赤いの出てない
「今夜も眠らせない」
「落ち着こうかノイエ!」
「嫌」
「一回止まって! 僕の目を見て!」
「……」
何故首に腕を回してキスして来るのですか? 止まる気ないやん。
「ノイエとの約束は昨日の夜に、」
「私の気持ちは終わらない」
「のぉ~!」
圧し掛かられてあっさりと組み敷かれた。
「ノイエ! 止まって!」
「大丈夫。終われば止まる」
「いつ終わるの?」
「……いつかは終わる」
そりゃそうだ。このペースだと僕が死ぬ。
と、ビクッと体を震わせたノイエが僕の顔を覗き込んだ。
「どうして?」
「はい?」
「どうして消えるの?」
「……」
あ~。また自然と僕の心の中を覗いてますか? プライバシーって何ですか? ノイエにならいくらでも見られていいけどさ。
「ノイエ」
「はい」
「実は……男性は枯れると死ぬんだよ」
「!」
今までで一番奇麗で大きな『!』マークを彼女のアホ毛が作った。
「最後は赤い玉が出て……それが出たら死ぬんだ」
「!!」
驚くノイエがちょっと可愛い。
でも赤玉って本当なのかな? 都市伝説だと聞いたことはあるけれど……火のない所に煙は立たぬと言うしね。そう考えると僕は本当に出して死ぬかもしれない。
「ダメ」
ノイエが僕の首に腕を回してギュッと抱き着いてくる。
「消えちゃダメ」
「ノイエが我慢してくれれば平気だよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「……ずっと一緒?」
「一緒だよ」
スリスリと頬に彼女の頬が擦り付けて来る。ただノイエの涙なのか、僕の頬が濡れていく。
「ノイエは泣きすぎ」
「……泣いてない」
「頑固者」
「違う」
「可愛いな」
「はい」
「大好き」
「……」
「愛してる」
「……はい」
ギュッと強く抱きついて来る。
嬉しいんだけど苦しいんだよね。少し緩めて欲しい。
「いや?」
「嫌じゃないけどノイエの顔が見れない」
「今はダメ」
「どうして?」
「ダメ」
「答えなさい」
「嫌」
「もしかしてまだ泣いてる?」
「泣いてない」
「なら?」
「ダメ」
もう本当にノイエは、
「何か甘々で腹立たしいっ!」
「ぐふっ」
「……」
不意の衝撃に僕は息を詰まらせた。
ノイエが防御しようとしてキュッと首をね……何かが終わる気がしたよ?
「何さっ! 2人してそんな甘い空気を漂わせて!」
僕らの間に割り込んできたのは朱色の髪をした存在だ。
あの~? そんな薄手の格好でそんな無理をすると、ほら? 胸がこぼれ出た。
プンスカ怒ったレニーラが、強引に僕とノイエを引き離す。
「旦那君はノイエだけのものじゃないの!」
引き剥がしを成功したレニーラは、体を起こしてベッドの上に座る。
自分の姿に気づいたのか、慌てる様子もなく悠然と服を直して胸を隠した。
「違う」
対するノイエも座って正面から姉を見る。
本日のノイエは白いスケスケのキャミソールだ。ベビードールシリーズをもう何周も楽しんだので、ここで初心に帰った。と言うかノイエは今夜もする気満々だったから、僕を誘惑する衣装なのだろう。誘惑する間もなく襲い掛かって来たけどね。
「アルグ様は……誰のもの?」
「こっち見て聞かない。自分で考えなさい」
「はい」
視線を戻してノイエのアホ毛が左右に揺れた。
「アルグ様は私のもの」
それで良いんです。良く出来たぞノイエ!
ただレニーラがニヤリと笑う。悪魔のようにだ。
「そうなんだ。ノイエは全部独り占めするんだ……」
「えっ?」
「お姉ちゃん悲しいな。ノイエは全部独り占めするんだね?」
「……違う」
ポロポロと涙をこぼすレニーラも凄い。
どう見ても嘘泣きだと僕の目から見ても間違いないが、素直なノイエは騙される。慌てた様子でアホ毛が揺れ動く。
「アルグ様はみんなのもの」
「ノイエ~」
抱き着いてノイエを押し倒し、チュッチュッとキスするレニーラは確信犯だ。
10日以上僕を独占したノイエとしては、十分に堪能したからと気が緩んでいるのかもしれない。
ノイエにたっぷりと感謝のキスをし、体を起こしたレニーラがこっちを見つめて妖艶に笑う。
「次は旦那君に~」
「チョップ」
「のごっ!」
迎撃がレニーラの顔面に直撃した。
顔を押さえてベッドの上を転がり回るレニーラは……これが二大姫と呼ばれた片割れだとか、現役を知らない世代が見たら誰も信じてくれないだろうな。
「酷いな旦那君!」
「気にするな。お前は痛い方が好きだろう?」
「そんなことないから!」
と言うかノイエの中の人でMって居るのか? 基本Sか変態しか居ない気がする。
「叩かれて喜ぶなんて……少しぐらいなら良いけど」
何故かレニーラが頬を赤らめてそんなことを言うのです。ソフトMが目の前に居ました。
「レニーラもあっちの人だったんだね」
「どっちよ!」
ポンポンと肩を叩いたら遊ばれたと気付いた彼女が怒る。
「で、旦那君?」
「ほい」
胸元で腕を組んで、下から掬うな。巨乳自慢か?
「私で鎮魂祭を企んでいるらしいけど……踊らないからね」
「はい?」
この子は何を言い出してますか?
「だって面白くないんだもん。舞台は前に使った物だし、あの時と違ってセシリーンの歌も無いしね。目新しさが無いから気乗りしない」
膝を抱いて座り直しながら、レニーラ踊りたくない理由を告げた。
「なるほどなるほど」
「だから私が踊りたくなるような何かがあれば踊るけど……旦那君?」
スッとレニーラに近寄り、力任せに彼女を抱きしめて体勢を変える。脇に抱えて頭は背後へ。
つまり形の良いお尻が見えるのです。
「ちょっと旦那きゅっ!」
お尻を叩いたら、レニーラの声が跳ねた。
この我が儘娘は調子に乗って。こうか? こう叩かれるのが良いのか?
ペシペシと叩いていたら、ノイエが僕の手を掴んで止めた。
「アルグ様。お姉ちゃんが……」
僕の背後に視線を向けたノイエが掴んでいた手を離す。
「大丈夫。笑ってる」
「違うからね!」
「どこかで聞いたことのあるような嘘をっ!」
ペシペシと重ねてお尻を叩いたら、レニーラが熱い吐息を吐くのです。どうやらレニーラは尻を叩くと吐息を吐き出すらしい。
ノイエも協力してくれてレニーラのお尻を叩いて堪能する。
ただ叩くと言ってはいるが、本当に軽くだ。
実際レニーラのお尻は叩かれた衝撃で薄っすらと赤くなった感じにしか見えない。これならお風呂に入ってもそこまで痛まないはずだ。
「アルグ様」
「ほい?」
お尻を叩いていた手を止めて、ノイエがジッと赤い桃を見つめている。これは良い桃だ。
「大きい」
「ちょっとノイエ! 誰の何が大きいか言いなさい!」
「お姉ちゃんのお尻」
「迷わず即答したよ~!」
妹の言葉がショックだったのか……レニーラがまた嘘泣きを始める。
「ノイエさん」
「ごめんなさい」
「僕じゃないでしょ?」
「はい」
クルっと僕の背後に移動したノイエがレニーラに謝る。
ただ大きいと言うが大きすぎる訳じゃない。何と言うか筋肉の詰まったいい感じのプリッとした奇麗なお尻だ。形も良いし踊り子だけあって弛みもない。
自然と撫でていると……また背後から熱い吐息が。
「旦那君……」
「甘えた声を出してもダメです。僕はノイエとの連戦で現在賢者の時です。性欲など微塵もありません」
悟りを得て、遊び人だった僕は賢者へとたどり着いたのだ。
「ここまでその気にさせておいて!」
「勝手にその気になる方が悪いのです」
「ぬがぁ~! そんな言葉で納得いくか~!」
「暴れるでない」
「暴れるわ~!」
ジタバタと暴れた挙句にノイエの協力を得て脱出したレニーラが僕に襲い掛かって来た。
結局こうして延長戦が強制的に……ビックリだよ。本当に死ぬよ?
「アルグ様」
「なに?」
「赤いの出てない」
「このままだといつか出るからね?」
「はい」
参戦せず、ジッと観察していたノイエが何を考えているのか僕には分かりません。
~あとがき~
作者の若かりし頃にはそんな都市伝説があったのです。赤玉が出たら…終わるとw
田舎暮らしの主人公は周りにご年配の方も多くそんな都市伝説を聞いていたのでしょう。
で、レニーラです。踊る気ありません。
だって目新しい物が何もないんだもん。そんなのつまらないし~とのこと。
そんなことを言いだせば尻だって叩かれるのです。
ジッと観察しているノイエの様子を想像したら、何か可愛く思えたのは作者だけ?
(C) 2021 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます