……お姉ちゃん
買い過ぎだろうと思ったけど、大食漢のルッテとフードファイトしたクレアの存在もあって、山とあったお菓子やケーキは意外なほど綺麗に消えた。残った物はご自由にお持ち帰りしたり、メイドさんたちにおすそ分けして……会場となった執務室の掃除をしていたらノイエが帰って来た。
机の上の残骸を見て……はっきりと分かるほど落胆する彼女に、僕の机に別途確保しておいた分を見せる。キラキラとその目を輝かせて嬉しそうに頬張る姿にほっこりとした。
「アルグ居るか? ……って何したらこんなに部屋中が甘い匂いになる?」
ノックも無しにドアを開け筋肉王子が露骨に鼻を塞いだ。
もうすでに鼻が麻痺している僕らは気にもならない状況だ。
「ここ最近頑張った人たちと一緒にケーキ食べ放題してただけよ」
「……お前か。ブロストアーシュのお菓子を全て買い占めた馬鹿は?」
「そうなのクレア?」
「全ては買ってません。高い物全てだったら認めます」
お持ち帰りのお菓子を包んでいた少女が、無い胸を張ってそんなことを言う。
「まあ良いけどね。ちゃんとフレアさんにも分けるんだよ」
「は~い。ではお先に失礼します」
筋肉王子にも挨拶をしてクレアは、お菓子で買収したメイドさんと共に部屋を出た。
本日僕らの仕事は基本半日で終了だった。遊ぶ時は全力を実施しただけだ。
先に帰ったイネル君とルッテももう自宅に着いた頃だろう。クレアはお店で買った物の一覧作成などで少し残って貰っていただけだ。
後日支払いしに行かないと行けないしね。
まああの店だったら最近は後払いOKになって来たんで結構ツケで買い物をしてたりする。
僕の隣でパクパクと幸せそうにケーキを食べているノイエを愛でていると、ドアを閉めて室内に入って来た馬鹿がノイエのお菓子に手を伸ばして一個つまみ食いした。
「この甘い物を、これだけの量が食えるのが凄いな」
「女の子のお腹は、甘い物用の別腹があるんだって」
「納得だな」
笑いつつ彼は机を椅子代わりに座る。
「で、だ……俺が来た理由ぐらい分かっているんだろう?」
「閲覧制限の資料を勝手に見たから」
「そう言うことだ」
真面目な空気にノイエの手が止まる。
『大丈夫?』と顔を向けて来る彼女の頭を撫でてやる。
「ちと面白くない事態になっててな。あの資料はあまり外に出すな」
「良いよ。知りたかったことは分かったから。でも……」
一瞬ノイエが気になったが、何かあったら今夜家に帰ってから謝ろう。
「カミューとグローディアの資料が無かった訳は?」
「……」
ピタッと動きを止めたノイエが僕を見る。
その目がどこか戸惑っているような……泣きそうな目をしているのを見て胸が詰まった。
筋肉王子はガリガリと頭を掻いた。
「カミューに関する資料は持ち出されたまま返却されていない。グローディアに関する資料は閲覧禁止だ。今はある場所で厳重に保管されている」
「片方は仕方ないとして、もう片方は何故?」
「……グローディアは親父の妹の娘。つまり俺たちの従姉だ」
「……」
それは確かにちょっとだな。
「王家に属する者が起こした事件なだけに余り知られたくはない」
「分かった。ただカミューの資料が見つかったら一度見せて」
「見るだけなら良いだろう。ただし内容は外に出すな」
念を押されたから素直に頷いておく。
別に内容を見る必要なんて無い。ただ隣に座るノイエの様子を見たら見たくなるのも当然だ。
プルプルと震えている彼女が、寄りかかる様子で僕に体を預けている。
「夫婦仲良くお菓子を楽しんでいるんだから邪魔者はさっさと消えろ」
「へいへい。分かったよ」
こっちの気持ちを察して筋肉王子が退散してくれた。
ドアが閉まったのを確認して、そっとノイエを抱きしめる。
「大丈夫?」
「……はい」
プルプルと震えている彼女の様子は、どう見ても大丈夫には見えない。
「残りのケーキは家に持って帰って食べようか?」
「大丈夫」
両手に持ってパクパクパクと一気に食べ始める。
電動の鉛筆削り器に鉛筆を差し込んだ感じで見る見るロール状のケーキが一本消えた。
その勢いでノイエは全てのケーキを食した。
帰宅してお風呂をして夕飯は軽めで……でもノイエは普通に食べていて内心で驚いた。
あれだけのケーキを食べて普通に夕飯とか食べられるんだ。ルッテも凄かったけど、実はノイエの方が大食漢なのかもしれない。
後はいつも通り二人で寝室だ。
今宵のノイエもスケスケのキャミソールだ。
もうロリコンどうこうで騒ぐことは止めた。僕はノイエのことが大好きだからどんな姿の彼女でも愛することが出来ます。
小さいノイエも良いかなって思っているのは、僕の中ではトップに入る秘密だ。
「アルグ様」
「なに?」
「カミュー」
「ん?」
「カミューのこと、どうして?」
「ん~。気になったから?」
「気になる?」
怯えた様子でこっちを見つめる彼女を抱きしめる。
優しく背中を撫でてあげながら、その耳元で口を開く。
「僕が怪我をした日。ノイエがその名前を口にしてたから気になったんだ」
「……」
「嫌だったらもう調べないよ」
彼女を悲しませても知りたいと思う事では無い。
だけど不安げな瞳を向けて来たノイエは、何度か口を開閉して……言葉を絞り出した。
「カミューは……お姉ちゃん」
「お姉ちゃん?」
「はい。あの場所で優しくしてくれた」
「そっか」
ワシャワシャと頭を撫でるとノイエが嬉しそうに目を細めた。
(c) 甲斐八雲
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