この右目の封印が!
ユニバンス王国・王都内スラム廃墟
頭がズキズキと痛む。側頭部がかなり痛い。
『何か怪我して~』とか言ってた気がするけど、本当に怪我するとか僕の運ってどうなってますか?
今回もノイエが原因だしね。ノイエだから怒れないけど。
ゆっくりと目を開ければ……空が見えた。
体を起こせば何もかもが終わっている感じだ。
亡者たちがゆっくりと融けて地面に戻っている。何故に地面なのかは分からない。
問題は体を起こしたらキング様と目が合った。
何故か僕のことを睨んでいるのです。成仏してください。お願いします。
慌てて逃げ出そうとして足腰に力が入らないことに気づく。頭を打ったからな……大丈夫か?
これは帰宅してからリグの治療を受けないといけない。
出来たら5日間以上の安静を求む。何なら10日以上でも良い。ノイエへのノルマを加味して半月ぐらいの休みが必要だ。
「アルグ様っ!」
「ほい?」
おたおたとして居たらノイエに呼ばれた。顔を向ければ納得だ。
地面に座り込んだノイエが……必死に支えていた。消えかけている実の姉をだ。
その横でちょこんと座っているユーリカはまだ大丈夫そうだから放置されているのだろう。君はほら、死にたてほやほやだからまだ頑張れるんだよ。たぶんきっと。
振るえる足を動かしノイエたちの元へと向かう。
不謹慎かもしれないけれど、消えかけている義姉さんはとても儚く見えて凄く美人だ。
「死者に鞭打つのね?」
「全力で褒めてますけど? 美人って」
「だったら余計なことを言わずに『美人だ』で良いでしょう?」
「余計なことを言っちゃうのが僕の持ち味です」
馬鹿話をしながら僕も彼女の傍に座る。
まだ頭がグラグラと揺れて気持ち悪いけど我慢だ。
これから僕はベッドでの生活を送る。そう決めている。
「ねえ? 馬鹿な義弟」
「何故に皆さん僕のことを『馬鹿』と呼ぶのでしょうか?」
「胸に手を当てて考えてみなさい」
「はい」
手を伸ばし姉の胸に手を当てる。そこそこの大きさだ。で、柔らかい。
「……自分の胸によね? 普通?」
「最後ぐらい笑って終わる方が良いと思って」
何よりしみじみとした空気が嫌だと言ったのは貴女です。
「そうだったわね」
深く息を吐いて義姉さんが口を開く。
「あの時とは違って妹と馬鹿な義弟に見送られるんですもの……悪くないわね」
「前回もそれなりに幸せだったでしょう?」
「そうね。でも心残りが凄かったから」
「大切な妹を残して逝くのは誰だって辛いと思いますよ」
「そうよね」
ヒシっと彼女を抱きしめて居るノイエに対し、義姉がその手を動かし妹の頬に触れる。
「本当に奇麗になったわね……ノイエ」
「はい」
「それにこんなに……えっと……元気? じゃなくて健康? じゃなくて」
これこれ姉よ。妹に対して言葉に困るな。
「立派ね。そう立派になって嬉しいわ」
頑張って絞り出したわ~。
「煩いわよ」
「ごめんなさい」
キッと睨まれたので黙ることにする。
大丈夫。完全に空気扱いされているユーリカよりかはマシだ。マシか? 自分の頭部を持って座っているとかツッコミどころ満載でスルーされているのは良いのか?
「煩いわよ」
「心の声まで叱られたらたまりませんって!」
仕方なく無になる。数秒と持続できないけれど。
「もうノイエは大丈夫よ」
「いやっ」
「我が儘言わないの」
「いやっ」
泣きながら姉との別れを拒絶するノイエは……見てて居た堪れない。
静かに視線を逸らしたら、ユーリカの横にそれが居た。何故か胸の前で十字を切る我が家の妹様だ。中身は諸悪の根源だが。
「何処から湧いて出た?」
「今日は見学するって言ったでしょ? だから上空をクルクルと?」
それは良い。腑に落ちないが宣言通りだ。
「何故居る?」
「だってこの子から見れば義理の姉さんでしょ? 家系図見る?」
そうでしたね。
「で、何故にお前が?」
「だってこの子が出るの拒否してるんだもん。『お兄様に本心を知られたからもう我慢しません。今度から実力行使で誘惑します』って。暴れるなチビッ子!」
ポーラの中も中で色々と大変らしい。
「それにね」
1人コントをしていた馬鹿が動きを止めて立ち上がる。
そっと姉を抱きしめて泣いている姉妹の様子を、らしくないほど静かな目で見つめた。
「私だって別れが辛いことぐらい理解している。それが永遠の別れであれば尚更でしょう?」
「そうだね」
「だ・か・ら」
何故か指を立ててチッチッチッと左右に振った。
「私がすっごく悪い魔女だっていうところを披露してあげるの!」
「おい待て。お前は何かしら遊ばないとっ」
「見様見真似の封印魔法!」
「にゃがっ」
金色の拘束具で僕は完全に固定され地面を転がった。
「止めろ~! この魔女が~! にゃがっ!」
今度は口まで!
「く~くっくっ! この私……刻印の魔女イーマが言うわ! ノイエ・フォン・ドラグナイト!」
「……なに?」
「お前は姉を救うためなら、何をっ」
「何でも!」
即答だ。ノイエは絶対に迷わない。特にこんな時は危ないほど迷いが無い。
おかげで話の腰を折られた馬鹿賢者が、僕に救いの視線を向けて来た。知らん。頑張れ。
「えっと……良いの?」
「良い! 何でもする!」
「あの~。少しは話を聞いてからでも?」
「平気。だから!」
姉を抱きしめてノイエは真っすぐに悪魔的存在を見つめる。
「助けて! 私は……お姉ちゃんに、今まで何もしてないから!」
ノイエの本心を聞いた。たぶん今のはノイエの本心だ。
「……馬鹿ね。私は貴女からいっぱいの幸せを貰ったわよ」
「違う。私、何もしてない」
「それでもよ」
苦しそうに笑う義姉がノイエの頬を撫でる。
「私は貴女が居たから頑張れた。生きていられた。楽しかった。嬉しかった。何より……幸せだった」
「ダメ!」
消えかけそうな姉にノイエがすがる。
と、何故かユーリカが僕の拘束を解いてくれた。
解けるんだこの魔法? あら? 拘束具がベルト式なんですけど? 精密すぎるだろう?
真面目か!
「何でもするから!」
「えっと……」
「頑張れ~。自称凄く悪い魔女~」
口の拘束も取れたので横から茶々を入れる。
「何か迷いが無さすぎて罪悪感が半端無いんだけど?」
「知るか。悪ぶるにしても悪役をするにしても最後までやれ」
「分かったわよ」
何故拗ねる? やりだしたのお前だろう?
「なら貴女の姉を救ってあげる。ただしどんな風になるのかは私にも分からない。もしかしたら救えないかもしれない。それでも良い?」
「はい!」
誘う方が迷っている。でもノイエは迷わない。1%でも可能性があれば突き進む。
「本当に……見てて清々しくなるわね」
苦笑して馬鹿な魔女が宙に文字を綴る。
いつものとは違いかなりの長文だ。ついでに魔法陣らしき模様まで刻んで……何がしたいの?
「雰囲気を出してみました~」
「ハリセンでしこたま殴られたくなかったらさっさとやれ」
「へいへい」
何かを信じた僕が馬鹿でした。
でも魔女は綴った言葉を押してそれを魔法にした。
義姉の体に触れた魔法はキラキラと虹色に煌めき……そして消えた。
「で、魔眼発動!」
キラーンと馬鹿の右目が光って……ドロッとした感じで彼女の右目からスライム状の何かが溢れ出す。
それは地面を伝い消えかけていた義姉の足元から纏わりついて……何故に服を融かす?
「サービスカット~!」
「真面目にやろうか? ねえ?」
ハリセンを取り出して構えたら『ちぇ~』とか言って馬鹿のスライムが全てを覆った。そして元の右目へと戻っていく。
最初から何もなかったかのようにノイエの腕の中から、彼女の姉が消え失せた。
「うっ!」
すると突然右目を押さえて馬鹿が蹲る。
「どうした?」
「私の右目が……この右目の封印が!」
「どこの厨二だ? そろそろ尻を出せ。全力で殴る」
頭の中がグラグラするけど気にしない。
僕は全力でこの馬鹿の尻を殴ると決めたのだ。
「あの~。そろそろ私も辛いんですけど?」
そっと自分で自分の頭部を撫でるユーリカの声が空しく響いた。
~あとがき~
術者が消えればその魔法は効力を失う。
目覚めたアルグスタは消えかけている義姉に気づく。
で、ポーラはノイエの義理の妹登録なのでノーフェは義理の姉ですから!
わっるい魔女は今回もその魔女っぷりを…ノイエが真っ直ぐ過ぎて空振りましたw
(C) 2021 甲斐八雲
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