第4話
翌日。
私は頭痛で目が覚めた。
部屋のテーブルにはビール缶が数本転がっていた。
「痛たたた」
休みの前の日は、つい飲み過ぎてしまう。
ベッドから起き上がれず、手探りでスマホ探して、画面を見ると半年前に別れた恋人から着信が入っていた。
その恋人とは3年付き合った。けれど、最終的に私の気持ちが冷めてしまって別れを切り出した。とりあえず相手も分かったとは言ってくれたものの、こんな風に夜中に電話をしてくることが未だに何度もあった。
内容はいつも同じで、酔っ払った元恋人が
「俺の何がいけなかったわけ?好きじゃなくなったとかさ、俺何かした!?」
とキレてくる内容だった。
私はそれに対していつも「ごめんね」とひたすら
謝る事しか出来なかった。
そして、翌日になると逆に元恋人の方がメールで「昨日はごめん」と謝ってきた。
私にも分からなかった。
分からなかったけれど、好きという気持ちはいつも燃料がなくなるみたいにふっと消えてしまうのだ。
一応は私なりにも頑張ってはみた。
初心に戻ろうと、初めて出会った場所で待ち合わせをしてみたり…。けれどその日、元恋人は寝過ごして約束をすっぽかした。
一緒に夜を過ごす時は、私はしたくない夜でも無理にしたがる彼の強引さにいつも応じていた。けれど、コトが終わると背中を向けて、すぐに眠ってしまうことにうんざりしていたのだった。
分かっている。
これはとても些細なことで、そんな事で気持ちが冷めてしまう私が悪い。
私の燃料は多分、元々そんなにないのだと思う。
私は誰かを本気で好きになることは出来ないのかもしれないと、その恋人と別れた時に悟った。
思えば、私の恋愛は高校生の時から、その繰り返しだった。別れ際には毎度怒鳴られていた。普段、怒鳴る様な人ではない人達が私のせいで怒鳴るのだ。
それなのに、懲りずにまた誰かを好きになって同じ事の繰り返し。
今回に至っては、結婚まで話が出ていた相手だったので、私はダメ人間なんだとつくづく悟った。
けれど、したくない時のセックスの虚しさと、その後の彼の背中を見ることに私は耐えられなくなってしまった。だから、別れた後なるべく相手の気の済むまでは罵られようと思い、夜中の電話にも毎回出ていた。
それなのに、昨日はその電話さえ気づかなくて眠ってしまっていた。
私は人の痛みが分からない人間なのだろうか。
とりあえず、空気を入れ替えようと窓を開けて、ベランダで深呼吸をしていると下の方から視線を感じた。
嫌な予感がして下を見ると、やはりそこには奥田くんが立っていた。
「お、おはよう〜、これから大学かな?」
私は気まずさを隠す様にヘラヘラとしてみた。
「夜中、すっごい音したんですけど」
やっぱり…。
「あ〜、ごめんね。以後気をつけます」
奥田くんは自転車に乗って出かけようとして、
また振り向いた。
「それから!あんまりそういう格好でベランダ出ないほうがいいと思いますよ!」
そう言って、彼は行ってしまった。
そういう格好……?
私は何も考えず、ベランダに寝起きで出ていたのを思い出した。急いで部屋に入って自分の姿を鏡で見てみた。ロングカーディガンは羽織ってはいるものの、胸元の開いたキャミソールにスウェットパンツという軽装の上、寝癖つきというひどい格好だった。
これで、朝から落ち込みが2つになった。
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