お姉ちゃんを信じて
僕らは無事に王都に到着した。
途中ブシャール砦に向かう王国軍と出会ったが、彼らの任務はカウンターで帝国領に攻め入ることだ。
あのヤージュとか言う参謀さんはマジ怖い。ユニバンスが帝国に攻め入ることまで計画に入っていた。そして帝国領を切り取ってユニバンス領となった領地を、あの大将軍が治めて帝国との盾役になる。
こちらとしては砦を攻められたのと、攻め入ることで兵を失うことになる。だが帝国領との間に緩衝地帯が出来上がって、帝国に対しての軍備を減らすことが出来る訳だ。
まあ兵が動いたと言うことは、パパンは頭の中の算盤を弾いてどっちが得か判断したのだろう。
大将軍の国が出来れば、帝国領からも彼を慕う者たちが流入するだろうし……間違いなく荒れる。
自業自得だからこっちとしては遠目に眺める程度だ。
それは良い。今の問題は……。
「落ち着こうか?」
「大丈夫。ボクは怪我人を治すのが仕事だよ」
男の子口調のノイエが現れた。中身はリグだ。
ようやく屋敷に戻りベッドで横になって暫し、現れたのがリグだった。
彼女は僕を引っ繰り返すとズボンを脱がし始めたのだ。
「いや~! リグに犯される~!」
「人聞きの悪い。ボクの仕事は治療だよ」
「……ちょっと待てリグよ! やはりそれの方がダメな奴!」
必死に抵抗するが力が全く入らない。だが負けられないのだ!
彼女の治療は怪我した部分を直接舐めて治す。僕の1番酷い怪我は、お尻と内またと……つまりあれな部分の全域なのだ。
「ノイエの舌が穢れる~!」
「……大丈夫。ノイエならたぶん平気」
「いや~!」
ズボンを脱がされザラッとした舌の感触を皮の剥けた部分に感じたと同時に、僕の尻にあり得ないほどの激痛が!
「うぎゃ~! ノイエに犯される~! って言うか痛すぎる~!」
「大丈夫。ノイエなら喜んで舐める」
「その声でそんなことを言うな馬鹿~!」
お尻の怪我はそこそこ治った。
激痛は時間が経つごとに薄れて行く。
ただ僕は、大切な何かを同時に失った気がする。
リグにはもう逆らえない気がする。色んな意味で色々と弱みを握られた。
シクシクと泣きながら枕を濡らしていると背中を優しく撫でられた。
起きたノイエが慰めてくれてるのかな?
顔を向けたら……髪が青いんですけど! 誰だよ今度は!
「勝負には勝ったみたいだね。私の王子様」
「……ホリー?」
「誰と思ったの?」
「出て来るときは名乗って欲しいです」
「そうね」
クスクスと笑う彼女は……初めて会った時とどこか雰囲気が違う。
何て言うか最初から距離が近かったけど、もっと近いと言うか。
「何故に抱き付くのか聞いて良い?」
「うん? 家族に優しくするのは普通でしょ?」
「だからって何故に足を絡めて来るのでしょうか?」
と、彼女の手が伸びて来て顔を固定する。
「敬語は嫌」
「……」
「それに他人行儀も嫌。私を呼ぶ時は『ホリーお姉ちゃん』か『お姉ちゃん』で良いわよ」
「……年下のノイエにそう呼ぶのは抵抗が」
と、自身の様子を確認したホリーが、甘えた表情を浮かべてまた抱き付いて来る。
「本来の私だったらもっと胸も大きいし可愛いのだけど……」
一瞬ノイエの胸をガン見しちゃったよ! 悲しい男のサガだ。
「でも今はこの体で満足してくれるかしら? アルグちゃん」
チュッと頬にキスをして来て甘えて来る。
ホリーってもしかして、チョロイン系の人なの?
「えっと~。ホリーは僕の味方?」
「違うわよ」
「違うの?」
「ええ。私は貴方の家族よ」
うふふと笑ってホリーがまたキスして来る。
いやあの……家族ってこんなに距離感は近く無いと思うっす。
「だから教えて。私の姉と弟はどうだったの?」
「えっあっうん。今も王弟様の所に居るみたい。弟さんは結婚したって」
「そう」
笑い甘えて来る彼女は本当に嬉しそうだ。
「それより家族って?」
「ん? ノイエは私の可愛い義妹よ。義妹の夫は義弟でしょ? だから貴方は私の家族」
クスリと笑い彼女が極上の笑みを見せる。
「家族に対して味方だなんて変でしょう? 私は貴方の味方じゃない。お姉ちゃんよ。姉は弟を慈しんで護るものでしょう?」
抱きしめて来る彼女は……どうやら本気らしい。
「マジですか?」
「疑うの?」
「いや……最近きつい人しか出て来なかったから」
「可哀想なアルグちゃん。もう平気よ。優しいお姉ちゃんが居るからね?」
ほほう。死の指し手と呼ばれる本物の殺人鬼が優しいのですか。自称だったら何でも言えるよね。
「その目にイラッとするのだけど?」
「……ごめんなさいお姉ちゃん」
「許してあげる」
頭を抱きかかえられて背中を撫でられる。
即答で許してくれた。やはりチョロイン系な人だ。
で、気づいたら半裸のノイエが僕に抱き付いて来ている訳です。
「お姉ちゃん。どうして服を脱いでいるのか聞いても良い?」
「ん? 仲良くするならこれが1番でしょう?」
否定できない僕が居る。でもそれはノイエの体なのです。
「本当だったら私の体で相手をしてあげたいのだけど……今度アイルローゼとの賭けに勝ったら、ノイエの体を変化させられる魔法でも作って貰おうかしらね」
「先生と賭けとかするの?」
「ええ。勝ったからあれに命じて、リグを引っ張り出させて治させたのよ?」
あ~。何か絶妙なタイミングで出て来たと思ったらそんな理由が!
「ありがとうお姉ちゃん」
うん。ホリーはやっぱり優しい人だ。
「……ダメ。もうお姉ちゃん我慢出来ない」
あれ? ちょっとホリーさん?
ガッチリと肩を掴まれて鼻息の荒いノイエの顔が目の前に。
「大丈夫。いっぱいいっぱ~い可愛がってあげるから。うん。お姉ちゃんを信じて」
血走った眼をした相手の何を信じろと!
(c) 甲斐八雲
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