第27話―サードポイント2―

教室内が騒がしくなり、幾分かの僕は質問攻めに遇いながらも教室を出て離れた廊下に歩く。


(今出川のフラレた情報が広まるのは明日、動くとすれば登校か休み時間のはずだ)


接触する可能性を巡らし今後の対策を練っていると聞き覚えのある声が耳に入った。2年2組の教室を沿って廊下を歩いているとき角からそんな声がした。角に背中を預ける。


「間違いないないって、四条万智しじょうまちがあんたを見てたわよ。付き合うなら今じゃないの」


「そ、そうかな。でも最近は生徒会やおおかみの1年に睨まれているしなぁ」


下り側から階段の踊り場で聞き覚えのある生徒は如月蒼汰きさらぎそうたと栗色の髪を腰まできれいに伸ばした女子生徒だった。内容からして、怪しいこの上ないが。僕は、周囲から怪しまれないようスマホを取り出していじるふりをする。


「いや、そんな心配なんて必要ないから。四条だってあんたを好きなのは間違いないから。彼女が欲しいんでしょう?」


「そ、そうだけどよ・・・」


「何?私のアドバイスに文句をつける気なの」


「そ、そんなこと無いよ。

ほら、悪質ナンパとか噂があるじゃん。それでヤバイんだよ」


「そんなの、あんたが強引すぎたのよ。あんたはモテるんだから自信を持ってよ。知り合いの知り合いから聞いたんだけど四条さんって強引な人に弱いんらしいよね」


「で、でもなぁ・・・」


「また、嫌がるだろうけど本当はあんたを好きで間違いない。

絶対にそうだから」


かなり強く勧めてくるなぁ、あの女は。


「わ、解った。それじゃあ声を掛けてみる」


「応援しているわよ」


「あざす。龍頭たつがしらさん、じゃあ」


もしかしなくとも、これは影で煽っていた首謀者ではないか?

男とは思っていたが、まさか女だったとはなぁ。ともかく、こレだけで操れるものだろうか?

犯人は恐らく龍頭たつがしらと呼ばれる女子生徒でいいだろう。顔を出して伺おうとすれば見つかる確率は高い、ここに来る確率もあるのでそろそろ離れよう。僕はそう判断すると来た道を戻っていく。


(首謀者が解ったが、情報が欲しいところだな)


まずは、如月蒼汰が狙いを定めた標的の情報を知ろうとラインのメッセージに山本晴幸に四条万智の情報が欲しいと簡潔な内容で送信。情報収集まで時間を掛かるだろうし、その間に如月蒼汰を追いかけることにしよう。別の階段から降り如月蒼汰が降りた場所と思われる廊下を慎重に進む。

窓から射す夕陽、人も少なくなり周囲に人がいないため気にせずいられるのと発見されやすいのもある。龍頭と如月が話をしていた階段を着き降りていく一階に如月の姿が見えた。


「この様子からして、家路に就こうとしているのか」


小声で発しているとポケットからラインの着信音が鳴る。メッセージを開くと晴幸が四条万智のデータを送ってくれた。


『同士、真田信綱と我らと同じくクラスメイトである。

その真田信綱に教室でいつも見かけるグループの一人だ。

性別は女、ヒエラルキー上位にいるのは容姿端麗なのだが、上位にあたる特有のスクールカーストを価値と思うよくいる一人だ』


真田信綱といつもいる女子生徒か。僕も何度か見たことはあるから顔はなんとか覚えているはず。

スクールカーストが最底辺を選択した僕を軽蔑の眼差しを向けて悪口を言う、あの四条万智か。


(こういうスクールカースト上位には単独で行動するのは滅多にないたろうから如月の追跡はいらないだろう。翌日以降から警戒として、またパトロールだな)


その後、悪質ナンパは2件ほどあったがすべて未然で終わり後は生徒会執行部に任せ家に帰る。


「お兄ちゃん遅い!」


「ごめん、ちょっと頼み事されて遅くなったよ」


玄関に入って早々と瑠香に詰問される。正直、迷惑で仕方なかったのだが機嫌を損ねないよう気をつけないといけない。


「どうせ女の子とデートしていたんでしょう、お兄ちゃんは」


「えっ?」


「ショピングモールで楽しく話ししていた女の子」


「ああ、今出川か」


「わたしなんかよりも、今出川さんと遊んでばかりで・・・お兄ちゃんのバカアァ!」


瑠香はそう言って階段を駆け上る。い、一体どこに不平不満を持ったのかよく分からないのだが。


「機嫌を損ねった理由がまったく分からん」


その後、夕食のロシア料理のポルシチを作り部屋でお怒り中の瑠香を呼びテーブルを挟み一緒に食事となる。


「・・・お兄ちゃん前みたいに早く帰ってこれないの?」


「ああ。生徒会にこき使われている身だからね。なかなか配慮とかしてくれないけど、やりがいはあるよ」


部屋で気持ちを落ち着いた瑠香は納得していないながらも、相槌を打つ。義妹の距離感って全然、分からないなぁ。


「ふーん、やりがいねぇ・・・

お兄ちゃんもしかして無理しているなら、わたしクレームを言ってなんとかするけど?」


「えっ?」


懐かれているとは解っていたが、

義兄を想っての発言に少々いや、予想の上斜めに僕は信じられないと驚いている。


「ほ、ほら・・・えーと、一応だけど兄妹なわけだし。だから、その、えぇーと・・・・・」


朱色に染まり口ごもる瑠香。


「気を使わせてしまったなぁ。

気持ちは嬉しかった、ありがとう」


妹として認めていないけど、好感を持ってくれるのは悪くない。

もし義兄が僕では無かったら瑠香は幸せだっただろう。少し憐れに思い頭をなでる。


「お、お兄ちゃん・・・えへへ」


気持ち良さそうに目を細めて閉じる姿は愛玩動物みたいで癒やされる。義妹の機嫌を取ることに成功し自室に戻ると、机に座り参考書とノートを開き勉強を始める。

2時間ほど経過して休憩がてらに晴幸に今日の如月蒼汰をアドバイスという誘導した龍頭の件で相談しようと電話を掛けた。


『何用か虎繁?』


「ちょっと報告があるんだが・・・」


事情を説明すると、晴幸は難しそうな顔をしているのだろうと思った。長年の親友でいると直感的にどんな表情をしているか容易に読めたりできる。


『なるほど、龍頭か・・・調べてみよう。明日の黄昏会議までには』


「助かるが、勉学におろそかにせずひまな時に頼む」


『無理せずに調べているから気に掛けるな。話は変わるが今出川さん思ったよりも落ち込んでいたぞ』


「落ち込んでいた?何かあったのか」


『分からん』


告白作戦というゆるい作戦名をつけた今出川が落ち込んでいたと晴幸が尋ねるとなると理由は分からないのか。今出川菫いったいどうしてというんだ。


それがしには女心という不可不思議なパズルが苦手でなぁ、虎繁なら得意だろう』


「それを根拠にするのはおかしいとツッコませてもらうとして、

ひどいのか?」


『少しは、明日には休日に出掛ける約束とかしてみたらどうだ?』


晴幸の提案の意図が読めなかったが、すぐに理解した。気分転換に今出川を遊んで楽しませろと言っているのだ。きっと。


「了解した。今出川には散々と協力してくれたからな。楽しめるように最善を尽くす」


『ああ、頼むぜ。後それと、デートみたいな格好で出掛けるんだぞ』


「んっ?よく分からんが、了解した」


重要な場面を目撃した情報に明日の黄昏会議が長くなりそうなので生徒会執行部に明日は協力出来ない旨をメッセージで送りスマホをベッドに投げ勉強を再開する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ロスト・ハート 立花戦 @fadpgf33gaa5d5d

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ