出来ることをしたい
国王様が僕らの正式な結婚を宣言したら……一気に物事が進んだ。
共和国からは王子って地位では無いんだけどそれっぽい人が来るらしいし、帝国は大将軍が来るとかでお城の中が一気にピリピリして来た。
そんな帝国は全ての罪を文官数人に押し付けて処刑したそうだ。そうなると聞いてたけどどうなんだろうね?
本当に恐ろしいくらい順調に話が進んでいる。それに準備もだ。
ただ最近ノイエが凄く大人しい。
本当にマリッジブルーになったのかな?
普段の彼女は帰宅すると夫婦の寝室に直行だ。
僕が先に帰っているとそのまま湯浴びに向かい仲良く夕飯へ。そして寝室へと戻る。
僕が後だとベッドの上で座って待っている。それから湯浴びをして仲良く夕飯だ。
でも最近はどのパターンでも無い。
帰宅するとベッドに直行して端に座ってしょんぼりしている。
主に彼女のアホ毛がだけどね。
湯浴びと夕飯を済ませると、僕らはいつも通りに寝室へ向かった。
この部屋はベッド以外は特に何もない。テーブルや椅子すら無い。
日本人感覚だと何かあれば椅子に座ってとなるけど、こっちの世界だとベッドが椅子代わりだ。
飲み物だってメイドさんに持って来て貰って飲んだら戻す。また飲みたくなったらメイドさんを呼ぶ……そう考えると物凄く贅沢な生活だ。
日本人な僕は基本我慢の子だし、ノイエに至っては普段から自己主張が無い。
だからこうしてしょんぼりされると結構困る。
「ノイエ」
「……」
ベッドの端に座って居る彼女を背後から抱きしめる。
「何かあったの? 最近元気が無いよ?」
「大丈夫」
「嘘」
アホ毛がへんにゃりしたままだ。軽く引っ張っても力無く倒れる。
「言ってよ。ノイエ」
「……」
「言ってくれないとノイエを護れないよ?」
「……」
コクンと彼女が小さく頷いた。
しばらく待つと……小さな吐息が聞こえて来る。
「私は何も出来ない。アルグ様が色々してくれるのに」
「うん」
「アルグ様はどうして私だけをお嫁さんに? 皆が変だと言う」
「そうかな? 僕はノイエだけいれば良いんだけど」
「……私だけ?」
チラッと肩越しにこっちを見て来る。
「お嫁さんがって話ね」
「はい」
どうやら理解してくれた感じだ。
言葉を間違えるとトンデモ発言になりそう。
「僕はノイエとこうして過ごす時間とか好きだよ」
「……はい」
そっと彼女の手が抱きしめる僕の腕に触れる。
感触を確認する様なそんな感じだ。
「私はしたい。アルグ様に」
「ん?」
「出来ることをしたい。何をすれば良い?」
「何をって……っんく」
思わず色々と考えて生唾飲んじゃったよっ!
煩悩よ去れっ! 新居が出来たら、二人のプライバシーが確保されたら前進するからっ!
「私は何も出来ない。それは……」
「それは嫌?」
コクコクと小さく頷く。
色々と言われるがノイエだってこんなにも考えてくれてるんだ。そう思うと嬉しくなる。
「なら膝枕して」
「はい」
ベッドの上に座った彼女の太ももに頭を預ける。
素足なので滑々した感じが特に良い。
「あとは?」
「ん~」
そっと彼女の手を掴まえて、僕の胸の上に置く。
「それでポンポンと……うん。そうしてくれれば良いよ」
「これで良い?」
「うん。凄く嬉しい」
「そう」
一定の速度で胸をポンポンとされる。
父さんが居ないことで寂しくて泣いたり、風邪を引いて寝てると母さんがこうしてくれた。
本当に優しい母さんだった。
自分は仕事などを通じて少しでも地域の人たちに馴染もうとして……無理が祟って体を弱くしてたのに。
「アルグ様?」
「大丈夫。昔のことを思い出しただけ」
「そう」
ポロッとこぼれた涙を拭う。
胸を叩く手が止まり、そっと彼女の手が僕の体を起す。
背後から抱き付かれて……背中におぱいがっ!
「……」
細い指が僕の頭を撫でてくれる。
とても優しくて心地が良い。
「ありがとうノイエ」
「はい」
「凄く嬉しくて……幸せだよ」
「……はい」
その夜は背中からノイエに抱き付かれたままで寝た。
我が儘に自己主張する息子を宥めるのが大変でした。
「ハーフレン」
「ん?」
「準備はこれで終えたと思って良いな?」
「まあな。細々としたのは残っているけど……どうした兄貴?」
「父上と会って話をしていて一つ疑問が生じた」
「これ以上面倒臭い話は勘弁な」
兄が執務室代わりに使っている隠し部屋で、ハーフレンは心底嫌そうにため息を吐いた。
「それで何だよ?」
「アルグスタのことだ」
「あの馬鹿がどうした?」
「……この世界に来る前に死んでいたと報告があったな」
「ああ。信じられないが、死んで彷徨っていたと本人は言ってるな」
「確かに信じられんが、死んでいたと言うことに違いは無いな?」
「本人の言葉が正しければ、な」
興味を持った彼はソファーから立ち上がり椅子に座る兄を見る。
いつも通りその目と手は書類を山を退治するために動いている。
「死んで生き返ったのなら……"祝福"を得ている可能性があるんじゃないのか?」
「まさか……あり得るのか?」
「可能性だけなら十分だ」
手と目を止めてジッと見て来る兄に、ハーフレンはやれやれと肩を竦めた。
「それで調べて使えるなら手駒にしろと?」
「いや。国王陛下からの厳命だ。もし祝福を持っていたら……それはアルグの好きに使わせろと」
「本気か?」
「これ以上国益を求める使い方は許さんそうだ。実際にあれは十分な仕事をしているしな」
「確かにそうだが……」
ハーフレンの言葉が濁る。
現在のユニバンスで確認されている祝福持ちは10人と居ない。それほど貴重な存在なのだ。
それを使うなと言うのは……本当に勿体無さ過ぎる。
「厳命だ。まあ調べて持っていなければ不要な心配でしかないがな」
(c) 甲斐八雲
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