第26話 A級もすんなりと
「じゃあ、レンマさん達のパーティーはA級でいいですかね?」
「賛成!」
「反対!」
管理所のスタッフやカウンターにいる
大丈夫、ここからひっくり返して逆転有罪にしてやる。処罰は級引き下げの刑な。
「いや、あの、普通、町から来たらC級とかD級になるって聞きましたよ?」
「通常はね。でも、あの山で魔法が使えるのって、すごく地脈エネルギーの取り込みがうまい証拠なんだよ。今のラッチ郡のパーティーでも、魔法が難なく使えるのはA級以上だ。だから君達もA級で良いと思うよ」
全然大丈夫じゃなかった。理路整然と理由を説明されて、周りのみんなもソーラーで揺れるおもちゃみたいに首を縦に振っている。
マズい、このままだと過大評価な魔法使いになってしまう。高校の時に「利き寒天ゼリー対決」でたまたま全問正解したせいで「0カロリーの申し子」と呼ばれてた友達を思い出すな。
「剣士のアルノルさんや薬師のシュティーナさんの実力は分からないけど……って、え、ちょっと待って! シュティーナ、ってあの次期女王候補のシュティーナ=ハグベリ?」
「え、ええ、そうです」
よし、チャンス。みんなの意識がシュティーナにいったぞ。彼女には悪いけど、女王候補あるあるとかで話を盛り上げてもらってるうちにA級の話を無かったことにしてもらいたい。
「いやあ、姫もいるなんて面白いチームですな。じゃあ、A級ということで」
どうにもならなかった。「じゃあ」が全然繋がってない。
「レンマさん、良かったじゃないですか! 謙遜して反対する気持ちよく分かりますけど、高いなら高い方がやり甲斐ありますからね!」
「アルノル、俺はお前みたいになりたかったよ」
元の世界でも十分やっていけそう。営業で急遽倍になった目標金額に向かってイキイキと突き進みそう。
「レンマ! アタシは嬉しいわ! 村でくよくよしてたレンマが、今や郡のミッションをやってる!」
「いや別にくよくよしてるのは治ってな——」
「ラッチでもS級目指すわよー!」
「オレも郡で認められる剣士になるぞー!」
パーティーの「呼吸する”ポジティブ”という概念」こと2人が腕を掲げ、俺は対照的に肩を落とした。
そこからの数日、A級として2つのミッションをこなしたが、幸か不幸かそこまで苦労せずに達成することができている。
ミッションのランクは変動するものらしいけど、今は全体的に難易度が高めになっている。その理由は、スタッフから聞いた話に関係していた。先日やや大きめの地震が近くで起こったせいなのか、この辺りは地脈が不安定になっており、どこも魔法が使いづらいエリアになっているらしい。自然災害のせいで電波が入らないようなものだろうか。
遠隔攻撃もできる魔法使いが使えないとなると一気にミッションの難易度は上がるわけで、俺達が担当しているのは正にそういう案件。そして無事にクリアし、「さすがA級だね、レンマさん!」と次のミッションをすぐに頼まれる。
でね、皆さん知ってますか、これが心にクるんですよ。思えばダイス町でミッションやってた頃はまだ平和だった。褒められたときに「そんなに褒められると辛い……」ってなってただけ。今はね、俺の地位が上がったせいで褒められなくても辛い。
お前さ、どれだけの人が今のお前のポジションを目指してると思ってるんだ? アルノルみたいに「郡、ひいては国所属のパーティーに……っ!」って夢見てる人がたくさんいるわけ。
それをお前は女神からの能力1つで町から郡にサラッと上がったうえに、地脈の異常が幸いしてA級からスタートさせてもらってるってどんだけ下駄履かされてるのよ。下駄というかもはや角材にそのまま乗ってるに等しいハンデ。なんだろう、周りが俺を見る称賛の目に良心が痛む。俺の良心がスパイやってたら、この褒め拷問に「なんでも吐くから許してくれ」って言ってる。スパイをやっている良心とは。
「ここを登っていけばお目当ての物が見えてくるはずです! シュティーナさんはレリーフナッツって見たことあるんですか?」
「いいえ、名前は知ってますけど、かなり希少なので実家の薬屋でも取り扱ったことはないですね」
今日のミッションは頭痛や解熱に使われる木の実、レリーフナッツの採集。今向かっている木はそろそろ収穫時らしい。
かなり繊細な木らしく生えてる場所が限られていて、ミッション管理所からかなり離れた山を落ち葉や枝を踏みしめながら登っていく。
「また地面揺れてる。地震から……あ、レンマさん! 落石きます!」
少し前を歩いていたアルノルが叫ぶが早いか、上から人間より少し小さいくらいの岩が、斜面でどんどん勢いをつけながら転がってきた。
「任せろ」
両手を翳し、魔法で出した水をジェット噴射して四つに切る。
「レンマ、風です!」
「もちろん!」
続いて俺達の前に突風を吹かせ、岩石や土埃が飛んでこないようにバリアを張る。岩は手前で止まり、細かい
「さすがです! レンマさんの魔法があれば安心して進めますね!」
「もう3回目ですものね。モンスターはほとんど出ないみたいですけど、落石が厄介です」
普段はかなり簡単なミッションに分類されてるらしいけど、このミッションを依頼されたのも頷ける。こんなにしょっちゅう剣や槍でどうこうできないレベルの落石が来るなら、魔法を使えないと進むのも難儀だ。
「あ、あった、ありましたよ!」
山自体はそんなに険しいものでもないので、すんなりとレリーフナッツの木まで辿り着いた。薄い茶色の、レモンを一回り小さくしたような木の実。
「他のパーティー、魔法使えなくて何組か断念したって言ってましたもんね。きっとまた管理所で褒められますよ!」
「だな……」
スタッフからまた「さすがレンマさん! もう神様から授かった力ですね!」と比喩になってない比喩を言われるかと思うと気が重い。胸の痛みも緩和できるなら、レリーフナッツを一口食べたいくらいだぜ。
***
「おっ、来たね。アンタ達にちょうどいい依頼があるんだよ」
ミッション管理所のカウンターに座った銀髪の老婆から依頼を受ける。ダイス町にいた人と似てるなあと思っていたが、話を聞くとなんと姉妹らしい。どっちが姉か気になるけど、聞いたら失礼な気がして謎は迷宮入りの予感。
「国から要請があってね。未開拓の森があるから、そこの現地調査をお願いできるかい?」
「調査、ですか?」
「森に入って、そこを開発できそうか確かめるのさ。農地にするか村にするか決まってないけど、害獣やモンスターが出てくるようじゃ居住用には使えないだろ?」
「なるほど、それを調べるんですね」
モンスターが出るか、魔法が使えるか、何も分からない場所に行くから難易度が高いってわけか。森の開拓と国の発展、まさにアルノルがやりたかったミッションだな。
チラと彼を見ると、漫画のキャラのように目をキラキラと輝かせ、両手の握り拳を何度も揺らしていた。
「はい、ぜひやらせてください」
「やったー! レンマさん、オレ、全力で頑張りますからね!」
「アルノル君、良かったですね」
シュティーナと一緒に、ぴょんぴょん跳びはねる彼とハイタッチする。
「どこかがギブアップしても調査できるように、このミッションは幾つかのパーティーに実施してもらうよ」
「分かりました」
集合時間や場所など詳細を聞き、メモしていく。
アルノルのテンションに引っ張られて少し楽しみになっていた俺が、このあと地の底まで沈むことになるとは、この時はまだ想像もしていなかった。
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