第14話 魔族襲来②



妖怪たちの街では魔族との戦いがまだ続いていた。


「あれは…城か?やけに派手だな。まるで魔王城みたいじゃないか。」


カラスのような黒い翼を持ち、顔には鳥を模したタトゥーのある魔神が魔王城上空を飛行していた。


「強そうな奴らはアイツらが戦っているし、俺はあの城に入って中の奴らを皆殺しにするかぁ…」


バサッ!と翼を動かし、魔王城に入れる場所はないかと探す。


「お主、どこへ行こうとしているのかのう?」


「だ、誰だ!」


まさか上空で背後から話しかけられるとは思っていなかったため、簡単に背後を取られてしまった。


「わしは大天狗じゃ。異世界からこの地にやってきた妖怪じゃ。」


「妖怪…?聞いたことねえな…まぁいいか。俺の名はアンドラス。あの城の中の連中を皆殺しにしてやろうかと思っていたところだ。」


「ほほう、皆殺しとな!」


「その前に、てめえを殺すがな!!」


隠し持っていた剣で大天狗に切りかかった。


「ワシの暇つぶしにすらならんかものう」


その攻撃をスラリと躱し、強力なかかと落としをアンドラスの頭上に落とした。


「ひぎぃ!!」


変な声とともにアンドラスは地面に叩きつけられた。


パラパラと砂埃が舞う中、アンドラスは同族と目があった。


「あ、アンドラスか?」


「ふ、フラウロス…」


フラウロスと呼ばれる魔神は、人間と獣を組み合わせた所謂、獣人の姿をしている。


「なんだと?」


「ば、ばけものだ…!化け物がいるんだ!!!」


「それは、わしのことかの?」


大天狗が、翼を閉じ、彼らの目の前に降り立った。


「…こいつか?」


「ああ…!俺だけだと勝てない…手を貸してくれ」


「ああ、わかった。」


彼に宿る炎が具現化し、フラウロスの体毛が炎に変化する。まるで炎の獅子だ。


「俺も全力でいくぜ…」


アンドラスは眷属の狼を召喚した。その数__30匹。ワォーと遠吠えをあげている。


「ほほう、少しは楽しめそうかの?」


フラウロスが拳を固める。猪突猛進型で彼の戦い方は至ってシンプルだ。相手に当たるまでひたすら殴るというものだ。


「うらぁあああああああ!!」


大天狗を目掛けてフラウロスが殴りかかった。大天狗は頭を少し傾けるだけでそれを躱した。


だが、フラウロスは攻撃の手を休めない。


「オラ!!オラオラオラ!!」


あまりの速さに拳の数が増えた様にも見える。


「中々いい殴りじゃの!」


大天狗はフラウロスの拳を掴み、そのまま投げ飛ばそうとした瞬間__


「そのまま押し潰してやる!!」


フラウロスの肩の部分の炎の勢いが増し、まるでジェットエンジンようなパワーで大天狗を押し出し始めた。


「ぐぐぐ…やるのう…!」

「潰れろぉおおお!!!!!」


上空からの攻撃ならば結界で防げるが、すでに結界内にいる状態での一撃だったため、地面に亀裂が走り、大天狗は徐々に地面の中へ減り込んでいく。


フラウロスは炎の勢いを使い20mほど飛び上がった。そして、地面にいる大天狗に向けて重力と炎の噴射を使い急降下を始める。


「終わりダァあああ!!!」


先ほどとは比べ物にならない威力となった拳が、隕石のごとく大天狗に降りかかる。


「ほう、いい攻撃じゃ。お主代わりに食らってくれんか?」


「あ?」


アンドラスの方へ近づき、そのまま大天狗は彼を上空に__隕石と化したフラウロスの方へ投げ飛ばした。


「な、なにを!!」


「おい!!アンドラスどけぇええ!!!!」


しかし、既に遅し。


アンドラスの顔面にフラウロスの拳が炸裂した。そのまま勢いを残したまま地面に激突し、爆音と爆炎であたりが包まれた。


「ぐふっ…ごほっ…ごほ…がぁ…ああ」


アンドラスは瀕死の重傷を負いながらもなんとか生きていた。


「馬鹿野郎!お前が食らってどうする!!」


「ちが…あいつが…俺を…な…なげ飛ばしたんだ…」


今にも生き絶えそうなアンドラスの元へ眷属の狼の1匹が近づいてきた。


するとその狼はムクムクと姿を変え、人型に__アンドラスの姿に変化した。


瀕死の状態のアンドラスはというと、白目を向き生き絶えていた。


「はぁ…まさか仲間に殺される日がくるとはな…」


「む?お主、そこに死んでいるやつの兄弟かの?」


「ああ?本人だが?」


アンドラスの召喚した狼は彼の一部から作られており、全であり個である。メインとなる肉体に危機が迫るとサブ機である狼に精神を移動させ、その体をメインとすることができる。


「まぁよい。結果に変わりはないからのう。」


「舐めるなよ…」


アンドラスは剣を取り出し、大天狗に斬りかかる。


「遅いのう〜」


「その余裕いつまで続くかな…?」


狼が大天狗を囲うように散らばる。すると、狼の口が赤黒く光を放ち、魔球を撃ち放った。


「むむ?」


大天狗はアンドラスの剣を回避しながら、狼が打ち出す魔球にも意識を向けなければならなくなった。魔球が着弾した地面をみると、ドロドロと煙をあげながら溶かされていた。


「それに当たったらただじゃすまないぜ?」


「俺もいることを忘れるな!!」


フラウロスが再び、連続で大天狗に殴りかかる。


「ほほう、楽しくなってきたのう。どれ、”豪炎”じゃ!」


大天狗が神通力を使い、巨大な火の玉を作り出した。


「なに!?貴様…魔法が使えたのか!!」


圧倒的身体能力が武器だと思っていたアンドラスが叫ぶ。


「魔法じゃと?これは神通力なのだが…まあよい」


大天狗が火の玉を操り、二人を後方に下がらせた。


「ほれ、受け取れい」


「くっ…フラウロス!あれを消滅させられるか?」


「ああ、任せろ」


フラウロスは両肩から強力な炎を噴射し、勢いよく火の玉に突撃する。


「貴様の炎もらうぞ!!」


火の玉の中心に到達したフラウロスは己の体にそれを吸収し始めた。


「ぐぐぐ…ああ…力がみなぎる…!!」


しかし、すぐに異変に気が付いた。


「うぐっ…なんだ?体が…!!」


フラウロスの肉体に亀裂が走り、そこから紅蓮の炎が顔を出し始めた。


「な、なんだ…!これは…!!!」


それを見ていた大天狗が答える。


「わしにも分からぬが、それはただの炎ではない、神通力で作り上げたものじゃ。それが原因かもではないかの?」


「くっ…くそ!!」


フラウロスあ即座に火の玉の内部から抜け出そうと動き出した。


「どこへ行くのじゃ?最後までやらぬか。”豪風”!」


新鮮な空気が注がれた火の玉はさらに勢いを増した。


「うがあぁあああああ!!!!やめろぉおおおおおお!!!!!」


「フラウロス!!!!」


アンドラスが叫ぶとほぼ同時にフラウロスが爆散した。


「日本にいた頃の花火を思い出したわい。」


「おのれぇえ!!」


アンドラスの眷属の狼の魔球が一斉に大天狗に打ち放たれる。


「その攻撃はもうあきたのじゃ」


大天狗が神通力を使い魔球を空中で止めた。


「ば、バカな…!物体を操れるのか…?なぜだ!なぜ最初から使わない!!」

「そんなの決まっておるだろうに、遊びが詰まらなくなってしまうからじゃ。」


「化け物が…」


アンドラスは本来の力を出せないでいた。


全ての狼の視界、聴覚、嗅覚はアンドラスと共有されており、狼を召喚している間のアンドラスに死角はない。本来ではこの能力を活かし、一度狙った獲物を逃さないために使っている。狼に追わせ、追い込んだ後に皆殺しにするというのがアンドラスのやり方だった。


しかし、今回は状況が違った。獲物は、自分のほうだった。


(くそ!くそ!!くそ!!!こんな化け物がいるなんて聞いてねえぞ!!!大量に殺せると思って俺はきたんだ!!!)


「さて、続きをやるとするかのう」


大天狗は再び神通力を使いはじめる。


「お主に面白いものを見せてやるわい」


そういうと、大天狗が二人に、四人に__最終的に十人に分身をした。


「なっ!?増えただと…!!」


(いや、まてよ…こんな魔法は聞いたことがない…あるとすれば、幻術か。)


「ふんっ!本体は一人ってやつだろ?それを叩けばいいだけだ!!」


「それはどうかの?」


大天狗たちは一斉に火球を飛ばし始めた。次々に狼やアンドラスに直撃する。やや威力を落としているのは、”遊び”だからだろう。


「がはっ…!!なに…?全部本物…なのか!?」


いくら死角がないとはいえ、躱せるかは別問題だ。


次々に狼が消滅していく。それは、アンドラスの死が近づいているということでもある。


「ま、まずい…一度逃げて…」


「逃げられるとでも思っておるのか?」


最後の1匹の狼が消滅した。


大天狗は一人に戻り、最後にこう言った。


「どうやらハズレをだったようじゃな」


俺が…ハズレ扱いか…


はは…


アンドラスの意識は闇の中に消えていった。


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