色んなノイエを独り占めするんです!

~注意~


 今回は、主人公がコスプレさせたお嫁さんを愛でるお馬鹿な話です。




『僕ら夫婦は常に一緒である!』


 我が家の家訓にしても良いほどだ。むしろ家訓とすべきだ。

 だからお客さんが居ようが僕ら夫婦は同室であり、他者の侵略は受け付けない。


『出来たら全員一緒で……』などと言う変態娘にはお仕置きが必要だ。

 本当にすると喜び出すから、罰としてオーガさんと同室にして押し込んだ。

 毎晩晩酌に付き合わされるモミジさんが毎朝二日酔いで死んでいるが、僕は気にしない。


 頑張れモミジさん。きっといつか良いことがあるさ。


 ちなみに先日のノイエ対オーガさんのバトルは……ある意味ノイエの圧勝で終わった。

 と言うか、最初は力で圧倒されたノイエが大ピンチになって、過保護な家族が出て来たのだ。

 赤髪のノイエに変化した時点でオーガさんは負けを認めて手を挙げた。

 先生が出て来て『勝てない』と、正しい判断をしてくれて助かります。


 それから毎日ローテーションで彼女らは闘っている。

 モミジさんが全敗中で、ノイエとオーガさんが勝ちと引き分け中だ。

 ある意味ノイエの連勝中ではあるが、結果彼女自身が勝ってないから引き分けにしておこう。


 そして僕は今夜もノイエと勝負するのだ。

 こちらは僕1人。相手はノイエとメイドたち全員。

 決して負けられない戦いがこの扉の向こうにある。


 仕込みを終えたメイドたちが退避した今……敵はノイエのみだ。


「さあ負けないぞ」


 扉を開けて中に入るとノイエが居た。


 ってそう来るかっ! あのメイドたちは!


 エプロンドレスにも見える白いエプロン姿のノイエが裸エプロンしていた。


「どう?」

「危ない。耐えた。僕は負けない!」

「……」


 ブスッとしたノイエが腰の後ろに手を回して……その下にまたエプロンだと? 面積を縮めて僕の何かを目覚めさせる気かっ!


「これは?」

「……ふはは。それで負けると思ったかノイエ!」


 もうちょっとで負けを認める所だった。


 メイドたちめ……僕が負けを認めたらボーナスが得られると知って本気で悩殺しに来たな?

 だが甘い。それくらいでこのアルグスタさんぐあっ! エプロンを解いた下には紐にしか見えない物は何だ? あれは水着か? 下着なの? どっち?


「……恥ずかしい」

「……負けで良いです」


 プラス可愛いお嫁さんの恥じらいの言葉まで追加されたら負けを認めるしかない。

 僕はあっさりと全面降伏して、今宵もノイエに襲われた。




 ダメだ。気づけば毎晩負けている気がする。

 ここは温泉付きの保養所だからHPの回復に事欠かないが、そのうち僕の何かが尽きてしまう。

 だが本気になったメイドさんたちは、この日の為に集めるだけ集めたコスプレ衣装……では無く、各国の特徴のある衣服を駆使してノイエを使い僕を魅了して来る。


 最初ノイエに服を着せるのを渋っていたメイドさんたちだが『ノイエが僕に勝ったら手当てをはずみます』の一言で目つきを変えた。

 負けても良い戦いは見事に連敗となり、昨夜もノイエに負けた。


「だがあと1回だ。今夜の僕は決して負けない」


 そもそもノイエと言う最高級の素材なのだ。負けても仕方ないだろう。

 しかし今夜の僕は本気だ。最後ぐらいは夫としての意地を見せると決めている。


「それにもうノイエの色んなパターンを見た。見慣れた。これでもう僕を打ち破る衣服など無い!」


 拳を握り締めて扉を開く。


「なん……だと?」


 最終日に残してあった最終兵器は、僕の脳髄を一撃で粉砕した。

 これか……これがメイド長が言っていた例の物かっ!




「アルグスタ様」

「ん」

「ご注文の衣服が届きました」

「マジっすか?」


 流石メイド長だ。本当に各国の変わった衣服を集めてくれたのか。

 だが届けに来た彼女の視線がとても冷たい。冷淡と言っても良い。


「ええ。わたくしの仕事は完璧です」

「……何故に見下し系の視線なのですか?」

「はっ」


 鼻で笑われて完全に見下して来た。


「あんな衣服で妻を辱めて玩具にする男性の気持ちが理解出来なくて」

「……そうか」


 確かに分からないだろう。メイド長よ。


「だが強いて言おう」

「聞きましょう」

「僕は可愛くて綺麗なノイエに色々な服を着せて遊びたいのです!」


 全力の宣言に執務室内が沈黙した。


 遠征中の馬鹿兄貴の所から預かっているパルとミルの視線は汚物を見る感じだ。

 クレアは隣りに居るイネル君に『わたしも着た方が良い?』とか質問をしている。


 そんな部下たちの侮蔑な視線などに屈しない。鋼の心を見せてくれよう!


「だから色んなノイエを独り占めするんです! 僕だけのノイエをっ!」


 両の拳を硬く握って全力で吠えた。


「何よりノイエに拒否権は無い! これは僕が勝利して得た権利だ! 権利を行使して何が悪い!」

「……分かりましたアル下衆タ様。失礼。アルグスタ様」


 僕の全力にメイド長が認め頷いた。雑音はスルーしておこう。

 と、彼女はエプロンの下から紙に包まれた何かを取り出すと、それを僕に手渡した。


「これは?」

「はい。アル屑タ様……失礼。アルグスタ様が軽い気持ちで奥方様を弄ぶ気でしたら渡さないつもりでした。ですが貴方の本気を見ましたので、今回わたくしが手に入れた一番凶悪な衣服を貴方に託しましょう」


 一番凶悪だと? そんな最終兵器が……だがそれをノイエに着せて僕は彼女に勝とう。


 あの日確かにそう誓ったはずだった。




 目の前に居るのは、赤い耳と赤い尻尾を身に付けたノイエだ。

 たぶん耳の色に合わせて作られたビキニタイプの毛皮の衣装も赤い色をしている。大陸の南西部に住む赤い色をした猫っぽい生き物を模した衣装だろう。

 でもノイエは普段から猫っぽいから良く似合う。


「……にゃ~」

「もう負けで良いです。全面降伏しますノイエ様」

「にゃ~」


 勝利の雄たけびを上げてノイエが僕に抱き付いて来た。

 こんな可愛い猫を前に僕がどうして勝てようか? だって赤くて可愛い猫なんだよ? 全体的に赤くて……全体?


 背中にとっても嫌な汗が。


「……何日と耐えて来たけどもう限界ね。殺すわ」


 抱き付いていた彼女が離れると、その本性を前面に現していた。

 ノイエの形をしたとても凶暴な肉食獣の何かが現れ……ニコリと笑ってから、僕に情け容赦ない猫パンチと言う往復ビンタをさく裂させた。



 次の日、両の頬を真っ赤に腫らせる僕を見てノイエが心配そうに抱き付いて来るのを幸せに感じながら……馬車を王都の方角に向け、帰宅の途に着いたのだった。




~あとがき~


 最近アルグスタに甘めだった先生でも堪忍袋の何かが切れたご様子で。

 ですが往復ビンタで下衆を退治した後、姿見の前でノイエの衣装姿をつぶさに観察していたのは秘密ですw


 次回はちょっとしたノイエの秘密を。で…あのお方が復帰します。




(c) 甲斐八雲

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