第9話 蜘蛛の巣④

蜘蛛の巣④


レウス、ヤン、アリス、リーネの4人は冒険者ギルドへ来ていた。


「お、きたな」


中に入るとギルドマスターであるキースから声がかかった。彼の周りには冒険者であろう男女が揃っていた。装備から一流の冒険者であることは見て取れた。


「こいつらは俺が最も信頼する冒険者たちだ。此度の戦いできっと活躍してくれるだろう。それと、俺もこの戦いには参戦する。万が一、俺の身に何か起きてもサブマスターが優秀だから大丈夫だ。がはは!」


キースが話し終えると冒険者の一人が話しかけてきた。


「君たちがギルドマスターの話にあった冒険者だね?僕は、ロックよろしくね。あっちにいるのが僕のパーティで、右の怖そうな女がジル、その隣の大きい男がコウル、んで、その隣の如何にもバカそうな男がロンだよ。」


「私が怖そうだと?どうやら蜘蛛退治の前に貴様を倒す必要があるようだな。」

「まぁ落ち着くのだ、ジル。コウルだ、改めてよろしくな。」

「だ、だれがバカそうやと!!」


「と、いう感じが僕のパーティさ。いつもこうなんだ。」


ロックは笑いながら話す。


「さて、自己紹介が済んだところで早速、作戦を説明しようじゃないか」


キースの作戦はこうだ。


まず、外から強力な魔法攻撃で一斉に屋敷に放つ、外に出てきた化け物たちを残りの冒険者たちで一網打尽にするとのこと。至ってシンプルな作戦だ。


「とにかく、あの屋敷の中に入ってわざわざ奴らの巣に掛かる必要はないんだよ。」


こうして8人+ギルドマスターで現場に向かった。もっと人数が欲しかった気もするが、どの冒険者に魔物が化けているか分からないため、仕方のないことだろう。


「お、そうだ。この作戦は極秘でな、他の冒険者はおろか、近隣住民にも伝えてないから大騒ぎになるぞ!がははは!」


だ、大丈夫だろうか?


ーーーー

ーーー

ーー

屋敷の前に着くと全員に緊張感が走り出す。屋敷は半分焼けくずれており、辛うじて全焼を免れたような感じだ。


「さあ、やるぞ!作戦開始だ!!」


キースの掛け声と共に作戦が開始された。

ロック、ロン、アリスは魔術師のため魔力を込め始める。


そのほかは周囲の警戒をしている。


「よし、魔力を込め終わったな、一斉に放て!」


アリスは以前この屋敷を半壊させた魔法を唱える。


「ライトニングランス!」


ロックとロンの二人は融合魔法を唱えようとしていた。


「「フュージョンマジック・エクスプロージョンランス!」」


『エクスプロージョンーランス』ーー強力な爆発力をを宿した魔法攻撃。槍(ランス)の形状にし、貫通性上げ、着弾点で大爆発を引き起こす。


3人の魔法攻撃が屋敷めがけて飛んでいく。


「すごいな…」


そう声を漏らしたのはランスだ。


アリスの攻撃もすごいが、二人の…ロックさんとロンさんの攻撃は凄まじいな。あっという間に屋敷を吹き飛ばしてしまった…


「ふぅーー久しぶりに派手にやったけど、楽しいね!!」


「ロック…お前さ、普段撃つ機会がないからて…楽しんでやないか?」


これだけの威力だ、きっと周りにも被害が出てしまうから普段のクエストでは使えないのだろう。


「来るぞ!」


キースが全員に聞こえるように大声で叫ぶ。


先日、襲われた女郎蜘蛛の子供達がワラワラと瓦礫のしたから出てくる。そして、一斉にこちらへ向かって走り出した。


「こちらもいくぞ!」


ジルが鞘から片手剣を抜き、向かってくる敵を一刀両断する。


「ふんっ!大したことのない奴らだ!」


一際大きな体をしているコウルも動き出す。彼の使う武器は両手斧だ。ただ、他と違うのは両手斧を”両手”に持っていることだ。


「ジル、どっちが多く倒せるか競争だ!」


両手斧を交互に振り、時にはガードに使いながら、コウルがジルに話かける。


「ふん、いいだろう。」


そういって二人は次々に子供達を倒していった。


さすが一流冒険者だ。だが、俺たちも負けてはいられない!


レウスは仲間に声を掛ける。


「俺たちもいくぞ!!」


ーーーー

ーーー

ーー


そして、奴が現れた。


レウスたちに緊張が走る。


あの光景が蘇る。




「くふふふふ…そっちから会いに来てくれるなんてね〜」


やはり生きていたか…だが、今回はあの時とは違う、ロックさんやギルドマスターのキースさんがいる…勝つならここだ。ここしかない。


「キースさん!あれが女郎蜘蛛、ここにいる子蜘蛛たちの親玉だ!!」


「なるほどな…確かにアレはやべえな。」


「うん、アイツは絶対に逃しちゃだめだね…」


女郎蜘蛛はニヤリと笑った。


「危ない!」


咄嗟にレウスが叫ぶ。

次の瞬間、女郎蜘蛛の下半身である蜘蛛の部分にある口から灼熱の炎が吹き出される。あたり一面赤色に染まった。


「ぐっ…なんて火力だ…」


キースが思わず言葉を漏らす。


「くふふふふ…まだまだこれからよ〜」


先ほど炎を吐き出した蜘蛛の口から今度は大量の糸を吐き出す。


「なっ!?」


気がつくと糸で退路を絶たれていた。日本人がみたらプロレスのリングみたいだというだろう。


レウスが大剣で糸を切ろうとするが、恐ろしく硬く切断には至らなかった。


「くふふふふ…これで今回は逃げられないわね〜…くふふ」


「ふん、何を勘違いしている?」


キースが一歩前に出て口を開いた。


「元々俺らはな、お前たちは倒しにきたんだ。逃げるつもりはねえ。」


「くふふ…強がりはやめたほうがいいわよ?」


「それはどうかな」


キースの姿が消えた。いや、消えたのではない超高速で動いているのだ。


「ぐっ…!!」


気がつくとキースは女郎蜘蛛の顔面に殴りかかっており、ギリギリのところでソレを防いでいた女郎蜘蛛の姿があった。


レウスたちが困惑しているとロックから声がかかった。


「いやー、さすがだね。ギルドマスターは元々冒険者でね、僕たちのリーダーだったんだ。」


「なるほど、それでも最も信頼している冒険者ということだったんですね。」


「そういうこと、さっ!僕たちも加勢しにいくよ!」


ーーーー

ーーー

ーー


8人は確実に女郎蜘蛛を追い込んでいた。


「リーネ!あんたの矢にエンチャントするわ!ちょっと貸して!」

「僕も手伝うよ!」


アリスとロックはリーネの持つ矢にエンチャントを始めた。


「エンチャントマジック!…はい!これでアイツを射抜いて!」


「うん!任せて!!」


リーネの持つ矢は強力な炎の魔力を宿し、赤色に輝いていた。


「くふふふ…そんなの当たらなければいいのよ」


「おっと、それはさせないぜ」


キース、レウス、ジル、コウルの4人が同時に動く。


「いまだ!リーネ!!」


レウスが叫ぶ。


いくら目が良くても躱せるかは別だ!


リーネの放った矢が一直線に飛んでいき、女郎蜘蛛に直撃する。爆風、そして炎が一気に燃え広がる。


「やったか…?」


奴はまだ、死んでいなかった。炎の中から出てきた女郎蜘蛛はボロボロだが、なぜか本人は至って普通の顔をしている。


「くふふふ…この体…飽きちゃった」


そういうと女郎蜘蛛の下半身、蜘蛛の部分がボロボロと崩れ落ちていく。最終的に服を一切纏っていないだけで、普通の人間の姿になった。強いて言えば、背中から生えた8本の蜘蛛の足だけが人間と異なる点だ。レウスは嫌な空気を感じていた。明らかに空気が先ほどと変わった。


瞬きをした瞬間、女郎蜘蛛の姿が消えた。


「ぐはっ…!!」


「キース!!」


ロックが叫ぶ、キースが突然後方に吹き飛ばされたのだ。


「がはっ!?」


ロックも同じく後方へ激しく吹き飛ばされた。


「くふふふ…所詮人間なんてこの程度ね」


女郎蜘蛛は防御力と攻撃力を犠牲に圧倒的機動力を手に入れていた。しかし、圧倒的機動力から繰り出される攻撃は強力である。どんなに柔らかい物でも高速で当てれば脅威となる。


「全員一箇所に集まれ!!」


ロックのパーティメンバーのジルが叫ぶ、ロックがいないなかでは、彼女がリーダーの代わりとなる。


「おい!お前達!!何をやっている!!!」


後方にある糸の壁の向こう側から声が掛かる。街を巡回している衛兵だ。この騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。どうやら、住民達も集まってきているようだ。


「なんだこれ!?何が起きている!?」

「冒険者がまたバカなことをやっているのか?」

「この糸みたいなのなんだ?」


まずい!!人が集まってくると…!!アイツの思う壺だ!!


「くふふふふ…まんまと罠に掛かってくれたわね〜。さあ、子供達…もう食べていいわよ」


女郎蜘蛛の合図とともに住民達から悲鳴が聞こえてきた。


「ひっひいいいい!!!!化け物だぁああ!!!!!」

人に化けていた子蜘蛛が次々に人を襲い始めた。


「くふふ…これでこの街も終わりよ」


街はまさに地獄絵図だった。人に化けている子蜘蛛が人を襲い、衛兵と冒険者達が何とか対処をしようとするが、守っているはずの住民から攻撃を受けてしまう。


もはや誰が人間で、誰が化け物なのか分からなくなっており、それぞれが人間不審に陥っていた。


「お、お前…人間か?」

「当たり前だ!お前こそどうなんだ!?」

「や、やめろ!!!俺に近づくな!!!!」

「ち、ちがう俺は人間だっ!!…や、やめ…ぎゃぁああああ!!!」


「くふふふふ…とても良い光景ね」


活気があり、笑顔の溢れる街は、そこにはなかった。あるのは恐怖、不安、絶望だけである。


「くそがぁああああ!!!」


コウルが両手斧を構え、女郎蜘蛛へ向かい走り始めた。


「くふふ…」


スッと女郎蜘蛛が高速移動で姿を消したと同時にコウルが吹き飛ばさる。


「ぐぅぅう…!!」


コウルが建物に勢いよく衝突し瓦礫が砂埃をあげる。


そしてジルが此方を一瞬だけ見つめ口を開く。


「レウスと言ったな、私たちが時間を稼ぐ。逃げろ。そしてこの事態を他の街に、国に伝えるんだ。王都の方では3英雄が現れたと聞く、ベヒモス率いる魔物の群れを撃退したそうだ。彼らの力を借りられれば…これを打開出来るかもしれない。」


「そんな!?あなた達を見捨ててなど…!」


「いいからいけ!!急げッ!!」


レウスが苦渋の決断をする…次の瞬間、誰かの声が鳴り響いた。


「待たせたな!もう大丈夫だ!!!」


トォーッ!と建物の上から誰かが飛び降りてきた。


その人は、黒い髪に黒い瞳、そして純白の鎧を纏っていた。


「俺はカケル!勇者だ!俺がきたからにはもう大丈夫!あとは任せろ!君たちは住民の救援に向かってくれ」


そういうと勇者は懐から手鏡を出し、レウスに渡す。


「これを人や物に向けて使うと、真実を映し出す。化け物が化けているか分かるはずだ!」


それを見ていた女郎蜘蛛が言葉を発した。


「くふふふふ…勇者ね〜?それで、貴方はなにが出来るのかしら〜?」


勇者が剣を抜き、女郎蜘蛛に剣先を向ける。


「貴様を倒せる」


















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