幕間

第24話 女神の憂鬱

 ううむ、モーチもあれこれ言ってたが、レンマは大丈夫だろうか。転生しても心配をかけるヤツだ。


 まあ転生させたのは私なんだけどな。「そろそろ独り立ちしなさい!」と言っていざ子どもが一人暮らし始めると「アンタちゃんと生活できてるの!」と2日に1回連絡してくる母親みたいだな。



 しかしなあ、今でもあの時のことが軽く悔やまれる。


 彼が転生するって言ったとき、私は一つの注釈を忘れていた。


【転生しても、体格や顔付きが変わらないのと同様、メンタルも特に変わらない】



 これ、あれだろうな……レンマはきっと、転生したら性格変わることも少し期待していたよな……。それを教えていたら、レンマの決断は違ったかもしれないのだ。ああ、私の手落ちのせいで、1人の青年の人生を狂わせてしまったかもしれない。



 お前が良くないんだぞ、強大な力を持つ女神なのに。元の世界のレンマのこともちゃんと知ってただろうに。変に期待を持たせていたかもしれないんだぞ。「終電無くなっちゃった……」って言われて期待して本人も終電乗り過ごしたら「ま、実はここが最寄りなんだけどね」って言われるのと一緒だろう?



 ほら見なさい、みんな自分が悪い。モーチからも「はぁん! 女神様ぁ!」なんてチヤホヤされてちょっと「ふふんっ」って感じになったりして、その実は反省しきり。


 はあ。こんなふうに思考を巡らせてると、くよくよしっぱなしの、彼やシュティーナと同じタイプの自分がどんどん前面に出てくるな。




 ***




 妖精から変化した女神。その女神にも寿命はある。美貌を保ったまま永遠にも思える長い時間を生きられるが、それでも終わりは来る。先代の命があと僅かと知らされたとき、私達妖精は、人間大の体と美と長寿を求めて、次代の女神を決める争いに参加した。


 争いといっても実際に戦うわけではない。魔法や知性、立ち居振る舞いなどを1年ほど見られ、最終的に先代から指名されるというシンプルなものだ。



 思えば私は当時から事あるごとにくよくよしていた。「自信があった方が良いって言われるけど、倍率考えると落ちるのが普通だし、指名制だから先代のフィーリングで決まる部分もあるだろうし、なれないと思っていた方がいいよな。自分が傷つかないよう、期待値をコントロールしておくのが人生の得策だ」と思っていたし、にもかかわらず他の妖精の活躍を見て嫉妬したりしていた。



 「なんであんなに転生魔法がうまいんだ……そしてそういうヤツに限って根は良いヤツなんだよ……『教えてあげようか』じゃないんだよ……こんな優秀な相手の時間を遣って申し訳なくなるし、もし教えてもらって出来なかったら『これでも出来ないってことはいよいよ私の才能の問題だよな……』って何も言い訳できなくなるから……」って自分で自分を責めるブームが止まらない。ブームの火付け役も自分だけど。



 ねたんでひがんで、1人でポツンとしていた時もあった。見つけた妖精仲間が「ワタシも嫉妬するときあるよ。何でも話していいから」と言われたので、嬉しくなって心の中の黒いものを全部出したら「え、そんなに……?」と逆に引かれた、なんてこともあった。


 お前な、「何でも話して」ってのは責任を伴う言葉なんだぞ。「絶対最後まで応援するから!」って恋愛相談乗ってくれてたのに、その男子が告白してきたらあっさり付き合う女子と一緒だぞ。あれは本当に怖い。「相談乗ってるうちに、好きの成分もらっちゃったかな」じゃないんだよ、体丸焦げにして成分全部蒸発させるぞ。



 何か言われればどういう意味だろうと裏を読みすぎて落ち込み、何か言えば気に障らなかったと思考を想像して落ち込む。そんな中でも私が女神に選んでもらえた理由は1つしかない。自己肯定感と実力は関係なかったからだ。



 もちろん自信があった方がリラックスできて成果が出やすいなんて話もあると思う。でも、根本的なパフォーマンスは関係ないのだ。どんな姿勢であろうと、正しい方向にちゃんと努力すれば、結果が出る。その結果、私は女神になり、それが結果的に自信に繋がって、今は転生候補者ともそれなりに堂々と話せるようになった、というわけだ。


 ***


 だからレンマ、お前も同じだ。お前の自己肯定感とお前の力は何の関係もないから、気にせずに努力を怠らな……しまったああああああ!


 レンマの場合は関係あるよ! 付与した魔法の力のせいでむしろ情緒不安定になってるんじゃん! 私としたことが完全にやり方間違えてるじゃん!



 はあ、やはり私も女神だなんだと言われてるけど無能なんだよな……こうして昔の自分を見ているような相手を見つけても適切な能力すら与えられずに結果的に落ち込ませているなんて……気が沈む……私が転生したいよ……

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