魔法を見よう

「本来なら魔法っぽい物を見せるのなら隊長の方が分かり易くて宜しいのですが……近くに居ませんしね」


 フレアさんは部下の人に声を掛けて……何故か丸太を2つ持って来た。

 何故そんな物がここにあるのでしょうか?


「普段は弓矢の練習に使っています」

「ルッテなら動く的の方が良いだろう?」

「あの子の弓は別物なので……そもそも練習なんて要りません。今は力を鍛えるために薪割りなどの雑用をさせています」


 ん? 何か知らない子の名前が出て来るな?


「ルッテって?」

「現在見習い騎士として主にミシュの尻拭いをしている子です」

「……とても大変なお仕事ですね」

「ええ」


 会っても居ないのに同情してしまった。


「それでこの丸太ですが……まあどっちも普通の丸太です。確認しますか?」

「いえ平気です」

「ならハーフレン様。そっちをスパッとお願いします」


 へっ?


「面倒臭いな」


 ダラッとした様子で腰の剣を抜いた兄が、あらよっとという掛け声で丸太を横に切断した。


「これで良いか?」

「いつもながらにお見事です」

「……」


 もう殴るのは諦めよう。喧嘩を売る相手を間違えていた。


「ご覧の通り普通の丸太はこんな風に斬れます」


 そんな通販番組的なノリで言われても、たぶん普通の人なら斬れないと思うよ?


「それで残って居る方の丸太に魔法を使います」


 何やら口の中で囁くように呟くと、フレアさんの右手がぼんやりと光った。

 その手で丸太に触れると、今度は丸太自体がぼんやりと光る。


「ではハーフレン様」

「へいへい」


 フッと動いた兄の剣に弾かれた丸太が……吹っ飛んで地面を転がった。

 それを部下の兵士さんたちが回収して来てくれる。


 斬れてな~い。


「この丸太には私の魔法『強化』が掛けられ、防御力が強化された結果斬れなかったのです」

「へー」

「ご理解いただけましたか?」

「うん」


 想像していた魔法とだいぶ違うけどこれはこれで凄い。


「ならその強化を武器にするとどうなるの?」

「はい。硬度が増すのでなかなか折れない武器となります」

「そっか」


 凄いな。これがあれば……ん?


 ニヤニヤと馬鹿兄貴がこっちを見ているのに気付いて僕は頭を振った。

 変なことを言ったら大変なことにになるかもしれない。地球の知識はひけらかさない。


「それで僕のお嫁さんは、どんな感じの魔法を使うの?」

「隊長の魔法は……」


 何故に言いよどむ? なぜ助けを求める様に兄を見る? 上司の魔法が何故言えないっ!


「あれは何て言うか……たぶん魔法だ」


 フレアさんに助け舟を出して兄の言葉がすでに沈没し掛けている。


 たぶん魔法ってどんな意味ですか?


「魔法を使うには二通りの方法がある。呪文を唱えて発動する。さっきフレアがしたのがそれだ。

 もう一つは術式を書いて発動させる。プラチナ製のプレートに魔法式を刻んで用いる。お前の治療に使ったのがこっちだ。大規模術式と呼ばれる方法で、複数の魔法使いが共同で行う。

 それでノイエだが……あれはどっちにも当てはまらない」

「なら魔法じゃ無いの?」

「いや。区分としては魔法だ。前提として魔法を使うには魔力と呼ばれる物を使う。

 実を言うと魔力って言うのは、決まった形の無い不思議な力なんだ。どんな形にもなり得るから魔法が発動する。

 ノイエの場合……その魔力その物で攻撃をする」

「はい?」


 何故か不思議と嫌な予感が?


「つまりノイエは自分の手に集めた魔力でドラゴンを殴り倒すんだ。場合によっては体内から引き出した魔力その物の塊を投げつけて大規模破壊の術にする」


 ガリガリと兄が頭を掻いた。


「魔法を使わず魔力でドラゴンを殴り倒す。だからその野蛮で理解出来ない戦い方を貴族たちや将軍たちが恐れて毛嫌いするんだ」


 そっか。だからノイエさんはいつもドラゴンを千切っていたのね。

 両手が最高の……自分自身が最強の武器だったんだ。


「気軽にノイエに『魔法を見せて』とか言うなよ?」

「何かごめんなさい。うちの嫁が本当にごめんなさい」

「いや良いんだ。もう少し何とかしてくれると嬉しいがな」


 ポンポンと兄に肩を叩かれ、愛想笑いをしているフレアさんにも頭を下げておく。

 地面を這うように近づいて来た馬鹿は、部下の人たちが迷うことなく抱えて運んで行く。


「ところでさっきから嫌に空気があれだな?」

「はい?」

『西から来ますよ~』


 誰の声?


 だが迷わず反応したのはフレアさんだった。


「全員集合っ! 敵は西の方角より来るドラゴンっ!」


 さっきまでの会話と違い凛とした彼女の声が辺りに響く。


「ほら。役立たず。俺の傍に居ろ」

「兄さんもドラゴン相手なら役立たずでしょ?」

「はっ! ノイエが居なくてもこの国の重装歩兵は強いんだぞ」


 馬鹿を抱えて運んでいた部下さんたちが、全員長い槍と盾を構えて西を向く。

 木々の間をすり抜ける様に羽の生えた蛇っぽいモノが飛び出して来た。


「良く見とけ。これが実戦だ」


 自然と唾を飲み込み食い入るように見ていた。


 突撃して来たドラゴンを数人の盾で正面から受け、残った者たちが長い槍で突く。

 でも皮膚が硬いのか槍の先端が突き刺さることは無い。

 それでも盾で攻撃を防ぎ、槍で相手を突き続ける。


 見る見るドラゴンのやる気が失われていく様子が見て取れた。


 しばらくするとドラゴンは大きく羽ばたいて上空へと昇る。

 何度かこっちを見ては首を振って……フラフラとまた別の場所へ向かい移動して行った。




(c) 甲斐八雲

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