ダメな見本だわ~

 ユニバンス王国・王都内スラム廃墟



「こんなはずじゃない。こんなはずじゃない。こんなはずじゃ……」

「お~い。爺?」

「こんなはずでは無いのだ!」


 絶叫した爺に僕は呆れ果てた視線を向ける。やっぱりだ。

 自分が扱う物ぐらい把握していろと言いたい。


「おい枯れ木? お前もしかして幽霊とか怨霊とかの違いを把握してないだろう?」

「……何を言っている。人は死ねば誰もが恨みを抱え」

「はいそこ間違い」

「なに?」


 うわ~。最悪だ。


「それだとあそこでちょっと亡者のような動きをしている2人が、さっきまで普通に動いていたことの説明がつかないじゃん」

「だからおかしいのだ! さてはお前が何かしらの魔法で!」

「んなもん使ってないよ。馬鹿か? 馬鹿だったな」

「何だと?」


 ノイエに頼んで廃材の丸太を運んで来てもらって椅子にする。

 夫婦並んで腰かけて……あっちの姉2人はまだダメージが抜けていない。徘徊中だ。


「ノイエ」

「はい」

「近づいてきたら投げといて」

「……2人にも?」

「判断はノイエにお任せします」


 亡者チックな動きをしている姉たち以外に向けてノイエが端材を投げて亡者を潰していく。

 何の抵抗もなくあっさりとやってのけるノイエさんは亡者に対して何の抵抗も無いらしい。


「さてと……どこかの自称馬鹿なネクロマンサーは霊体のことを理解していないご様子だ。だから元幽霊体験者の僕が語ってしんぜよう」

「何を語ると言うのだね?」

「そうだな……」


 まずは徘徊しつつ僕に向かい接近して来る亡者を指さす。


「あれは亡霊や怨霊と呼ばれる悪しき存在だ。僕が原因で間接的に死んだ、僕のことを殺したいほどに恨んでいる人たちなどだろう」

「それが黒い影の正体だろう?」

「違うよば~か。ならあっちの2人の姉は何なんだよ?」


 ノイエの精神破壊発言で亡者になってるけど。徘徊してるけど。


「あの2人はノイエに恨みなんて持っていない。ノイエのことを愛し大切に思い、死んでも現世に残って見守っている。それを僕が居た世界では守護霊と呼ぶんだよ。背後霊とも呼ぶけど……守護しているから守護霊だね!」


 何となく命の危険を感じて僕は『守護霊』推しでいくことにした。

 姉の2人がこっちを見たとかそんな事実はない。決してない。


「あの2人はノイエを愛しているからこそ彼女を襲うことは絶対にない。ちなみに僕はこの国でも有数な嫌われ者なのでこのように群がってきますが」


 ノイエの腕が振るわれる度に亡者の腰から上が大変なことに……お子様には絶対に見せられません。


「そんな訳で一つだけ分かりました。お前……自分が使っている魔法の本質を理解していないだろう?」

「そんな物など関係ない! この異世界魔法は凶悪で使える魔法だ!」

「うわ~。ダメな見本だわ~」

「煩い煩い煩い煩い煩いっ!」


 全力で吠えて爺が肩で息をする。見苦しいわ~。


「この魔法は強いのだ! 我が一族に伝わる最強の魔法なのだっ!」

「どんなに最強でも使う人間が馬鹿だと弱くなるってもんだよ」

「愚弄するかっ!」

「馬鹿に馬鹿って言ってるだけだよ。ば~か」

「煩いっ!」


 頭の髪を噛み毟り爺が吠える。


「私の力はこんな物ではない! まだまだ奥の手があるのだ!」


 何その死亡フラグ? 頑張るな最近の爺は。


「まさか人よりも強い『黒い影』とか扱う感じですか?」

「……っ!」


 目を剥いて枯れた木が驚愕してみせる。まさかのビンゴかよ?


「この国だと人以上に強いのはドラゴンってなるんだけど……そんな知恵の無い化け物には手を出さない方が良いぞ? 絶対制御できずに噛みつかれて終わるから」

「煩い煩い煩い煩い煩いっ!」


 図星を刺されたからってそんなに怒るなよ?


「あと言っておくけど……僕ってドラゴン相手だとこの国でも有数のドラゴンスレイヤーだから。たとえ腐ってても全て駆逐してあげるけどそれでもする?」

「そんなことがあり得るかっ! 私を虚仮にしおってからに!」


 うん。ドラゴンゾンビに僕の祝福が効くのかは謎だけどね。

 何となくドラゴンだったら全部に効く気がするんだよね。つまり僕最強?


「私を守れ化け物どもよ!」


 何かしらの魔法を放ち爺の周りに亡者の大群が。

 少し緊張しながら視線を動かしたら、ノイエの姉たちは互いに肩を叩いて慰め合っていた。


 あっちに合流してたらどうしようかと真剣に悩んだことは……ひぃ~! 違うんです義姉さん!

 今のは義姉さんたちの心の傷を慮ってのことで他意は無いのです。だからそんな怖い目で睨まないで!


 急いでノイエの盾を装備する。

 あの義姉ならばノイエという存在はメデューサの頭ほど強力なはずだ。


「アルグ様」

「ほい?」

「する?」


 咄嗟にお嫁さんの胸を掴んでいました! でも鎧の上からですから!

 そう言えば義姉さんもユーリカも程よい大きさの良いサイズでございますね。褒めてますからお義姉さん!


「それでどうするのかしら?」

「とりあえずその指をバキバキするのを止めて話し合いたいです」

「ちっ」


 義姉も舌打ちですと!

 君たち2人なんか色々と似すぎてないですかね? ねぇ?


「ん~。こっち」

「ノイエさん?」

「枕」

「分かってるわノイエ。さあ好きにして」

「「……」」


 ノイエがユーリカの胸に飛び込み、それを彼女は満面の笑みで抱きしめる。

 あの~お義姉さん? ノイエはただ何となく抱き着いただけであって他意は無いと思います。


 逃げて~! ユーリカ逃げて~! 何か義姉さんの目が笑えない感じになってるから~!


 ノイエを抱きしめて居るユーリカの首に腕を回し、お義姉さんがグイグイと締め上げる。


「落ち着いてお義姉さん。ノイエ~」

「なに?」

「こっちの枕も良い感じだよ?」

「……今はこっち」


 ユーリカの頭が取れちゃうから! 僕の心が伝わっているのなら僕を助けると思って!


 しばらくユーリカの首を締め上げた義姉さんが腕を離した。

 ブランと何かがユーリカの首から垂れてぶら下がっているけど気のせいだ。

 首の皮一枚で繋がっているとはこのことを言うのかな?


「全く……本当にノイエの為なら簡単に命を捨てる馬鹿ね」

「それって誉め言葉では?」

「……褒めてなんていないわよ」


『フンッ』と鼻を鳴らして不機嫌そうに義姉さんがこっちを見る。


「あの日だってこの馬鹿はノイエに剣を握らせて自分の胸を刺させたのよ?」

「あ~」


 思わず声が出た。

 そう言えば義姉さんは背後霊……守護霊の大先輩でしたね。つまり見てたの?


「見てたわよ。どこかの馬鹿が命がけでノイエを救おうとしていた一部始終なら」


 呟き彼女はハッスルしている枯れ木に目をやる。

 つられて僕も視線を向けると……老体に鞭打って頑張ってるな~。あんなに力まないと扱えない魔法って何なんだろう? 異世界魔法でしたね。


「この馬鹿はノイエとの決闘を自分の手で汚したのよ」

「えっと……それは最初から彼女が死ぬ気だったからだと」

「それでもよ。貴族の者であるなら最低限の決まりがあるのだから」


 決闘の作法って奴かな?

 そんな物をする気も受ける気もない僕はもちろん作法なんて知らない。知る気もない。


「この馬鹿は……開始するや否や自分からノイエが持つ剣の先を掴んで自分の胸に押し付けたの」

「潔いですね」


 斬新な自殺だ。

 何か最近聞いた話だとそれに近いことを先生がやってたな。自分に腐海とか潔いわ。


「それを切っ掛けにしてノイエに施されていた魔法が発動した」

「はい?」

「私は魔法のことは詳しくないけれど、事前に準備していたみたいね」


 言われて何となく引っかかる。


 偶然先生のことを思い出したからだろうか……もしかしてその魔法って先生が一枚噛んでいるのか? あの人は本当に不器用にもほどがある気がして来たわ。


「魔法が発動してノイエは今の状態になったのよ」




~あとがき~


 強い魔法=最強…と言うある種脳死なことをしていたネクロマンサー。

 確かに幽霊のこととか詳しく知らない相手からすれば脅威なんですが、どこぞの馬鹿は幽霊していた時期もあるので動じません。

 それに自分にルーセフルト家の人たちが纏わりついていても全員『他人』ですから。


 で、守護霊をしていた姉は全てを見ていたのです。あの日のことを




(C) 2021 甲斐八雲

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