2章 「二人の魔王」
第11話 「完成の宴」
妖怪たちが占領した街『ファルムド』にかつての姿はなく、今では妖怪の住まう街となっていた。街の中心には紅蓮滾る地獄の炎が燃え盛っており、その上に魔王城が浮遊する形で築かれている。そんな妖怪たちの街は今夜の宴に向けて準備が進められていた。
「いそげ!いそげ!食材をガンガン運べ!」
妖怪の中でも、料理の腕に自信がある物が中心に動いていた。基本的に妖怪は食事を必要としない。ならなぜ食事の準備をしているのか?それは、あくまで生きるために不要というだけであり、食べることは皆好きなのだ。あくまで娯楽の一環として食事を行うのだ。
「大将!大変です!食材が足りません!!」
「近くに山があるだろう!?そこへ行って調達してこい!!」
「大将!!」
「今度はなんだ!?」
こうして、慌ただしく宴を迎えるのだった。
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宴開始の時刻。
太陽は沈み、あたりは闇に飲まれていた。
「さて、そろそろか」
魔王・山本五郎左衛門は妖怪たちの中心にいた。
「魔王城の完成を祝って、カンパーイ!」
かんぱーーい!!と一斉に妖怪たちが叫ぶ。
ガチャガチャと食器が当たる音が広がっていく。各々食事を始めていた。
「さて、我もいただくとするか」
魔王が手を伸ばしたのはもちろん、肉だ。
こんがりと焼かれた骨つき肉にかぶり付いた。同時に口の中いっぱいに肉の味が広がる。
「うん!美味い!!」
(やはり肉は最高だな、今度この世界に美味い食材を探しにいくのもありかもしれんな。)
食事をしているとヒューーー、ドン!という音とともに夜空に花が咲いた。
「花火か、綺麗だな」
花火が次々に打ち上げられていく、夜空を光の花で染め上げた。
ある程度食事が済んだところで、魔王の考えた余興が始まった。
「第一回、最強は誰だ押し相撲大会〜!」
おー!という声やパチパチという拍手が一斉に聞こえてきた。
「ルールは簡単。この我が用意した土俵の上から落ちたら負け。空を飛べることが出来るものがいるが、それは禁止だ。武器等の仕様も禁止だ。ただし、死なない程度の妖力の使用は許そう。」
魔王の用意した土俵というものは20m四方の台だ。
「ちなみに優勝者には我がなんでも望みを聞いてやろう」
「「「なんでも(ですって!?)(だと!?)(じゃと!?)」」」
妖怪たちの目つきが変わる。誰もがゴクリと息を飲んだ。
「参加者は土俵の上に登るのだ。」
そして、土俵の上は妖怪で埋まった。
「ではいくぞ!開始!!!」
魔王の掛け声と同時に力のある妖怪が妖力を使う。
「吹き飛ぶのじゃ!豪風!!」
大天狗の神通力による豪風により、半分以上の妖怪が土俵から落下した。
「くそおお。大天狗ずるいぞ!!」
落下した妖怪たちから非難の声が上がる。
「ほっほほう。妖力の使用は禁じられていないのでな、すまんの〜」
「くふふ…危なかったわ〜」
女郎蜘蛛は吹き飛ばされたものの、飛ばされている最中に、土俵へ向かって糸を吐き出し何とか戻ってきていた。
「全く…大天狗はいちいちやることが派手なのよねぇ」
雪女は自らの足を氷で固定し、暴風に耐えていた。
大天狗の強力な神通力に耐えられた妖怪たちは妖怪の中でも強者の部類に入る。
「くふふ…雪女さんじゃない〜?元気〜くふふ」
「あらぁ…女郎蜘蛛さんこそ元気かしらぁ?」
二人の女が狙うのは魔王の…妻の座である。バチバチと視線が衝突し合う。
ふぅーと雪女が吐息で女郎蜘蛛の足元を凍らせた。摩擦を失い、女郎蜘蛛はつるっと尻餅をついてしまった。
「うぐっ…!?」
「うふふ…一度言ってみたかったの、『ざまぁ』」
「…くふふふふふふ(怒)」
女郎蜘蛛は高速移動と自らが吐き出した糸を使い雪女を転ばせた。
「痛っ!?」
「くふふふふふふ…大丈夫〜?『ビッチさん』」
「ビッ…!?う、うふふ…殺すわよぉ〜?」
その光景を魔王は苦笑いで見ていた。
(おー怖。女同士の戦いはなんだかソワソワ?するな。)
「全員流されるのじゃ!豪水!!」
大天狗の神通力によるご豪水により彼を中心に津波が発生した。それにより、次々に生き残っていた妖怪たちが場外へ流されていった。
「ワシの勝ちじゃ!!」
勝ちを確信していた大天狗が一歩前へ足を踏み出したところ、そこには凍った地面があった。つるっと足を滑らせた大天狗はそのまま場外へ滑り落ちてしまった。
「あーイテテテ…しかし、魔王よ!ワシの勝ちに変わりはないじゃろ!?」
「いや、よく見てみるのだ。本当の勝利者がそこにいるぞ。」
会場にいた妖怪たちが一斉に土俵を見る。そこには…
「あれ?私の勝ち?わーいわーい!」
着物を着たオカッパ頭の可愛らしい少女が立っていた。
「勝者!座敷童子!」
座敷童子は一切戦うことなく、ただ立っているだけで勝利した。彼女の持つ幸運には誰も叶わなかったのだ。
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「さあ、座敷童子よ。望みは何だ?我に叶えられることならなんでも叶えるぞ?」
「んーとね、んーーー。新しいお家が欲しい!」
「家か…」
魔王は、ふと目に魔王城が目に入った。
「そうか、わかった。ならば、あの城をお前にやろう。」
「ほんとにー!?いいのー??」
「ああ、だが、我の家がなくなってしまうのでな、我と我の眷属たちの出入りは自由にしてもよいか?」
「全然いいよー!みんなと一緒に遊びたいし、いつでも来てね!」
「うむ、そうさせてもらうとしよう。」
こうして宴は終わりを迎えた。
座敷童子を大切に扱ったことで、魔王城に舞い込む福が凄まじいことになったことは言うまでもない。
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とある魔族の城にて。
「魔王様、人間どもの動きが慌ただしくなってきました。」
頭にヤギのようなツノを生やした男が膝をつきながら、自らが使える魔王に人間たちの状況を報告している。
「なぜだ?」
魔王と呼ばれる男の姿は暗闇で見えないが、圧倒的強者のオーラが燃え上がる炎のように肉眼ではっきりと見えていた。
「はっ!どうやら、我々魔族が人間の街や、王都等を縦横無尽に暴れまわっているとのことでして…」
「事実なのか?」
「いえっ!我々、眷属一同、そのような指示は一切だしておりません!」
「まさかとは思うが…謀反ではあるまいな?」
先ほどよりも魔王のオーラが強くなる。眷属の男はそのオーラに飲み込まれそうになり、意識が飛びかけるが、なんとか耐えていた。
「そ、そんなことは…ありえま…せん!」
「だが、人間が大群を率いて、我々…魔族と戦争をしようとしているのだろう?」
「は、はい…人類の存亡をかけた…最終戦争…とのことです。『聖教国』率いる勇者の軍と近隣諸国が連携をし、一気に魔族を滅ぼす算段のようです…」
「我々は昔に比べ大人しくしていたつもりだ、ある勇者に負けてからな。それなのに、この事態か…引き続き調査を続けろ。なにか裏があるとしか思えん。」
魔王は魔王城の窓から月を見上げる。
「もし、この『魔王・アモン』に勝負を挑もうとする輩がいるのならば、相手になってやる…出てこい…下等生物供がッ!!!!!!」
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