第2話 いつも通りの日常
「ねえ、何見てるの?」
講義が終わり大学の食堂であの写真を見ていたところを、同じサークル仲間の
慌てて写真を隠し、「なんだ、お前か」と返事をする。
この写真を誰にも見せてはいけない気がするから本当はアパート以外では見ないようにしているのだが、何故かふと見たくなる衝動に駆られることがあり持ち歩くようになった。
「なんだ、じゃないよ。何見てるのか聞いたの」
「別に、ただの写真だよ」
「写真? 何が写ってるの?」
「旅行での思い出」
「へぇー。……ねえ、ちょっとだけ見せてよ」
「駄目だ」
「えー? 別にいいじゃん」
「駄目だ。……俺はもう行くから、また後で」
これ以上話していると写真を見られる可能性が高くなるので、バッグにさっと写真をしまって強制退出することにした。
麗のところを去ろうとした時、「なんか、最近様子がおかしいよ?」と彼女に言われたが、「気のせいだよ」と曖昧な返事をしてそのまま帰宅することにした。
アパートから大学までの距離は遠くはないので大体の日は徒歩で通っている。
だからという訳ではないが、通学中と帰宅中はスマホ内に入っている音楽を聴いている。
そして今日も音楽を聴いて帰宅していたのだが、途中で曲が途切れ着信音が耳に入ってきた。
慌てて画面を見ると『式水滝』と表示されていたので、電話に出る。
「よう、
「なんだよ、いきなり。今じゃなきゃダメなのか?」
「俺としては今からの方が都合がいいんだよ」
「……分かったよ。で、どこに行けばいいんだ? もう帰宅している途中なんだが」
「マジで? じゃあもう電車に乗っちゃった感じ?」
「いや、俺は徒歩通学だ」
「あー、家から近い感じかー……。じゃ、大学の近くにあるファミレスに来てよ」
「は?」
「先に座ってるから探してくれ。じゃ」
それを最後に滝は電話を切ってしまった。
もう少しでアパートだというのに、また来た道を戻らないといけないのか。
「はぁ」
思わずため息が出る。
それでも仕方なく、俺は目的地を変更して待ち合わせ場所へと向かい始めた。
ファミレスに着いて入店すると「遅いぞー」と滝の声が店内に響いた。
俺が滝より後に来るときは毎回こんな感じになる。
俺は急いで滝のいる席へと向かい「店内で大きな声は出さないでくれ、恥ずかしくなるから」と言いながら席に着いた。
「その方が見つけやすいだろ?」
「それはそうだけど、嫌なんだ」
「恥ずかしいのが?」
「そうだ」
「気にするほどでもねーだろ。取り敢えずなんか頼めよ」
「あのなー……」
まあ、のどは渇いてるし小腹もすいているから何かは頼むけど。
そう思って滝との会話を一旦中断して、ドリンクバーとフライドポテトを頼んだ。
「それで、聞きたいことってなんだよ?」
店員がいなくってすぐに、話の続きをすべく、滝にそう問いかけた。
「まあまあ、その前に飲み物入れてきたら?それに――」
そこで滝は話を止めて外を覗き込んだ。
「それに?」
「もう一人呼んでるんだ。多分そろそろ来ると思うんだけどな……」
「は? 誰だよ? そんなの聞いてねえぞ」
「だって言ってないから」
「……はぁ」
思わず本日二度目のため息が出た。
第三者を呼ぶときは、事前に俺にも教えろって毎回言ってるだろ?
そんなことを思いながら「飲み物取ってくる」と呆れ気味に言って、ドリンクバーコーナーへと向かった。
ドリンクバーコーナーに来ていつも飲むジュースを入れていると、「あれれ? なんでいるの?」というやけに聞き馴れた声が聞こえた。
もしや? と思いながら声がした方を向くと、麗が不思議そうな顔をして立っていた。
「は?」
何故かは分からないが、俺は目を細めてそんな言葉を漏らした。もしかしたら無意識に驚いているのかもしれない。
「相変わらず不愛想な反応だねー、君は」
「何でここにお前がいるんだよ」
「滝に言われたの」
「なんて?」
「オカルト話が聞けるって。……もしかして白兎もそれで来たの?」
「いや、俺は聞きたいことがあるから来いって言われただけだ」
「そっか。じゃあ、取り敢えず席に案内してよ」
そこで立ち話を止めて、席に麗を連れて戻った。
席に戻るとフライドポテトはすでに置いてあり、滝が「おせーよ」と言いながら食べていた。
そしてポテトは半分以上も無くなっていた。
「おい、それは俺のだ」
「別にいいだろ? それに、このポテトは俺に食べられたいって言ってたんだよ」
「……」
もうため息も出ないなと思いながら着席する。麗は俺の隣に座ることになった。
「取り敢えず麗ちゃんも何か頼んだら? 俺が出すから」
席に着くなり滝がそんなことを言った。
「いいの?」
「勿論」
「おい、ちょっと待て。俺のは?」
「何言ってんの? お前が出すんだよ。当たり前だろ?」
「じゃあポテト返せよ」
「返すポテトがもうないんだなー」
「……帰っていいか?」
「はぁ、分かったよ。追加で頼めばいいんだろ?」
「お前の金でな」
「あいよ」
定員を呼び、ポテト一つとドリンクバー一人分、そしてチョコレートパフェを三つ頼んだ。
ちなみにこのパフェは全部、麗の胃袋に入る予定だ。
「じゃあ、本題に入ろうかなー」
しばらくしてポテトとパフェが運ばれてきたところで、ようやく滝がそんなそんなことを言った。
黒く染まる夢 ソラアッカーンデ @SAJILAST
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