起死回生の策
「はい注目」
パンパンと手を叩いて視線を集める。
メイド長に頼んで大至急会議室を1つを開けて貰った。
そこに僕から見れば、全員部下に当たるノイエ小隊の面々が集まっている。
壇上に立った僕は言葉を続ける。
「現在悲しいことに北東及び北西からもドラゴンの大軍が迫って来てます」
1人を除いて全員が嫌な顔をした。
嬉しそうにアホ毛を振っているノイエが可愛らしくて癒される。
「で、もっと悲しいことに……現在王国軍は、その後にあるであろう共和国との戦争に向けて準備を開始しています。つまり増援はありません」
ぶっちゃけ死刑勧告だ。どんなイジメだよ全く。
「近衛も王都防衛が本業なので動かせません。最悪なことに僕らだけで二方向から来るドラゴンを退治しろと偉い人は言ってます。はい何か意見のある方?」
「はいっ!」
「黙っていろこの売れ残りがっ!」
「ひどっ!」
お約束の返しにミシュが酷く傷ついた雰囲気だけを漂わせる。
マツバさんから解放されて浮かれているなこの売れ残りがっ!
だが忘れるな……彼は今後定期的にこの国に来るのだ。いつか結婚させて僕もメイド長からの依頼を終えてみせる。
「で、何?」
「は~い。正直無理だから諦めません?」
「出来たら僕もそうしたいんですけどね」
平和が1番だと思うんです。
と、ミシュの頭を叩いて隣の女性が手を上げた。
「はい。フレアさん」
「……まず確認なのですが、両国もしくはどちらからか宣戦布告は?」
「無いよ~」
「でしたら」
「だって今来てるのは兵じゃ無くてドラゴンだしね」
「……」
「厄介なのよ」
賢いフレアさんは僕の気持ちを察してくれた。
だが栄養が胸と身長に向かうルッテが手を上げる。
「あの~アルグスタ様? 厄介って?」
「うん。これからユニバンスはドラゴンの大群に襲われる訳です。
すると共和国は『隣国の危機だ』とばかりに兵を動員して『救援』に駆け付ける訳です」
「……酷く無いですかそれ! そのドラゴンの一方はも共和国から流れて来たものですよ!」
怒ったルッテが前にある机を両手で叩き、ついでに胸でも叩いた。
「そうは言ってもね~。相手の言い訳が目に浮かぶ訳です。
『ドラゴンは生き物故に勝手に我が国を通ってそちらに向かったのでは?』とかね。正直この辺は外交の泥仕合にしかならないから止めておこう」
「……」
プリプリと怒ったルッテが怒りを我慢する。
まだこの辺がお子様と言えばお子様なのかもしれない。体は十分に女性してるけどね。
「良いですか?」
「どうぞモミジさん」
控えめに手を上げた彼女に発言を許す。お客さんとは言え現在は僕の部下だしね。
「ならわたしたちは、少数でドラゴン退治をすると言うことで良いのでしょうか?」
「そうなるね」
「……ノイエ様は1人しか居ませんが?」
「敵もそう思ってるよ」
二方向からの攻撃。つまりこれはノイエと言う存在をどうにかする為の作戦だ。
「ノイエを片方に向かわせればもう片方は大軍の直撃を受ける」
「絶望的だ~ね」
「煩いよミシュ。
で、ノイエが頑張ってドラゴンを退治してもう片方に向かうとしても……たぶんその隙に砦は食い破られて大軍が王国内を蹂躙する。そうなればこちらも兵を動員するしかなく、敵の兵が悠々と接近して来てこの国の目の前に陣を張る。そうしたら大国対小国の戦争だ。勝てる見込みなんて全く無い」
今頃参謀たちが頭から湯気を出して、無い知恵を絞っているだろうな。
「ただ幸運にもこちらには2人目のドラゴンスレイヤーの駒がある。それと雨期に入りドラゴン自体の活動も鈍い。この2つを用いれば……どうにかならないかな?」
「何ですか? その他人任せな感じは?」
「頼るよ~。僕の専門は事務仕事だしね」
えっへんと胸を張って見せたら、フレアさんが恐ろしいくらい冷たい表情を向けて来た。
だから皆さん。僕の担当は事務ですからね?
「何か策は?」
「……現在馬鹿兄貴に考えて貰ってます」
「ハーフレン様に?」
何故かフレアさんがため息を吐いた。もしかしたら下請け先を間違いましたか?
「でしたら覚悟を決めましょう」
「あの~何でしょうか?」
「決まっています」
疲れた様子で引き攣る笑みを浮かべるフレアさん。諦めた様子で机に腕枕して寝始めるミシュ。
そのリアクションに不安しか覚えない。
「遅くなったなアルグ」
「……」
やって来た馬鹿兄貴を見て僕も納得した。
鎧姿で背中にはミシュよりも大きな大剣を背負っていた。完全フル武装の状態でやんの。
「で、馬鹿兄貴よ」
「おう。何だ?」
「僕が頼んだのは起死回生の策ですけど!」
「その策が俺だ! 敵もまさか近衛団長が出て来るとは考え無いだろう!」
「身内ですら唖然騒然ですけどね!」
馬鹿の相手をしていると頭痛が大変なことになりそうだから……と、不意に視線を感じて顔を動かす。
ノイエが僕を見ていた。ただいつもと雰囲気が違う。誰だ?
「馬鹿兄貴の相手はフレアさんにお願いします」
「アルグスタ様?」
「は~い。いったん休憩入ります。僕は馬鹿のお陰でお腹が痛くなったので、ちょっと行ってきます」
お腹に手を当てて会議室を出て行こうとすると、ピタッとノイエが付いて来る。
ただその雰囲気は、やはりいつもと違う。
廊下を歩きながら後ろを振り返って、ノイエ以外誰も居ないことを確認する。
「で、どちらさん?」
「初めましてアルグスタ王子」
「元ね」
クスクスと笑った彼女に手を引かれ、人の居ない部屋の中へと引き込まれた。
と、ノイエの色が変化する。青い髪に碧い目だ。
「それってアイルローゼ先生だけの技じゃないんだ」
「魔力が強ければ誰でも出来ます」
またクスクスと笑って彼女が柔らかな表情を向けて来る。
「私の名前はホリー。周りからは『死の指し手』とも呼ばれています」
「……どうも」
アカンてっ! やっぱりホリーも居たんだっ!
(c) 甲斐八雲
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