第13話 魔族襲来①

魔王の朝は早い。というか、睡眠は不要だ。そんな魔王は魔王城の一室で寛いでいた。


「あー…暇だ。敵とか襲ってこないかな…」


妖怪たちは平和な日々を過ごしていた。しかし、平和すぎて好戦的な妖怪たちは暇を持て余していたのだった。


「この前の宴のような勝負事をするか?しかし、眷属同士だとお互いに本気が出せないしなぁ…」


この時、魔王は己の願いが意図せず叶ってしまうことなど知る由もなかった。



ーーーー

ーーー

ーー


羊の頭、背中には黒い鳥の羽を持つ魔族の男”バフォメット”が魔王城の近くにきていた。


「まさか、こんな物を見つけてしまうとはな…さて、どうするべきか。」


脳裏に我が主人、アモン様の恐ろしい顔が浮かぶ。


「少しでも情報を得てから魔王様の元へ戻るとするか。」


バサッと翼を広げ魔王城の上空まで飛んでいく。


「あれは…城か…?」


バフォメットの視線の先には灼熱の業火の上に浮遊する見たこともない形状の建物が見えた。ただ、分かることが一つだけあった。


「あれは人間の作った建物じゃないな…」


それに、我らが魔王に匹敵する気配をあの城の中から感じ取っていた。


「さて、少し降りてみるかな」


バサッと翼を折りたたみ一気に急降下をする。そして、城壁のすぐ近くにある森に降り立った。


「どんな奴がいるか楽しみだな」


ーーーー

ーーー

ーー


日本の魔王、山本五郎左衛門はある気配を感じ取っていた。


「む、なにか上空を飛んでいるな。」


その気配に意識を集中させると、気がつかれたのかすぐに森の方へ飛んで行ってしまった。


「…少しは楽しめると良いのだが。」


久々に戦いが待っているのかもしれないと魔王は嬉しそうに口角をあげた。



「魔王様!なにやら見知らぬ魔物が現れました!!」


「そうか!今行こう!!」


(よし!!きたきた!!暇潰しじゃぁあ!!)


魔王が現場に到着するとそこには羊の頭に黒い翼の魔物がいた。


「くっ…もう見つかってしまったか」


羊は妖怪に囲まれて逃げ場を失っていた。


「ちっ…大した情報を得られなかったがしかたあるまい。」


羊の魔物、バフォメットはどこからか禍々しい髑髏の杖を取り出した。


「魔王様が配下の一人、バフォメット様が少しだけ遊んでやろう!」


バサッと黒い翼を広げ上空に飛び上がり、空中に留まった。


「折角の機会だ。この街を焼き払ってやろう!」


杖から炎が蛇のようにうねりながら街へと伸びていった。


「ハーーッハハハ!!燃えてなくなれ!!!!」


魔族は強力な魔力を保持しており、無詠唱で魔法の使用ができるのだ。


しかし、その炎は街へ届く前に何かに阻まれ消えてしまった。


「残念だったな。この街には結界が貼ってあってな、その程度の力じゃ結界は破れないぞ。」


「な、なんだと…」


バフォメットは再び杖に魔力を込める。


「いでよ!我が眷属たちよ!!!」


バフォメットの前に黒い穴が空き、そこから羊や蛇に羽を生やしたような魔物が次々に姿を表した。


「結界が破れないのであれば、住民を殺すまで!!その死体を持ち帰れば、アモン様もさぞかしお喜びになられるだろう!!ハーーッハハハ!!」


「あっそう。おーいみんなー、暇つぶしの時間だぞー。」


血の気が荒い妖怪は待ってました!と言わんばかりに騒ぎ出す。


4匹の輪入道が勢いよく魔物の中へ飛び込んでいく。輪入道の姿を見てしまった魔物は魂を奪われ、次々にバタバタと倒れていく。


「俺にもやらせろ!」


そういって飛び出てきたのは、魔王の眷属の中でもトップクラスの実力を持つ”酒呑童子”だ。


酒呑童子の持つ武器は『童子切』と呼ばれる太刀。刃渡りは80cmにも及ぶ。それを目にも留まらぬ速さで振り、魔物を切り裂いていく。


「まだまだぁあ!!!」


酒呑童子は左手の手のひらを前に突き出すと、そこから青白い炎を放射した。


炎に当たった魔物は跡形もなく姿を消した。


「なあ!?もっと楽しませてくれよッ!?」


バフォメットはその信じられない光景を見て呆然としていた。


「な、なんだこいつらは…こんな力を持った生物がこの世に…なぜ今まで気がつかなかった…」


「とりあえず降りてこい。」


突如として浮力を失ったバフォメットは真っ逆さまに地面に落下した。


「ぐぅ…なんだ、一体何が…!」


よく見ると、己の翼が切断されていることに気が付いた。


「ばかな!?いつのまに…!!」


「なに、斬撃を飛ばしただけだ。」


そういう魔王の手には一本の刀が握られていた。


「これはただの刀だ。特に能力はない。しかし、恐ろしいほど頑丈で使い勝手が良い。使い手の実力次第で化ける。それがこの刀だ。ああ、ちなみにお前の翼はこの刀で斬撃を飛ばして切断した。」


「おのレェエ…こんなところでぇ…!!」


バフォメットの体が急激に巨大化を始めた。同時に二足歩行から4足歩行に代わり、ツノは更に巨大化する。そして、切断された翼も再生し、再びその大翼が広げられた。


「貴様ラ…モウ許サンゾォオ!!死ネェエエ!!!」


バフォメットの口から紫色の光線が放たれた。着弾点から次々と大爆発を引き起こす。


「我ガ、眷属タチヨ!俺ニ力ヲヨコセ!!!」


召喚されて生き残った魔物がバフォメットの体に吸収されていく。


「ガァアアアアアアア!!!!!」


更に巨大化し、頭は羊と獅子、尻尾は蛇、背中に翼を生やす、『キメラ』となった。


「ペットにするならいいかもなー…いや…喋るペットとか何か嫌だし…いらないか。」


ザシュ!と魔王は羊、獅子、蛇の首をほぼ同時に切り落とした。


「グ…グギャァ」


ズッシーンと砂埃をあげながらキメラは地に伏した。


「終わったか。てか、誰だったんだ…??」


ーーーー

ーーー

ーー


(まさか、これほどとは…急ぎこのことをアモン様に伝えねば!)


バフォメットは眷属の狼に似た魔物に精神だけを乗り移らせ生き延びていた。


(キメラになった俺を瞬殺…どんな化け物だ!だが、次は魔族を他に率いてきてやる…この借りは必ず返すぞ…!!!)


魔王城に到着するやいなや魔王の元へ急いだ。


「なんだ貴様は!」


魔王アモンを守護する魔族に足を止められてしまった。


「お、俺です!バフォメットです!」


「バフォメットだと?確かに気配を感じるな。」


「すぐにアモン様にご報告しなければならないことがあるのです!」


足止めを食らっていると、目的の部屋から声が聞こえてきた。


『ほう、話を聞こうじゃないか』


それは、魔王アモンの声だった。


「なるほど、恐ろしい力を持つ者たちが街を作っていると。」


「は、はい!」


「ほう、魔族でもなく、人でもない。古龍でもない。では、なんだ?」


「未知の生物…です。」


アモンはバフォメットを睨みつける。


「我配下に加われと今すぐに伝えに行け。もし、断るようなら____滅ぼせ。」


こうして、魔王の配下の魔族たちが異世界魔王である山本五郎左衛門の元へ出立するのだった。


ーーーー

ーーー

ーー


そのころ魔王・山本はというと。


「魔王様、結局こいつなんだったんですかね?」


「まぁ、いつかはこの街のことを知られるとは思っていたがな〜。」


眷属の妖怪たちと、襲撃してきた魔物について調べていた。すると、


____ドッカーン!!という爆音が突如鳴り響いた。


どうやら、何者かが上空から街めがけて何かを撃ち放ったようだった。


「聞け!!この街に住まう者共!!」


上空から声がかかり、妖怪たちは一斉にその方向を振り向いた。


「我らは魔王アモン様に忠誠を誓う魔族だ!単刀直入に言おう、我らの配下に加われ!」


(配下だと?いや、それよりも魔王と言ったか?この世界にもいるのか、我と同じ魔王が)


日本の魔王。魔王山本は久しぶりに血が疼きだした。


(面白い。これは面白い。やはり来て正解だったな。この世界に)


「我らの配下に加わらぬというのならば、この街を__貴様たちを滅ぼす!」


(ほう、我らを滅ぼすか。)


山本は口を開き上空にいる魔族とやらに要求に対しての返答を撃ち放った。


「我は異世界よりこの地に訪れた魔王、山本五郎左衛門だ!貴様のセリフをそっくりそのまま返そう!魔族どもよ、配下に加わるのは貴様らだ!でなければ___滅ぼす」


その返答を聞き、魔族は驚愕の表情を浮かべた。


「なんだと?魔王だと…?それに…配下にだと…?我らを滅ぼす?それは、我ら魔族に対しての宣戦布告と受け取っっていいのだな?」


「ああ、その通りだ。この世界に来たのだがな、思った以上に平和で退屈していたのだ。暇つぶしにはなるだろう。」


「おのれ…どこまでも侮辱をしやがって…」


合計で8体の魔族が姿を表した。


「言い忘れたが、先日貴様らが倒した魔族とはわけが違うぞ。我らは更に上位の存在__魔神である。」


自らを魔神と名乗った魔族から黒いオーラがゆらゆらと漂い始めた。


「さて、我らもいくとするか。みんな仲良く、分けあって戦うぞー!」


(一番強い奴はどいつかな?)


こうして魔族と妖怪による対戦の火蓋が切って落とされたのだった。


「よし、じゃあ、あいつでいいか」


魔王山本は影から刀を取り出すと、最初に現れた魔神を目掛けて斬撃を飛ばした。


「なんだ、その攻撃は舐めているのか?」


その魔神はなんと素手で斬撃を弾いた。明らかに今までの敵とは別格の強さを持っていると確信した瞬間だった。


「へぇ…やるな。名前はなんだ?」


「…魔王様が配下の一柱。ハーゲンティ。」


その頃、別の場所でも戦いが始まろうとしていた。


「俺の名は酒呑童子だぁ!!テメェ…さっさと名乗れや!!」


殺意がバチバチと彼から放たれている。普通の人間ならば正気を保てないだろう。


「全く…品性のかけらもありませんね。」


長髪で、貴族が着るような豪華な服を着る美男子と呼ばれるような容姿の魔神が口を開く。


「まぁ、いいでしょう。私の名はアミーと言います。もう会うことはないと思いますが、どうぞ、よしなに。」


「ああ!!くそッ…!!イラつく話し方だなぁ!!」


酒呑童子は童子切を抜刀した。


「ぶった斬ってやる…!」


「それは困りますね。」


アミーが地面に手をかざすと魔法陣のようなものが浮き上がり、そこから長槍を取り出した。


「さあ、始めましょう。」


酒呑童子が童子切を自分の頭上に構え、跳躍する。


「オラァァアアアッ!!!」


「ふふ、そんな攻撃じゃ隙だらけですよ?」


そのまま串刺しにしようと長槍を空に、空中にいる酒呑童子に合わせて刃を向けた。


しかし、彼が串刺しになることはなかった。


酒呑童子はとっさに左手で長槍を掴み、思いっきり自分の方へ引き寄せた。


「なっ!?」


あまりの馬鹿力により、そのまま引き寄せられて、危うく刀の錆びになる寸前だった。アミーは即座に長槍を手放し、後方へ回避した。


「中々やるようですねぇ…」


再び魔法陣から長槍を取り出しながら話す。


「いいから本気でこいやぁあ!!」


「いいでしょう。少しだけ私の力を見せてあげましょう。」


アミーの持つ長槍が炎に包まれる。ゴォオと音を立てながら

灼熱の炎が長槍に宿された。


「さあ、お前たちも出て来なさい。」


アミーが声をかけると、炎が狼や大鷲の形になり、飛び出して来た。


「私の使い魔です。美しいでしょう?」


ガルルルルと喉を鳴らした炎の狼がと炎の大鷲がピューと鳴きながら突進を始めた。


酒呑童子が童子切で切り裂こうとするが、すり抜けてしまい、それは叶わなかった。そして、突進をもろに食らってしまった。


彼の体はボウボウと燃え上がり、見えなくなった。


「終わりですね。言うほどにもありませんでしたね。」


「何を言ってんだ?ああ?」


炎の中を平気な顔で酒呑童子が歩いてくる。


「こんな火力じゃ俺は焼けねえなぁ!!」


「やりますね…」


酒呑童子が左手を前に突き出す。


「いいか?炎ってのはこう使うんだよ!!」


ボォオオオオオオ!と青白い炎が使い魔を焼き殺しながら、アミーの方へ放射された。


「これは!?」


アミーは魔法壁を展開し、それを防ごうとするが一瞬で炎に包まれてしまった。


「くっ…があああああああああ!!!」


炎がおさまるとマミーの姿が見えて来た。


「はぁ…はぁ…今のは…かなり…効きました…しかし、あれがあなたの切り札ですか?残念でしたね。あれだけの力を使ったあとです。疲れが溜まっているんじゃないですか?」


ぼうぼうと燃え盛る長槍を構え、アミーは酒呑童子に突きにかかった。


「はぁあああ!!」


高速で突きが連続で繰り出される。酒呑童子は童子切を使いそれをいなす。


「さっさと死んだらどうです?」


突きをやめると後方へ下がり、即座に手のひらに火の玉を出現させボールを投げるように酒呑童子に高速で投げつけた。着弾すると天に届きそうなくらいの火柱が出現した。


「どうですか、私の炎は?美しいでしょう。」


「ぬるい」


またしても炎の中から声が聞こえて来た。常人なら骨まで消滅する炎の中からだ。


「正直、期待外れだ…お前…弱いな。もういい、帰るわ。じゃあな。」


「なんだと…この私が…弱い?」


酒呑童子は答えることなく、背を向け歩いていく。


「私に背を向けるな!!」


燃えたぎる長槍を酒呑童子目掛けて投擲する。


真っ赤な軌道を描きながら一直線に伸びていく。


「頭はもうお前に興味がないのです。諦めなさい。」


バキンッという音がすると長槍は真っ二つになり、別々の場所へ飛んで行った。


「…なにものですか?」


そこに現れたのは着物を着た黒髪ロングボブの美しい女の鬼だった。


「私の名は、茨木童子。酒呑童子様が家来の一人です。」


「ちょっと!茨ちゃん!行くの早いよぉ〜!!」


先の鬼と同じように着物を来た赤い髪でツインテールの女の鬼が現れた。


「始めまして!星熊童子でーす!!」


彼女が名乗ると、ズドーーン!と空から何か降って来た。


「二人とも…はやい…落ち着くの」


まだ幼いであろう少女の鬼が現れた。熊の毛皮を纏っている。


「初めまして…?熊童子です…」


「くまくまが遅いんだよ〜!」


星熊童子がぷにぷにと、熊童子の頬をつつく。


「星姉…そんなんだから…主様に逃げられる…」


「…なんですって!?」


そんな会話をしていると、新たに二人の女の鬼が現れた。


「おいおい、また喧嘩か〜?お?あのロン毛野郎がアタシたちの獲物か??」


「虎!やっときたのね!!」


虎と呼ばれる鬼、彼女の名は虎熊童子。虎の毛皮を纏った銀色の髪でウルフヘアーの鬼だ。


「アタシの名は、虎熊童子って言うんだ。よろしくな!」


「そして、最後に私ですわね。私は金童子といいますの。以後お見知り置きを。」


金髪でウェーブのかかった胸のやたらと大きい鬼が現れた。


「はぁ…結局、皆来てしまったのですね…」


茨木童子が呆れたように答える。


「当たり前だよ〜!」

「もちろん…抜け駆け許さない」

「当然だな!」

「当たり前よ〜」


「まぁ、いいでしょう。仲良く5人で分けましょう。」


大人しくその光景を見ていたアミーだがついに限界を迎えてしまった。


「先ほどから…黙って聞いていれば好き勝手に言ってくれますね?私に勝てるとでも?」


「はい、勝てますが?」


「…小娘が!!!」


アミーは再び魔法陣から長槍を取り出し、即座に炎を宿らせる。


「焼けて死になさい!!!」


ガキン!!長槍と刀がぶつかり合う。


「こんな得物…溶かしてあげますよ!!」


アミーはさらに炎の火力えをあげる。鉄製ならすでに溶けている温度だ。


「な、なぜ…溶けない?」


「この刀は村正という妖刀だからですよ。」


スッと茨木童子の姿が見えなくなったと思った次の瞬間、アミーは背中を切られていた。


「があっ!い、いつのまに…!」

ぶん!と長槍を横に振り茨木童子を切り裂こうとしたが、当たるはずもなかった。


「次は私〜〜!!」


星熊童子は二刀流だ。背中に担いでいた刀を鞘から取り出した。


「いくよー!!」


×の字に刀を構え、急加速し、目にも留まらぬ速さで複数回アミーを切り裂いた。


「がぁあ…がはぁ!!」


「まだまだ!妖術を使うまで死なないでね!!」


そう、彼女らは一切本気を出していなかった。


「まって…手加減して…私たちに回ってこない…」

「そうだぜ!!」

「そうよ〜手加減をしてほしいわね〜」


「ま、まさか…こいつら…全員…同じくらいの力を…?そ、そんなの勝てるわけ…」


「んー、じゃあみんなで一緒にやろっか!」


「私は結構です。」


茨木童子が近くにあった妖怪が運営する茶飲み屋でお茶を飲み始めた。こんな日でも店は通常営業だ。妖怪は好きな時に好きなように生きるだけだ。ちなみに無料である。


「お気になさらず、私はここから見てますので。ずずずー」


「ま、いっか!じゃあ、みんないくよー!」


「「「「せーの!」」」」


彼女らは一斉に斬撃を飛ばした。


「ひ、ひぃいい…!こんなところで…!!」


魔法壁を展開し防ごうとしたが、バリーンと壊れてしまい意味をなさなかった。最後に自慢の長槍で防御体勢をとるが、その長槍ごとアミーは分断されてしまった。


「ま…おう…さ、ま…」


アミーは塵となって消滅した。










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