《初夏》雄蜂(ドローン)ユージ

 この世に女は二つしか居ねえ。

 乳母ワーカーか、ビッチ女王だ。


 おう、自己紹介するぜ。

 俺はドローン《怠け者の意・雄蜂を指す》ことユージだ。羽化して10日目ってとこだな。


 グレートビッチ女王が大きめの六角形の部屋(雄蜂の部屋は大きめ)に産み落としたのがこの俺たちだ。俺たちは物心ついた時には女たちの出すミルクに浸り、それから先もずっと女たちが渡す甘い汁を吸って過ごす。

 ホワイトミルク、ローヤルゼリー、チチ。呼び方は色々あるが、これだけは言える。羽化して12日目の出す乳母姉ちゃんのミルクが最高だぜ。


 ※羽化して12日目のワーカーが一番良いローヤルゼリーを出す。


 俺たちは長い舌を持たねえ。女たちが持つ針も持たねえ。だから、外界で蜜の採集も出来ねえし、外敵と戦うこともできねえ。

 そのかわり、女たちの倍はあるデケエ眼を持ってる。ああ、あと、もちろん女には無え、ピストルな。

 俺たちがやる事は一つだからよ。

 飛んでビッチを見つけて追いかける。ビッチに追いついて捕まえてガンを撃つ。ズドン。以上。

 そのために、ビッチが良く見えるようなデケエ眼が必要なわけよ。


 ※雄蜂は女王蜂が良く見えるように大きな複眼(色別)、三つの単眼(明暗)を持つ。


 そんなわけで、俺たちは時期が来るまで仕事っつー仕事がねえ。元からそんな身体で生まれてねえもんよ。

 ねえちゃんたちワーカーの負んぶに抱っこの生活で、今もぬくぬくと暮らしてる。

 サナギからかえったとき、ねえちゃんたちは、はやし立ててくれたぜ。ハイ、キューティーボーイズ、ってな。すぐに口移しで俺に甘い蜜を呑ませてくれたりしてな。まあ、ちやほや優しくしてくれたのは最初だけだ。日齢が進めば、ねえちゃんたちは段々無愛想になってくる。俺がせがめば、ねえちゃんたちはすぐに口移しで蜜を与えてくれるけどな。なんてえか、今じゃ機械的だぜ。愛想もクソもねえ。無理もねえか、姉ちゃんたちは目が回るような忙しさだからよ。

 反対に俺は時期が来るまで、暇だったぜえ。

 巣の中を一日中ウロウロするか、飛行練習するしかねえもんよ。


 ニュービックビッチ新女王蜂が生まれた頃、ようやく俺たちは活動を開始した。

 いい天気の日は外に飛び出して、探し求めた。

 俺だけのビッチを。


 実は俺はもう三回も取り逃がしている。

 そろそろ決めるぜ。いい加減にな。

 今日も天気の良いことを確認して、俺はたらふく姉ちゃんたちから蜜をもらい、巣から出た。ピストルを撃つには馬力がいるからよ。

 しっかし、相変わらず愛想のねえ姉ちゃんたちだぜ。ゲートキーパーの姉ちゃんは俺たちに声をかけてくれさえしない。頑張って、ぐらい言ってくれりゃあいいのに。



 巣から飛び出ると、ビッチが出す強烈な匂いがした。俺は途端にいきり立つ。たまんねえ。いつもこの匂いはよ。

 ビッチは巣から出ると特別なフェロモンを出しやがる。それに惹かれて俺たちはビッチを追いかけるんだ。

 変わった話だが、俺とビッチが巣の中で出会ったとしても俺たちはお互いに何も燃えねえ、感じねえ。

 巣の中ではビッチはおフェロを出さねえんだ。

 まあ、同じ巣のビッチはこっちだって手を出そうとは思わねえよ。おふくろが同じなのによ。

 でも、この間の飛行で同じ巣のビッチとドローンがスイッチが入っちまって、おっ繋がろうとしたんだよ。おフェロのおかげで、お互い何が何だかわからなくなってたんだと思う。

 そしたら、同じ巣のワーカーたちが飛んできて寸止めしやがった。ご苦労なこったよ。姉さんたちは。そこまで目を光らせてるんだからな。


 ああ、ゾクゾクきやがる。いつもに増して強烈にシビれるぜ。俺の好みのビッチの匂いだ。

 俺は羽ばたき、その方向に飛んだ。

 見つけた。

 俺の複眼はその女を確実に捉えた。

 その女を狙ってるのは、羽化仕立てのガキばかりだった。しめた、これは確実にいけるぜ。


「オラオラ、ノロノロ走ってんじゃねえ!」


 俺はガキどもを追い抜き、先頭の女を目指す。

 これは俺のもんだ。


「よお、セクシーヒップちゃん」


 チラリ、と女が俺の方を見た気がした。女はそれからさらに加速する。

 あたしが欲しかったら捕まえてごらん、て奴だ。

 俺は間を詰め、一気に空中で女を背中から羽交い締めにした。


「おてんば女め。観念しな、お前は俺のビッチだ」


 女が振り向いた。


「なんと無礼な男よ! 妾にそんな口を」


 ゴクリ。

 俺は息を飲んだ。


 すげえ。上玉だ。

 気が強いのも俺にはもってこいだ。それこそ征服しがいがあるってもんだぜ。


「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ。お前のビッチなアソコが、俺のピストルを欲しがってるって素直に言えよ」


 女はたちまち顔を赤らめた。


 嘘! おい、マジか? この女、初物だ。

 ちくしょう! まさか一番乗りなんて願ったり叶ったりじゃねえか!


「お前、俺が最初の男になるのは嫌か?」


 興奮する気持ちをなんとか抑え、俺は女をしっかり抱きしめながらキメ顔で問うと、女は恥ずかしそうに否定した。


「いや、妾に最初に追いついたのはお前だ。お前に妾の身体を委ねる。許す、お前の種を妾の身体にまくが良い」

「そうか、お前名前は?」

「レイカ」

「そうか、俺はユージ」


 俺はレイカを抱く手に力を込めた。


「俺を一生、忘れられなくしてやるぜ、レイカ」


 レイカが頼もしそうに俺を見上げた。その目の端にいやらしい媚びが微かに見えて、俺はやっぱりビッチはビッチだと思う。


「優しくしてやりてえが飛びながらだ、残念だが手加減は出来ねえぞ、レイカ」

「わかってる」


 そう答える腕の中の処女ビッチが小さく震えてるのに気づく。なんだ、これ。口では強気な女が必死で恐怖に耐えている様。

 ツボなんだけど。すげえ可愛いんですけど。


「レイカ。お前みたいないい女を最初に抱けるなんて、俺は果報者だぜ」

「……私も、お前のような男を最初に選んだことを幸運に思う、ユージ」


 可愛い事さらに言ってくれちゃってるんですけどおおおお!

 ますます、抑えがきかないんですけどおおおお!


 俺はレイカの尻を捕まえ、既に露出していたガンを近づけた。

 飛びながらだ。

 言っとくけど、これ。すんげえ難しいから。


「レイカ、いくぜ」

「来い、ユージ」


 怯えながらも気丈に応えるレイカ。

 俺はたまらず、俺の先っぽをレイカの尻の先に突き刺す。

 途端に全身に快楽と多幸感が走った。


「レイカ、レイカ、ああ」

「ユージ、ユージ」


 ああ、俺はこの瞬間のために生まれてきた。

 今、ようやくそのことを痛感する。


「俺の子を一番沢山産めよ、レイカ!」


 俺は俺のピストルから渾身の弾をレイカの中に打ち込んだ。

 言っとくけど、飛行しながらだから。これ、すげえ腹圧かかります。


「ああっ、ユージ!」


 文字通り、俺は体内爆発した。

 俺の弾がレイカの身体に流れ込むと同時に、俺のガンは俺の体内から内臓ごとずるりと抜けていく。

 絶頂の後の、喪失感、身体の硬直。


「沢山産めよ、レイカ!」


 俺は最後の言葉を叫びながら、レイカの身体から離れ、地面へと落下し、絶命した。






 ※雄蜂は交尾後、性器ごと精嚢を引っこ抜かれ、体内爆発して死ぬ。







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