停職処分と罰金

 誰もが反論などして来ない。

 ただ全員が苦々しく唇を噛んでこっちを見ている。


「自分の無能を棚に上げて、苦しんで苦しんで苦しみ抜いた少女1人を化け物扱いだ! 挙句にドラゴンが出れば全部押し付けて……良くもそんな恥ずかしい立ち振る舞いを偉そうに出来るもんだな! それを無能と言わずして何を無能と言うのか僕に教えてみろ!」


 あ~腹の立つ! こんな奴らの為に!


「『化け物化け物』と呼んで蔑む存在にどれほど救われた? この中でノイエのお蔭で領地をドラゴンに襲われなくなった者がどれほど居る? お前たちが化け物と呼んでいる人はな……今だって血の海に沈む仲間たちのことを思い出して夜な夜な泣いているんだ! お前たちが生み出した化け物が泣いている! それなのに無能が原因で、殺し合いをさせた子供を思い、夜な夜な泣く者がこの中に居るか? どうだ!」


 知ってるさ。こいつ等は……誰1人として泣いたりしない。だってそれは、


「僕から言わせて貰えば……あんた達の方がよっぽど醜悪な化け物だ! 自分が無能で恥さらしな化け物だと自覚していないだけに始末に負えない! 文句があるなら今ここで否定して見ろよ無能共が!」


 バンと机を叩いて僕はそれ以上の怒りを抑えた。

 そもそも僕が怒るのは筋違いだ。でもノイエは怒らない。

 彼女はたぶん……自分が『化け物』だと、どこかで思っているんだ。


 と、寝たふりをしていた国王様が立ち上がった。


 ヤバい。やり過ぎたのは……自覚しているから後で謝り倒そう。


「……アルグスタの言う通りだ。子供らがあの様な目に遭っていたのにも気づかず、のうのうと暮らしていた我々が最も度し難い咎人とがびとである。済まなかった」


 深々と頭を下げて謝罪して来る。

 いやちょっと……そこまでされると正直引く。


 って、今度は大将軍がっ!


「貴公の言う通りだ。儂もあの時不審に思ったが詮索しなかった。度し難い無能っぷりだ。申し訳ない」


 だからちょっと……そのリアクションは予定外なのですが?

 って何故に全員立ち上がって頭を下げるかな?


 あはっあはは……誰かちょっと助けてください。



 おにーちゃんの閉会宣言でどうにか救われました。




「アルグスタよ?」

「いつもながらに申し訳ございません」


 閉会後に国王様の執務室に呼ばれた。

 まあ覚悟はしていたけど……そろそろヤバいかな?


「お前は基本無害だ。だがノイエが絡むと本当に人格が変わる。実は別の何かが混ざっていたりせんだろうな?」


 そんなハエ人間的なのは嫌です。


「失礼します」

「うむ」

「国王陛下。こちらを」


 部屋に来たのは宰相おにーちゃんだ。

 机の上に書類の束を置くとソファーへ向かう。


 あの~無視されるのも辛いんですけど?


「こんなにか?」

「はい」

「そうか……誰もが心の中に抱えてったのだな」


 やれやれと息を吐いて国王様が机の上の書類を指さす。


「アルグスタよ」

「はい」

「これが何か分かるか?」

「いえ全然」

「……お前が無能と罵った者たちの退職願いだ」


 えっ? そんなに?


「恥ずかしげもなく地位に執着する者も居るが……切っ掛けが欲しかったのだろう。きっと提出した誰もが、あの頃要職についていた者たちばかりだろう」

「……」

「だが一気に抜ければ国が危うい。随時交代してお前の国を作ると良い。シュニットよ」

「はっ」


 書類を制作しながらおにーちゃんが頷き返して来た。


 えっと……つまりこれはお咎め無しかな?


「でだ。アルグスタよ」

「はい?」

「会議場での過度の暴言は禁止されている。その禁を犯した者は……停職処分と罰金だ」

「はい?」

「国王陛下。書類はここに」

「うむご苦労」


 おにーちゃんが書いてたのは僕を罰する書類だったのね?


「アルグスタ・フォン・ドラグナイトよ。三日間の停職と金1,000枚の罰金と処す」

「って、金額が多すぎやしませんか!」


 僕の給金の何年分よ?


「これぐらい痛くも痒くも無かろう? 嫌なら炭鉱送りにするが?」

「……謹んで収めさせていただきます」


 酷い話だ全く。




「そんな訳で……ごめん」


 クレアは顔を真っ赤に、イネル君は顔を青くしている。

 国王様から頂いた有り難くない書類を手に、自分の執務室に来てまずやることは……2人への謝罪だ。


「会議場でアルグスタ様が大暴れしたと聞いたので、悪い予感はしてたんですけど……何をしたらこんな重たい罰を受けるんですか?」

「会議場に居た全員に『無能が!』と叫んでみました」

「……」


 クレアの顔色が赤から青へ。イネル君は青から白へ。

 ズルズルと崩れるように座り込んだイネル君は……本当にごめんね。


「またノイエ様のことを悪く言われたのですか?」

「はい」

「……なら仕方ないですね。アルグスタ様はそういう人ですから」


 クレアがやれやれと肩を竦めてイネル君を引き摺って行く。

 諦めた様子で悟らないで~。


「もし2人が王国軍の関係者から嫌がらせとか受けたら言ってね。責任を取って対応するから」

「余計なご心配は要りません。それよりも停職を受けたのですからちゃんと自宅で謹慎しててくださいね」

「はい」

「それと……お詫びの気持ちは、言葉よりケーキでお願いします」


 何かその欲望丸出しな言葉が、一番の救いかも。




(c) 甲斐八雲

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