終生愛する

「うわ~。うわ~。うわ~」


 その話を聞いた巨乳の騎士見習いが、顔の下に手をそえて騒ぎ続ける。

 小さくて薄い方の副隊長は……何故か立木の傍に立ち『憎い。憎い』と言いながら殴りだした。


「隊長。凄いですね」

「そうよね~。アルグスタ様って意外と情熱的な人と言うか、一途な人だったんですね~。も~良いな~」


 微笑む金髪の副隊長から、胸の大きな子へと視線を向ける。


「……何が?」

「……」

「アルグ様がどうしたの?」


 皆が騒いでいるが、そもそもノイエは会話の内容を理解していなかった。

 胸が有りすぎ無さすぎの二人が自分たちの世界に突撃してしまっているので、金髪の副隊長……フレアが座り直して上司を見つめた。


「隊長。良いですか?」

「はい」

「国王陛下が、アルグスタ様と隊長の結婚を正式に宣言しました」

「はい」

「その時にこう言われたんです。『アルグスタ・フォン・ドラグナイトは妻ノイエを終生愛することを誓い、その証拠に"彼女以外娶らない"と結婚式で必ずや誓うであろう』と。

 意味は分かりますか?」


 クククと白い綺麗な顔が少しずつ傾いて行く。

『ダメだ。理解していない』とフレアは悟った。


「アルグスタ様は、隊長以外の人を『お嫁さんにしませんよ』って宣言するんです」

「……何故?」

「……どうしてですかね?」


 真顔で質問されると困ってしまう。


 普通に考えてドラグナイト家はアルグスタ王子が興したばかりの家だ。譜代の家臣も居ないし、何より領地は何も無い辺境。普通今後を考えれば家を大きくするために武器が必要となる。


 その武器とは子供だ。


 とつがせたりとついだりすることで地盤を固めて勢力を増す。

 そうやって貴族は自分たちの家を大きくして来たのだ。


「落ち着いて考えると……物凄く後々困りそうなことですよね?」


 現実に戻ってきたルッテの言葉にフレアも悩む。


「もしかしたら……隊長に頑張って貰って子だくさん?」

「きぃぃぃいいいっ! つまり毎晩頑張っちゃうの? 頑張っちゃうの? 頑張っちゃって~っ!」


 色んな感情が暴走している憐れな人から視線を外す。


「でも隊長が子だくさんしないとかなり辛いですよね? フレアさん」

「それか……隊長の収入が多いから、それを貯めて子供の代に家族を増やすかかな?」

「……」

「ただ一言言えるのは」


 フレアは真っ直ぐにノイエを見た。


「やっぱり隊長は、アルグスタ様に愛されているんですね。心の底から」

「知ってる」

「「えっ?」」


 衝撃の発言にこっそりを聞き耳を立てていたその場に居る全員が凍った。


「アルグ様が寝る前に言う。『大好き。愛してるよ』って」

「「……」」

「そこの裏切り者に血の制裁を~っ!」


 突撃して来た馬鹿がフレアの魔法とルッテの弓で沈黙した。




 セルスウィン共和国・宮廷にて。



「思い切ったことをしたな。流石は厄介な小国ユニバンスだ」

「ええ。閣下」

「しかも我が国に対して寄こした招待状は、第一貴賓だ。普通なら帝国と並んで第二貴賓とするのが通例なのに……帝国の横暴ぶりがよほど腹に据えかねたと見える」

「それも込みで第一貴賓なのでしょう」


 玉座の様な椅子に座る初老の男性と、横に立つ妙齢な女性とが話を続ける。


 片方はセルスウィン共和国国家元首。もう片方はその右腕と呼ばれる魔法使いだ。


「お前ならこれをどう判断する?」

「帝国への嫌がらせを特等席で見れる良い機会かと」

「国益としては?」

「向こうも多少の損を覚悟でこちらに対して"お願い"をしてきています。ならばこちらとしては相手の意をんで応じてあげましょう。勿論売るのは恩で」

「そうなるか。相手の掌で踊っている様で好きじゃ無いが」

「良いではございませんか……の国が帝国の恨みを一手に引き受けてくれると言うのです。こちらは高みの見物をしましょう」

「そうかそうか」


 老人は手を伸ばし女性の尻を撫でる。

 表情一つ変えずにされるがままの女性は、その口をまた開いた。


「こちらからは出来れば閣下の息子。それも出来るだけ名の通った者を行かせると良いでしょう」

「ほう。それは何故じゃ?」

「はい。きっと帝国は帝弟を遣わせると思いますので」

「ほう。大将軍キシャーラを、と申すか?」


 静かに頷く女性に老人は愉快そうに笑い続けた。




 ブロイドワン帝国・帝宮にて。



「このままでは我が国の面子が丸潰れでは無いかっ!」


 荒々しく怒り狂う者に、何段も下に居る臣下たる者たちが縮み上がる。


「おのれ忌々しきはユニバンスの双璧めっ! 小国風情が我が国に逆らうとはっ! 立場をわきまえて大人しく従えば良いものをっ!」


 怒りの余り振り下ろす蹴りに、玉座が無残にも破壊された。


「誰かっ!」

「はっ」

「適当な文官に罪をかぶせて首を斬れ。ユニバンスから書簡はその男が勝手に処分したことにせよ」

「はっ」

「待たせているユニバンスの使者を急いで連れて来い。このままでは我が国は良い笑い者になる。何があっても彼の国の式典に参加せねば」


 忌々しい。大人しくドラゴンスレイヤーを差し出せば良いのに、あの小国はずっと逆らい続ける。


「キシャーラを呼べ。アイツに式典へ出向き……ユニバンスの城をどう落すか考えるよう伝えろ」

「はっ」

「ああっ! 本当に忌々しい」


 彼は吠えて、玉座だった物を蹴り上げた。




(c) 甲斐八雲

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