幕間
第18話 妖精モーチの憂鬱
まったく、アタシも何回か転生してきた人の案内役務めてるけど、今回のレンマはよく分からないわね!
これまでの人はみんな女神様の能力もらって喜んでたのよね。「やったぜ! これで無敵だ! 俺はこの2度目の人生を謳歌する!」って意気込んで、A級になりS級になり、そのまま活躍を続けてるわけよ。
なのに、それなのに。レンマったらいつまで経っても「いや、でもみんなが褒めてるのはこの能力の方だし……」って全然喜ぶ気配がないのよね。
そりゃあれだけすごい能力だったらみんなそれを褒めるのは当たり前じゃない! 大体、貰ったって時点でもう既に自分のものなんだから、遠慮せずに自慢すればいいのに。
「レンマ、自信を持つためには、まず自分を好きになることよ!」
「お前、病気にならないためにはまず手を洗おう、くらいの簡単さで言ってるけど、それが一番難しいだろ……」
「気落ちしそうになったら、自分に向かって『今の自分でいいんだよ』って5回唱えるの。思ってなくても、まずは唱えるところからね!」
「……分かった。ちょっとずつやってみる」
アタシができることが、他の人はできない。そんなことは誰にでもあることで、アタシだって家事は苦手だから、やり方を教えてもらえないと野菜もまともに切れない。
だけど、「アタシはアタシを認めてる」っていう当たり前にできていること、このやり方を教えるのは難しい。多分、技術の問題じゃなくて、考え方や意識を変えるってことだから。
アルノルはアタシと同じタイプだと思う。人生を真っ向から楽しんでいるというか、レンマみたいに「受け取れる幸せの量が人より少ないから行動を増やすしかない」みたいな理屈じゃなくて、単純に楽しいから活動範囲を広げてる感じ。
剣の腕も上がってきたし、S級には届かないけど、もう少しでA級の剣士と肩を並べられると思う。
シュティーナは完全にレンマタイプ。いつも女王候補らしく上品に振舞ってるけど、たまに目に光がなくなって「薬草よりは役に立ちたいのですが……」とかブツブツ呟いたりしてる。
個人的には、あの2人結構お似合いだと思うんだけどなー、どうかなー。2人とも自分から積極的に行くタイプじゃないからなー。妖精らしくアタシがキューピットやるしかないかなー! レンマ焚き付けなきゃかなー!
そんなわけで、レンマの自己肯定感を上げるのが目下のアタシの悩み、というか目標。
今日は女神様への状況報告。雑談がてら話題に出してみた。
「なんなんでしょうね、レンマって」
「お前も分かっているだろう、モーチ。自分で自分を認めるのが下手なのだ」
ゆらゆらと波打つ水色の壁に囲まれた部屋で、美しい女神様にお会いするときは至高の時間。ああ、柔らかそうで透明な肌に、いつまでも触っていたくなる綺麗なウェーブの金色の髪、まさに神としか表現できない麗しさ。名前を呼ばれるとドキドキが止まらない!
「自分くらい自分を好きでいるのが普通なんじゃないかって、アタシなんかは思っちゃいますけどね。最後に頼れるのは自分だけですし」
興奮を抑えて答えると、女神様はフッと微笑んだ。それはどこか、「お前には分からないかもしれないが」と苦笑するみたいに。
「多分、アイツも頭の中では分かっているだろう。だから、アイツもずっと卑屈なわけじゃない。楽しいときは楽しんでるし、魔法にも慣れてきてるから少しずつ自信はついてきているだろう。ただ普通の人よりも不安定なだけだ。別に大きな事件や悲しい出来事がなくても、極論何もきっかけがなくても、気分が地の底まで沈んでしまうことがある。そういう人間だ」
ああ、レンマ本人も同じようなこと言ってたなあ。
「じゃあ、そこまで分かっててなんで転生させたんですか? 転生してもメンタルって変わらないですよね?」
その質問に女神様は、思うところのある笑みを湛えた表情のまま「どうだろうな」と言い淀む。
「くよくよしてはいるけど、生きてることに悲観してるわけではないからな。それに、私の猫だって、魔法使いの悪党の件だってちゃんと助けてくれただろう? 誰かのためにそうやって動ける人間は、消えてしまうには勿体ないからな」
ふうん、そういうものかな。確かに、基本的に良いヤツだしね。
「じゃあ、そろそろアタシ戻りますね!」
「それに」
帰り際、女神様が小さく呟く声が聞こえた。
「昔の私にどこか似てるしな」
何か変な言葉が聞こえた気がするけど、気のせいだろう。
さあて、またレンマに会って、この「セノレーゼの元気印」がチアアップしないとね!
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