……賢者の石?

 終わった。共和国で頑張ってくれた皆様へのお返しを無事に終えた。

 レニーラも求めて来たが何もしていない子は無視です。実際ファシーのように何も求めない人も居たけど……ホリーの暴走はちょっと問題な気がする。自重と言う言葉を思い出しと貰おう。うん。

 あれ? どうして涙が? 自重は……求める物じゃ無いんだな。


「……」


 ブスッとした感じのポーラがベッドに座り膝を抱いている。


 このところ色々とあって相手が出来なかったうえに今日の学院放置プレイは流石にお怒りのご様子だ。

 ただ見学自体はちゃんと出来たらしい。アーネス君が案内してくれて授業風景とか見れたと言う。

 でも不機嫌です。少しだけ頬が膨らんでます。


「さあノイエ」

「はい?」

「あそこで拗ねているポーラを笑顔にするのです。それがお姉ちゃんの役目です」

「はい」


 グッと拳を作りベッドに移動したノイエが、ポーラの頬を抓んで強制的に笑顔を作る。

 ハリセンを取り出してパシッと一発入れてみた。


「失格です」

「む~」


 膨れっ面が2人になったぞ?


「こんな時はノイエがして貰うと嬉しいことをするんです」

「……はい」


 ノイエがポーラの寝間着に手を伸ばし脱がせようとして、慌てたポーラが必死に抵抗する。

 もう一発ハリセン追加でノイエを鎮めた。


「それはポーラには早すぎます。色々とダメです。僕が許しません」

「む~」

「そうじゃなくて、ちょっとしたことで嬉しいなってことをすれば良いんです」

「……はい」


 三度目の正直か、二度あることは三度あるか……ノイエがポーラを抱きしめると、チュッと彼女の頬にキスをした。

 突然の不意打ちで顔を真っ赤にしたポーラが可愛いな。


「それが正解みたいだぞ」

「はい」


 次は額にする。増々真っ赤になったポーラは茹でたてのタコのようだ。


「ねえさま。もうっ」


 ポーラの口が塞がった。完全にホールドしたノイエがガッツリとキスをする。

 グルグルとポーラが目を回すのを確認しつつ、ノイエが唇を離したら教育的指導と言うことでハリセンを一発入れておいた。


「むっ?」

「それもポーラには早すぎます」

「……難しい」


 ノイエは珍しく本音を愚痴って、目を回しているポーラを抱きしめてベッドに横になった。

 ぶっちゃけそれで良かった気もする。ポーラはただ甘えたかっただけだろうに。




「全く……自分の専門は魔剣なのだがね」


 肩を竦めたエウリンカは視線を魔女へと向ける。

 強制的に連れて来られ、削れた下半身の治療もリグが舐めてくれてようやく終わった。ただあれは痛すぎるので次回からは出来れば遠慮したい。それに変な気分にもなる。


 何でも話し合いたいとのことだが……いつも通りシュシュを背後に置いている魔女を見て、エウリンカは気づいた。『終わったら融かされる』と。


「アイルローゼ」

「何かしら?」

「話し合いの前に1つ聞きたい。どうして自分はいつも貴女に融かされるのだろうか? 自分が何か気に障るようなことでもしたのだろうか?」


 本当に分からないと言いたげに告げて来る相手の言葉に内心イラッとしながら、アイルローゼはエウリンカを睨む。


「貴女がノイエにしたことを忘れたと言うの?」

「あれか。あれは確かに悪かったと思っている。何よりカミューに死ぬほど殴られたしな」


 全身に受けたあの激痛をエウリンカは忘れることが出来ない。本当に良く生きていたと思う。


「何より自分もノイエの中に居る身だ。ノイエを素材に魔剣などしたくても出来んよ」

「でもその言葉を信じられないわ」

「なら用件が終わったら元居た場所に戻ろう。それで良いか?」

「……この一件が片付いたら考えるわ」


 空手形を切ってアイルローゼは本題に入る。


「貴女の魔剣でノイエの記憶と感情などは封印されている」

「そのはずだ。絶対の保証は出来ないがね」

「最近外に居る馬鹿弟子が、ノイエとファシーの行動が似ていると指摘があったわ」

「ほう」


 興味を持ったエウリンカの聞く気が増す。


「施設に居た頃……ノイエとファシーは良く一緒に行動していた」

「ああ。ファシーが愛でていた小動物を良く2人で世話していたと聞いた」

「ホリーの推測では、その時の刷り込みでは無いかと言うことよ」

「なるほど。空っぽのノイエが刷り込んだ動作を真似て動いていると」

「ええ」


 壁に寄りかかり腕を組んでアイルローゼは化け物を見る。


 魔剣しか作れない魔法使い……その魔剣がこの世の魔法の理に反するエウリンカは、本当の意味での化け物なのだ。

 これほどの狂った力を扱えるのは、三大魔女と呼ばれる存在のみだ。


「アイルローゼ」

「何かしら?」

「もう1つの可能性がある」

「聞きたいわね。その可能性を」


 床に座ったエウリンカは、両足を開き『ハ』の字にして足を延ばす。


「魔眼の効果……」

「これの?」

「ああそうだ」


 自分たちが居る魔道具のくくりでは縛りきれない物体……それが魔眼だ。


「君はこの魔眼をどう思っている?」

「三大魔女の誰かが作りだした異質な魔道具かしら」

「そうだ。普通に考えればそうなる」


 ニヤリと笑ったエウリンカは、自分の背中に手を回し黒い髪を掻き上げると……ひと振りの剣を取り出した。


「自分は異質とは別の可能性を考えていた」

「つまり?」

「ああ。異世界魔法だよ」


 クルッと切っ先を床に向けエウリンカは剣を突き刺す。

 ズブリと柄まで床に突き刺さった。しばらくすると床が柄まで飲み込み……消えた。


「見ての通りだ」

「分からないわよ」

「うむ。実はここで作っている魔剣の材料は全て魔眼の欠片だ」

「……」

「外に居た時とは違い好きな物が何でも作れる。この意味が分かるかね?」


 軽く両腕を広げお道化る化け物にアイルローゼは戦慄した。

 それは空想上の産物のはずだった。古い書物に名は残っているが存在していないはずの物質。


「……賢者の石?」


 魔女の返事にエウリンカは軽く笑った。


「ああ。三大魔女の1人、刻印の魔女がこの世に残したと言われる万能の素材。それを用いればどんな不可能と思われる魔法ですらも作りだせると言う奇跡の物質さ」

「つまりノイエは……」

「あくまで可能性さ」


 話は終わりだと言いたげに、エウリンカは立ち上がると魔女の前を過ぎて足を止めた。


「どっちに向かい歩けば元に戻れるかね?」

「……もう少しここに居なさい。実験よ」

「面倒は嫌いなのだがね」


 フワフワと揺れながら逃げ出したシュシュを羨ましがりながら、エウリンカはやれやれと頭を振った。




~あとがき~


 どっかの刻印さんは自分のことを何と紹介していたでしょうか?

 そんな訳でファンタジーなら必ずと言っていいほど出て来る万能の物質、賢者の石です。

 アイルローゼとエウリンカは魔眼の謎に挑むみたいっすね




(c) 甲斐八雲

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る