が出て来たので抱えて彼女のお尻を厳しく躾けた。




~あとがき~


 好き勝手しているようですが刻印さんも色々と大変なのです。

 まあ逆境ほど喜ぶ変態気質ではありますがw


 刻印さんの告白は続きます!




(C) 2021 甲斐八雲

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