第5話 異世界に作ろう、魔王城

魔王は人間から奪った街『ファルムド』へと戻っていた。




「魔王様だ!」と、街に入るやいなや眷属の妖怪たちが集まってきた。




「魔王様!さっそくご報告があります!」




小鬼が魔王の前へと駆け寄り、膝をつく。




「ここの街より、東に進んだところに人間の住む街がありました!魔王様のご指示の通り、女郎蜘蛛様率いる30匹ほどの妖怪たちが人に化け潜伏しております!」




そうか、ここの街で余った人間はどうしたらと配下の者に聞かれて、その人間の皮を被り次の街に潜伏しろと我が言ったんだったなぁ。まぁ、女郎蜘蛛の奴なら器用に立ち回ってくれるだろう。




「うむ、ご苦労であった。」




さて、人間の王都に行ってからずっとやりたくて、うずうずしていたことがあるのだ。




「魑魅魍魎よ、我は人間の住まう王都へ行き、この街に足りないものがあると気付かされた。それは、我の力を示す象徴…城である!かつて日本でも人間は政治をする場だとか、大将を守るためだとかと理由を付けて自らの力を、威厳を示すため立派な城を建ててきた。だが、この街を見ろ!どうだ、力や威厳を感じるか?邪魔をする小生意気な人間はおらん!さあ、作ろうではないか!!異世界に妖怪の城…魔王城を!」




こうして魔王率いる妖怪の群は異世界に自分たちの世界を作り始めた。




設計図はもちろん、我が作るぞ。んーーやはり古き良き日本の城がいいか、人間にしては良い形の城を作ったと思うぞ。だが…丸々全て真似るのもな…もっとこう…魔王の力はすごい!!みたいな城は作れないものか…




そうだ!!ふふふ…これはいい…うむ…すばらしい…ふふふ




ーーー魔王の城完成まであと1ヶ月。ーーー






『1日目』




魔王は街の広場に代表の妖怪を集め、今後の予定について話していた。




「まず、城や城下町を作るには当たり前だが、資材が必要だ。その調達を行う。」




木材が大量に必要になるが、丁度良いことに近くに森がある。調べたところ、魔物はおろか、動物らしい動物もいないようだ。ということで、木材はそこの森から調達しよう。




「木材の調達は大天狗に一任する。」




「あいわかったのじゃ」




次に建設道具の調達だが、これはこの街に元からあったものを使おう。




「次だが…」




こうして、ある程度役割を決めて今夜は解散とした。






『二日目』




魔王は街の中心にきていた。




「よーーーし、ここにしよう。さて、整地をするか。ダイダラボッチこっちだー!」




『ダイダラボッチ』ーー大地を手で掘り、その土で山を作ったという伝承のある巨人。




ダイダラボッチが山の向こうから顔を出す。ちなみに普段は姿を消して、空気に溶け込んでいるため、人間に見つかって騒ぎになるということは殆どない。




「ダイダラボッチよ、この街の中心にある地面を建物ごと街の外へ捨ててくれんか?」




魔王がそういうとダイダラボッチは一言も話さずに動き始めた。




慎重に人差し指と親指で摘むようにして地面を抉る。先ほどの場所に、大きなクレーターのような穴ができた。




「さすが、国づくりの神と呼ばれているだけはあるな。助かったぞ、ダイダラボッチよ。」




仕事が終わるとデイダラボッチは山の向こう側へスゥーっと姿を消した。




「さてと、次は我の出番だな。」






『三日目』




森に資材を取りに行っていた大天狗たちが帰ってきた。




「これだけあれば大丈夫じゃろう!足りなければまた取りに行ってくるのでな!」




大天狗の神通力で大量の丸太が空中に浮かされていた。相変わらず万能神通力であると魔王は思うのだった。




「御苦労。設計図はもう出来ているからな。すぐに着工するぞ。」




城の基礎は既に街にいる妖怪たちで終わらせていた。




そして、すぐにカンカンカンと杭を打つ音が鳴り響く。人手には困っていない上に、妖怪たちは基本的に休憩、水や食料の摂取を必要としないため、途轍もない速さで工事が進んでいく。






『二十日目』




既に城はほぼ完成していた。見た目は日本の城だ。しかし、よく見ると本来シャチホコのある場所には気味の悪いなんの生物かも分からない骸が付いていたりなど、アレンジがされている。




「よーーし、良い感じだな!!」




魔王が笑顔で城を眺めている。




「ここからが、一番大事なのだ。妖怪たちよ、城から離れるのだ。」




魔王は毎度おなじみ、影から妖刀を取り出す。




『妖刀・飛山』ーー山を飛ばすと書いて、飛山。飛山が斬ったものは所有者の意のままに飛ばすことができる特殊な妖刀だ。




妖刀を取り出すと魔王はスタスタと歩いて城の中に入っていった。




「さて、この妖刀をここに刺すと…」




城の中心にある祭壇のような場所に突き刺す。




「まぁ、この祭壇に意味はないのだがな。」




ゴゴゴゴと城がうねり始めた。






その頃、外で待機していた魔物たちは信じられない光景を見ていた。




城が、魔王城が空に浮かび上がったのだ。




そして、城の中から魔王が出てきた。




「最後の仕上げを行う。」




そういって、魔王はまた妖刀を自らの影から取り出した。




『妖刀・獄炎丸』ーー地獄の炎を宿した妖刀。斬られたものは忽ち骨まで燃え尽きる。地獄の炎は燃やし尽くすまで消えない。扱いの難しい妖刀。




「おりゃああああ!!!」




魔王が雄叫びをあげながら豪炎丸を魔王城の方へ振るった。妖怪たちは城を焼き払うのかと一瞬焦りが湧き出てきたが、すぐにその心配はなかったと思わされる。




獄炎丸から放たれた地獄の炎は浮遊している城の下、ダイダラボッチが作ったクレーターの中に落ちていく。すると、一瞬でクレータの中が地獄の炎で満たされる。




「どうだ!魔王城の下では地獄の炎が燃え盛り、敵の侵入を防ぐだけではなく、夜にはその明かりで圧倒的存在感を醸し出す!うむ!!我ながら良いものを作った!!」






『1ヶ月目』




「城下町も良い感じになったなぁ」




魔王が城下町を見ながら感慨深く見ていた。




城下町の姿をもし日本人が見ていたら『江戸時代の城下町』だと言うだろう。




「よし、不知火よ!城下町に明かりを灯せ!!」




不知火と呼ばれる、青白い光を放つ火の玉のような妖怪が次々にどこから出てくる。そして、城下町にある全ての家の前に止まる。まるで、宝石箱のような街並みが出来上がった。




「魔王城を中心に結界を貼っておるから、これで下位の妖怪でも日中に活動できるだろう。」




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女郎蜘蛛が潜伏している街にて。




「暇ね。魔王様のご命令でこの街へ来たは良いけど、なにをすればいいのよ」




女郎蜘蛛は捉えた人間の中で一番美しい人間の皮を被り化けていた。




すらっとしたスタイルで、金髪、目も大きく、胸も大きい。この世界の基準で見ても美しい部類に入るだろう。




「女郎蜘蛛さま、魔王様にこの街を支配し献上するのはいかがでしょう」




女郎蜘蛛の眷属である子蜘蛛が提案してくる。


「そうね…それ…いいわね。くふふ…」




女郎蜘蛛の頭の中では、街を魔王に献上し、魔王から絶大な信頼を得る自分の姿が写っていた。

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