第4章 別パーティー助っ人 ~アカデミー意気消沈男優賞~

第19話 相性、どうでしょう

「ああ……」

「ちょっとレンマ! そんなに落ち込まないの!」


 ミッション管理所を出て、あてもなく散歩をした夕方前。朝たくさんあった雲はいつの間にか無くなっていて、どうやら俺の心に移動してきたらしい。


 休憩用なのか、道端に岩と呼んでいいくらいの石が置かれており、その滑らかな斜面に座って口の中の憂鬱を空に放った。


「なんで俺は詳細を聞かずにオッケーしたんだろうな……」

「いいじゃないの、アルノル達が回復する数日だけなんだし、他のパーティーに名前売るチャンスじゃない!」

「モーチ、それなりの期間一緒にいるのに、よく俺が名前売ろうとしてるって前提に立てるな……」


 アンタの名前が大々的に出たら女神様もきっと喜ぶわ、とブォンブォン舞いながら言われ、俺は反論する気もなくなってガクッと項垂れた。




 幼馴染4人のE級パーティーの1人がケガで一時的に抜けたので、代わりに俺が入る。もうこの予告だけでホラー。「レンマ=トーハンは穏やかな日々を送っていた。そう、あの日までは……」ってモノローグ入ってモノトーンになるやつ。



 管理所では「表向きはE級だし、今ちょうど1人なら都合良いじゃないか」って言われて断りきれなかったけど、収まりがいいだけで相性は不明だから。「塩ちゃんこ鍋の白菜が無いから白菜キムチ入れました」と同じレベルだから。それは何鍋なんだよ。




「うまくできるか不安だ……不安の雪が降り積もる……」

「もうアイスバーンになってそうね……いつもくよくよしてるの、逆に面白くなってきたわ。あ、もちろんアタシだって悩みはあるわよ? どう過ごしたら今日寝るときに笑って自分におやすみって言えるかなあとか」


 悩みのレベルが高次元すぎる。美人な先輩にめちゃくちゃ美味い肉奢ってもらったうえに「あーこれがカロリーゼロだったらなー」って言ってる感じ。贅沢の極み。



「なんか、他の人ってみんなこんなに悩んでるのかなあ、とは思うんだよ。でもさ、たとえ悩んでたとしても、他の人はそれを出さないで生活できてるわけじゃん。そのスキルが羨ましいんだよね」

 悩まないのは無理でも、それを表に出さずに暮らせる力がほしい。


「ほら、レンマ、笑って! 笑ってれば自然と楽しくなるから!」

「いや、無理して笑うってのは自分の意志でやるもんだろ。他人から言われると押し付けだ」

「意外と冷静ねアンタ……」


 のんびりと話して気を紛らわせた後、俺はそわそわしながらパーティーメンバーとの待ち合わせ場所に向かった。






「いらっしゃいませ」

「あ、あの、待ち合わせなんで」


 パーティーメンバーを探す立食パーティーのときにも使った酒場。店員さんの案内を断り、テーブルをぐるぐる周る。


 しまった、どんな人たちか全然聞いてなかったぞ。年齢も性別も分からない。「レンマ=トーハン様」みたいな団体ツアー的な旗掲げてないかな。そんなの掲げてたら逆に近づけないわ。



 3人で来てることは間違いないよな。3人組、3人組……



「この料理ヤバいっしょ!」

「わっかる! これ女子絶対好きじゃんね!」

「それなー。女子弱いねー」


 男子1人、女子2人の若い3人で、戴冠式でも祝ってるのかと思うほど盛り上がっているテーブルがある。未成年っぽいけどセノレーゼは酒に年齢制限ないし、多分酒飲んでるな。


「ね、ね、こっちも甘くて最高じゃね!」

「ヤバい、きてる」




 ここか、ここなのか? 何だろう、もしここだったとしたら、軽く、軽くだけど、カラーが合わない気がしない? 「休日に初めて口を開いたのが、夜21時のスーパーの『あ、袋おねがいします』だった」みたいなエピソードと完璧に無縁そうじゃない?


 いや、違うよな、ただの飲み会だよな? でも他に3人で飲んでる人がいないぞ? 誰か遅れて参加するのかな?


 え、これ俺が声かけるの? 「あの、レンマ=トーハンですけど……」って言うの? 違った場合の恥ずかしさが尋常じゃない。「は?」って顔されたら心がやられる。


 いや、分かってますよ、「聞けば済むんだし、そもそも誰も気にしない」って言うんでしょ。何回も言ってますけど俺が気にするんですよ。「よく見れば違うって気付くだろ。恥ずかしいヤツだなお前は」って1人反省会が始まるんですよ。



 でもなあ。声かけないとかなあ。この子達、絶対俺より若いし、俺が人生の先輩ってのを演技しないといけな——


「ひょっとしてレンマさんっすか?」

 男子に質問受けた! 予期せぬ先制攻撃に俺のメンタルは風前の灯火。


「え、ええ、はい……」

「あ、やっぱりそうだ! 良かったー、ウロウロしてるから用あるのかなあって」


 これは恥ずかしいぞレンマ。お前が不安げな顔で歩いてるから気遣われたんだろ。年下にまで迷惑かけるなよ。



「手伝い、受けてくれて助かったっすよ!」


 青髪のミディアムヘアが印象的なその長身の男子は、立ち上がるといきなり俺の手を取って握手してきた。


「ハーティ、17歳です! レンマさん、よろしくっすね!」


 続いてピンク色のロングカールの女子が立ち上がる。

 シュティーナと違う、自己主張の激しいバストとヒップに、目のやり場に困った俺は少し上に視線をズラして壁の木目を見た。



「うちらメチャクチャうるさくなかった? ヤバかったよね? あ、サイレだよ、よろしく! ハー君と一緒の17歳ね!」


 最後に挨拶してくれたのは、やや気怠そうな女子。白髪ショートの彼女は、立ち上がることなく、ペコリと顎から先に頭を下げる。


「ソラ、16歳ね。よろー」


 俺はベタリと張り付いた笑顔で「レンマ=トーハン、よろしくな」と震えそうな声を抑えて挨拶を返した。




 待て待て待て。なんだこの青桃白の歯磨き粉みたいな髪色トリオは。

 想像の遥か斜め上をいく陽キャ、なんならパーリーなピーポーの可能性もある。しかもなんだって、17歳と16歳? 俺26歳だけど大丈夫? どういう類の罰ゲーム?



「レンマっちもE級なんだよね? おな級仲間じゃん!」


 ピンク色のロングを揺らし、サイレが出会って15秒であだ名をつけてくる。距離、距離感。


 そして顔を寄せてずいっと入ってくる青髪ハーティ。何これ、パーソナルスペース0に近い方が勝ちゲーム?


「いやあ、俺達4人の幼馴染なんすけど、ずっと4人で楽しくいられたら良いよなっつってパーティー始めたんすよね。そしたらもう1人いる男がケガしちゃって。で、ずっと4人でいたのに3人しかいないときの『足りない』感、分かります? ソラ、分かるっしょ?」

「わかる。王つらい」



 ソラがお酒を飲み干しながら呟くように相槌を打った。

 「超」とか「鬼」みたいな「とびきり」のニュアンスの表現って、王国だと「王」になるんだな、知らなかった。


 というかどうしよう、ミスマッチとかそういうレベルじゃない。何もかもが違う。「パンはパンでも食べられないパン、なーんだ?」「離婚した奥さんが得意だったからもう店に並ばなくなったシチューパン」くらいのちぐはぐさ。



 ダメだ、逃げたい。もう無かったことにしたい。


 でもさ、これがまた問題でさ、俺ここで断るってのが出来ない人間なんだよな。「あの人、自分達のこと見て組むのやめたんだな」って思われることが気になっちゃうんだよな。損な性分だよホント。管理所で押されて承諾してしまった俺を恨むぞ。



「レンマさん、楽しくやりましょ! マジで! ほら、サイレも」

「ソラちゃんと一緒に、年上パワー期待してるからね、レンマっち!」

「よろー」


 テンションに感化されたのか、今後のために調子を合わせた方が良いと本能が察したのか、いつもより2段階くらい高いトーンで「こちらこそ!」と返す。



 ああ、元気キャラでも、アルノルはそんなに相性悪くなかったなあ。



 そしてシュティーナ。なんでか君に会って、この出来事を苦笑いしながら語りたくて仕方ないんだ。

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