第4話 騒めく魔物たち②

ベヒモスの前にサウステンペスト最強の部隊『赤狼隊』と冒険者の一団が揃う。




「ウガアアアアアアアア!!!!!」




ベヒモスの咆哮が大地を揺らす。




赤狼隊隊長のランゲルが周囲の仲間に指示を出す。




「1番隊2番隊、ベヒモスからヘイトを集めて引き付けろ!!3番隊はその間にベヒモスの背後にまわれ!」




一斉に赤狼隊の隊員たちが動き出す。




「「ファイヤーボール!」」




1番隊がベヒモスが放ったファイヤーボールはベヒモスの顔面に直撃した。




「ガァアアアアアアアアア!!!!!」




「ははは…完全に怒らせたな!おい!俺たちもいくぞ!!冒険者の力を見せてやれ!!」




冒険者ギルドのギルドマスターであるガイが周囲の冒険者に呼びかける。




「オラァアアア!!」




ガイはかつて大槌を使う冒険者だった。引退してからも日々トレーニングを怠らなかったため、現役時代と大差ない戦闘能力がある。そして、ガイの大槌『ウコンバサラ』は彼が冒険者時代に見つけたものの中では最も価値のある宝具である。




ガイは目にも留まらぬ速さで飛び出し、ベヒモスの横腹に強力な一撃を入れた。




「こいつの力はこれからだぜ…!」




ウコンバサラから突如として稲妻が発生し、ベヒモスの体を駆け抜ける。




「ガッ…ガアァアアア!」




ベヒモスの厚い皮膚も流石に稲妻までは防げなかった。初めてベヒモスから苦痛の声が聞こえた。




「へぇ…いい声で泣くじゃねえか。もっと聞かせろよ。」




「ギルマス!俺たちも戦いますよ!!」




仲間の冒険者たちもガイにばかりいいところを取られないように動き出す。




「ポインズンアロー!」




毒の矢を作り出す魔法を冒険者が放ったが、ベヒモスにダメージは与えられない。




「やっぱ、固いなぁ…」




「お前の槍を貸せ!!」




複数の冒険者が先ほど魔法を放った冒険者の元へ集まってきた。




「「「エンチャントマジック!」」」




武器を強化する魔法。それを同時に唱える。




「よし!ありったけの魔力を注ぎ込んだ!!お前はこれを投げろ!!!」




そういって槍を渡したのは、今いる冒険者の中で1番の巨漢である人物だ。




「よしきた!いくぞ!!!うりゃああああああ!!!!!!!!」




巨漢の冒険者は、助走をつけて勢いよく槍を投げる。




槍は青白い軌道を描きながら飛んでいき、ベヒモスの体に突き刺さった。




「ウガァアアアアアアアアアア!!!!!!」




次の瞬間、突き刺さった槍が爆発し、ベヒモスの内部からその身を焦がす。




その攻撃で怯んだ隙を見てベヒモスの背後に回り込んでいた赤狼隊、3番隊が一斉に攻撃を始める。




「フュージョンマジック・インフェルノアロー!」




『フュージョンマジック』 ーー 融合魔法


『インフェルノアロー』数人の術者を必要とする融合魔法の一つ、圧倒的熱量で敵を薙ぎ払う。




轟音と爆発の振動で一瞬あたりが見えなくなるほど明るくなる。




「す、すげぇな…」




ガイが思わず声を漏らした。




「が、ガァ…ガァアア…」




さすがのベヒモスも先の攻撃はかなりこたえたらしい、呼吸が乱れ始めている。


ベヒモスが突然走り出した。




「ちっ!逃すか!!!」




ベヒモスが向かった先は、すでに力尽きた兵士たちのところだ。




その兵士らの亡骸に近づくと、手に取りそして…食べ始めた。




「なっ!?」




ベヒモスは『暴食』を司る魔物である。真の恐ろしさはここにある。




一通り食べ終わると、ベヒモスの傷は消えていた。




「お、おい…なんだかデカくなってねえか?」




ガイがベヒモスの異変に気がつく。




ランゲルには心当たりがあった。




「そういえば…城内にある書庫でベヒモスに関する書物を読んだことがある…奴の特性は『暴食』。食えば食うほど力を増し、巨大になっていく…と。お伽話か、噂話に尾びれがついたのだと思っていた…どうやらそうではないみたいだ…」




「ウガァアアアアアアアアア!!!」




ベヒモスが叫ぶと、生き残っていた魔物たちが集まり始めた。




「奴に食べさせてはいけない!!」




ランゲルが叫ぶがすでに遅かった。




集まってきた魔物をベヒモスは1匹残さず食べ尽くす。




「まじかよ…」




ガイが絶望の表情を浮かべる。




ベヒモスはさらに巨大になり、最初の頃の10倍以上の大きさになり、王都を飲み込むほどの影を作る。




「やれるだけのことはやろう…」




ランゲルは王直属の部隊だ。諦めるわけにはいかない。




だが、彼らのことは既にベヒモスの眼中にはなかった。


ベヒモスの視線の先には一人の男がいた。




先ほど食らった魔物の記憶がベヒモスの頭に流れ込んでくる。




あいつだ




あいつが…このベヒモスの縄張りを犯したやつらの首領だ




「ガァアアアアアアアアアアアアアア!!!!」




耳が痛くなるほどの叫び声をあげる。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「うわぁー。でかいなぁー。」




まるで日本の怪獣映画だな。




「さて、面白くなってきたな。向こうも我とやる気満々だしな。久しぶりに少しだけ楽しめそうだ。」




とりあえず…




魔王はベヒモスの顔面付近まで一気に飛び上がった。




そして…ベヒモスの頬をーーぶん殴った。




ベヒモスは苦痛の叫びを上げながら派手に転倒した。




「ほー、流石に固いな…」




ベヒモスは困惑していた。この姿になった自分を殴り飛ばす相手が現れたのだ。それは、長き時を生きてきたベヒモスですら初めての経験だった。このベヒモスは過去に海で暴食の限りを尽くしていた頃、勇者と呼ばれる存在に追い詰められ、この地へ逃げてきていた。しかし、その勇者でさえ自分の弱点である聖属性を宿した剣を用いて戦っていたのだ。




それなのに、目の前にいる男はただの拳で殴り飛ばした。




「ウガァアアアアアアアアアア!!!」




ありえない!何かきっと特殊な魔法を使ったのだ!!




許せん!!叩き潰してやる!!!




ベヒモスは腕を振り上げ、男を街ごと潰そうとした。




「お、力比べか?」




魔王は降りかかるベヒモスの腕を受け止めた




その際に生じた爆風が街の建物を次々に倒壊させていく。




「よし、久しぶりにこいつを使うか」




魔王は自分の影から一本の妖刀を取り出した。




『妖刀・岩砕き』




「こいつ、かなり癖のある刀なんだよな…」




魔王が岩砕きを振り上げると、刀身がどんどん伸びていく。そしてベヒモスと大差ない長さまで達した。




「じゃあ、いくぞ!!」




魔王が岩砕きを振るう。




「ギィイイヤアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」




ベヒモスの叫び声が響き渡る。




そしてベヒモスは、頭から綺麗に真っ二つになっていた。




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「す、すげえ…あれは…勇者様か?」




「どちらにせよ…この国を救った英雄だな…」




その光景を見ていたガイとランゲルが地面に腰を下ろしながら話す。




「王都…ボロボロになっちまったな」




「これだけの被害で住んで良かったと言うべきかもな。彼がいなければ…間違いなくこの国は滅んでいた…」




ベヒモスが倒されたことで避難所や建物の中に隠れていた住民が外に出てきた。彼らは魔王たち、大天狗や雪女が魔物と戦っているところも見ていた。




「え、英雄だ…!」




「この国は…救われたんだ!!!」


魔王たちの元へ住民が駆け寄ってくる。




「英雄様!」




「本当に…本当にありがとうございました…!」




「あなた方がいなければ…この国は…」




「ぜひ!お名前を!!お名前をお聞かせください!!」




魔王たちは困惑していた。




「ま、魔王よ…どうするのじゃ?」




「そうですよぉ…」




「わ、我になんでもかんでも聞くな!!」




面倒なことになった…全員、食らうか?いや、数が多すぎる!!




それに…悪い気もしないな。




「よし、逃げるぞ」




魔王たちは住民たちをかき分けてどこかへ消えていった。




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「レイブン王よ…ベヒモスの討伐を確認しました。」




「うむ…英雄…か。これで、危機は去ったのだな…」




だが、この違和感は…胸騒ぎはなんだ?あの陥落したファルムドの街は、新種の魔物に襲われたのではなかったのか?冒険者の見間違いか?






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そのころ冒険者たちはーー




「ひゃっほーーい!ベヒモスの素材が大量だ!!お前ら!!解体を急ぐぞ!!」




「「おーーーー!!」」




解体作業をしていたガイがベヒモスを眺めながら呟く。




「にしても、ベヒモスの素材も受け取らずに、名前も名乗ることなく去るなんてな…礼の一つも言えなかったな…まぁあれだけの力だ、いずれまた会えるだろう。おーし、お前ら、ベヒモスの素材の半分は国にやるぞ。復興の費用の足しにしてもらう!いいな!」

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