第20話 パーティーピーポーパーティー

「ハー君、この道まっすぐでいいの?」

 山道を登る途中、サイレが軽く息を切らしつつ隣を歩くハーティに尋ねる。


「んー? 合ってんじゃね? ソラ、さっき地図合ってたよな」

「多分ねー」


 白いショートの前髪を軽くりながら、ソラが気怠そうに答えた。



 E級のチーム陽キャと不本意な合流を遂げた翌日。俺達はE級のミッションである「痺れ花」を採りに、ダイスから少し北に進んだところにある山へ来ていた。花弁を粉末にすると麻酔に使えるらしい。



「モンスター出るんだよね?」

「なんか出るとか言ってた気がする」

「結構出るみたいよー。王ヤバい」



 色々言いたいことがあるんだけど、まずこのパーティー、全体的に意識が低い。


 いや、別にいいんですよ? 幼馴染と楽しみたいってだけで組んでるグループがあってもいいけどさ、場所もモンスターの情報も曖昧なままで進むの逆にすごくない? 怖いもの知らずじゃん。


 うちはアルノルとか国一番の剣士になりたいって夢があるし、シュティーナも知識豊富だし、俺も俺で心配性だから、あんまり調べないうちに森や山にこんな雑に入ることはない。



 そしてなんと、3人全員剣士。なんならケガした人も剣士。「剣なら練習しないでも使えるし」って理由がもうヤバい、王ヤバい。


 みんな接近戦しかできないし回復もできないっていう時点で凡人はバランス考えちゃうから。合コンに来た女子3人全員が「趣味は寝ること」だったら何も話せないから、社交的な子も混ぜるでしょ。「趣味は寝ること」って言われた時点でその子合コンに興味ないだろうけどさ。



 更によくよく聞いてみると、パーティー登録のときは自信があればF級じゃなくてE級でも登録できるけど、「上の方がカッコよくね?」って理由でE級にしたらしい。つまりそこから上がってない。完全に楽しみ最優先のパーティー。


 でも、なんか一周して羨ましいよな。「人生なんてゲームと一緒、楽しんだもん勝ち」を地でいってるじゃん。こちとら「人生なんてゲームと一緒、息苦しさに抑圧される前に楽しみ方を見つけないといけない強制スクロール」なんですよ。




「レンマっち、魔法使いなんでしょ? 魔法使いと一緒に戦うの初めてだからテンション上がるわー!」

「それなー。楽しみ」

「レンちゃん、ガツンとやっちゃってな!」


 みんな完全にタメ語になってる。あだ名もバリバリ。


「いや、そんな大したもんじゃないから期待しない方が……」

「何言ってんの! 魔法使えるってだけですごいんだから!」


 全員が都度振り返りながら話してきて、俺は申し訳なさの渦に飲み込まれながら相槌を繰り返した。



 出たよこのパターン。集団で歩いてるといつの間にか最後尾で俺1人になってるパターン。なぜ殿しんがりを務める、俺は集団登下校の副班長か。


 元の世界でも毎回こうだったんだよな。いや、3人グループなら分かりますよ? 自己主張控えめな俺が最後尾になって、前で2人が話してるっていう。先頭に立つのは向こうが話に夢中で道順を意識してないときだけっていう。もはや染色体を持つマップアプリ。


 でもね、今回4人だよ。3人と1人は不揃いでしょ、バランス悪いでしょ。そこでもう一人の俺が言うんですよ。「そりゃいつもの幼馴染4人なら2対2でいけるだろ。向こうだって急にお前の隣になっても話すことなくて緊張するだろ。3人と1人でいいんだよ、何を高望みしてるんだお前は」っていうね。ちょいちょい俺が分裂するんだよな。


 あれ、そういえばいつものメンバーで歩くときは1人になることあんまりなかったぞ……? そっか、シュティーナが配慮してくれたのかな。多分彼女も同じようなことを経験してたに違いない。



「レンちゃん、この辺りってモンスターとか出るの?」


 標高も上がり、痺れ花の咲いてる場所が近づいてきたタイミングで、目玉焼きの焼き加減を確認するくらいの気楽さで聞いてくるハーティ。むしろ知らずにミッション参加してるの凄すぎでしょ。


「ダークウルフって獰猛な狼がいるぞ。この辺りのは特に動きが素早くて厄介らしい」


 アルノルと出会ったときに倒したモンスター。懐かしさを感じながら足に力を入れて最後の急斜面を登ると、パーティー全員がゴロンと横になれそうな平地に着いた。


 遠くに目を凝らしてみると、ピンク色の痺れ花も咲いている。興奮したサイレが、ソラとハーティの肩をぐわぐわと揺らした。


「ヤバい、あった!」

「マジだ! あった! 俺らヤバくね?」

「それなー」

 この会話の生産性の無さがヤバい。


「よし、じゃああとは——」

「ちょっと待て」


 駆けだそうとするサイレの腕を引っ張って止めた。「グルルルル……」という低い唸り声が聞こえたから。


「ここは確かに、走り回るにはピッタリだもんな」


 全身が紺色の毛のダークウルフが2匹、ゆっくりと上から降りてきた。俺達から視線を外さず睨みつけていて、あまり機嫌がよくないのが窺える。


「ガアウッ!」

「この野郎、俺が相手だ!」


 剣を抜くハーティ。それに刺激されたのか、1匹が猛烈な勢いで近づいてきた。


 さすがこの急斜面の多い山で暮らしているだけあって、相当に素早い。俺が一番最初に倒したヤツとは比べ物にならないな。


「行くぞオラァ!」


 思いっきり上段に振りかぶって斬ろうとするが、アルノルと違って剣術を鍛えていないことがよく分かるそのイマイチなスピードは、ダークウルフのジグザグに走る移動を捉えきれない。


「ハー君、後ろ!」

「うおっ!」

「ハーティ!」

 回り込まれた彼を助けるべく、両手を翳して風の魔法を起こす。


 突風をぶつけ、ダークウルフをハーティもろとも吹き飛ばして攻撃を回避した。もともと魔法使えるエリアだから、怪しまれないで良かった。


「レンちゃん、助かった!」

「そっち頼むぞ」


 すぐさま残りの1匹に目を向ける。サイレとソラが対峙しようとしているが、さすがに怖いのか2人とも及び腰になっていた。そりゃそうだよな……


「サイレ、ソラ。ちょっとヤツの動き封じるぞ」


 再び手を翳し、風の魔法。ただ、今度は風を吹かせるのではなく、風を吸いこむ。



 ヒュオオオオオオオッ!



 吸い込む風に引き寄せられ、ダークウルフは思うように動けないまま、足を滑らせるようにザリザリと近づいてきた。


「うわっ、レンマっち、ヤバい!」

「王ヤバい、ありがとー」


 かなり距離も近づき、吸い寄せられる力も上がっている。もう敵は抵抗するだけで精一杯で、ほぼ動けない状態になっていた。


「ヴルル……ルル…………」

「そこまでになってれば倒せるだろ?」

「ありがと、レンマっち!」

 サイレとソラが2人で突撃し、連続で斬り付けて一気に片をつけた。


「レンちゃん、こっちにも風!」

 居酒屋で隣のテーブルと同じもの頼むサラリーマンかお前は。


「こっちは壁あるから、叩き付けるぞ」


 ハーティと距離があるところを狙って突風を吹かせ、ダークウルフをゴツゴツした岩肌の壁にぶち当てる。「ギャン!」と悲鳴をあげながら落下した敵は、起き上がって突進してくるものの、足を怪我したらしく敏捷性が著しく落ちていた。



「これなら勝てる勝てる!」

 ご機嫌に叫びつつ、なぎ払うような剣戟を繰り出し、残りの一匹も仕留めた。



「ヤバいヤバい! パーティーの絆!」

「これこそ絆っしょ!」

「来てるねー、絆」


 ハイテンションでハイタッチする3人。口頭で「絆」を連発するグループとはうまくやれる気がしない。



「レンちゃん、これで花摘めば終わりだよね?」

「だな。さっさと--」

「グルルルルル! バアアアッ!」


 隠れていたのか、物凄い至近距離の草むらから飛び出してきた一匹のダークウルフ。俺とハーティの元にまっすぐ向かってくる。


「ちょっ、ハー君!」



 ここで、俺にとっては、良いことと悪いことがあった。



「この……っ!」



 良かったことは、かなり魔法を使い慣れてきたこと。突然の攻撃にも冷静さを保ちつつ、瞬時に大きな火球を出してダークウルフを丸ごと飲み込む。



「ギャウッ……」



 そして悪かったことは、こういうのを喝采するパーティーピーポーなパーティーだったということ。



「ヤバい! レンマっち、マジでヤバい! ソラちゃん、ヤバかったよね!」

「わかるー、テンション王上がるー」

「レンちゃん、今の魔法、絶対E級じゃないっしょ! 他のE級の人の魔法見たことあるから分かるよ! ねえ、もっかい見せて見せて!」


 やってしまった……。

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