IQ3の探偵
私はとある探偵、天津蘭の助手をしている。蘭さんは私の事をルイソンと呼ぶ。本人はきっとかの有名なシャーロックホームズの助手、ワトソンと私の名前をかけているつもりなのだろう。全く面白くはないけれど。
そんな私、ルイソンは日々苦労している。なぜなら蘭さんは名探偵を名乗っているが...馬鹿なのだ。
馬鹿。この一言では言い表せないだろう。例えば彼は新聞を読めない。どうやら長い文章は飽きてしまうらしい。だからといって中原中也のような詩人の詩もわからないという。確かに抽象的だし、私もわからないことは多いけれど。そして極め付けは、依頼主と交わした約束を覚えていないのだ。ついさっき交わした「〇時に〇〇集合」という約束を忘れて眠っているのだ。いつも私が予定をチェックしなくてはならなくて彼の仕事はほとんど回ってきている気がする。
しかし、そんな彼だけれど、依頼は少なくは無いのだ。何故だろうかと気になっていたことがあり、彼の様子をじっくり観察したことがあった。
探偵とは言えほとんど無名な彼は警察と一緒にではないと事故現場の検証を許されない。しかし彼自身が事故現場を覗くことはないのだ。ただひたすら被害者やその身内と喋っている。しかも会話の内容は時間と全く関係のない雑談だった。
ただ彼には変に野生の勘というものが備わっているようだった。警官が彼に資料を渡し、長文読解が嫌いな彼は適当に流すが、警官に「ここを調べて」と的確な指示を出すのだ。本人曰く「勘」というのだが、その指示を受けた警官がその通りに物事を進めると、決定的な証拠が残っているのだった。
例えば前の事件では、犯人は被害届を出した、旦那を何者かに殺害されたという女性の姉だったのだが、蘭さんは警官に、なんと「近くのホテル全てに連絡して、女性の身内が誰か泊まってないか確認して」と告げたのだ。すると犯人候補に全く上がっていなかった犯人が浮かび上がったのだった。
今日は、あるご令嬢の誕生日会のボディガードに行く。相変わらず蘭さんは寝起きが悪かった。
ところでこのお話をいただいてから彼の視線が痛い。ずっと私を見ているようだった。まるで私を迎え入れてくれたときのように。ずっとその視線は私に向けられていた。
誕生日会は船の上で行われた。誰でも知っているような大手ブランドの社長や銀行員など、さまざまな方々が綺麗な服に身を包んでいた。
何も起きないといい。私たちは客にボディガードであることを知られないようにしなくてはいけない。全てが無事進むように、私は今日冷静に、そして慎重に全てをこなさなければいけない。
私はしばらく経ってトイレに立ち、数分すると、つい先ほどまでいたロビーからそ悲鳴が聞こえてきた。
女性の悲鳴。これは本日の主役の声だった。私は駆け足気味に会場へ向かうと、蘭さんが冷たい視線を向けてきた。
見ると彼女は倒れていた。事情を聴くと、彼女がスピーチをするためにステージに上がり、中央へと歩いていく時急に苦しそうに顔を歪め、一瞬でその体が宙に吊り上ったという。そのまま私がかけてくるまでの間に彼女は地面に落ちたのだ。
私は脈を確認した。もう息はない。死んでいた。
どうしよう蘭さん!私はそんな目で彼をみた。馬鹿な彼が犯人を当てられるはずがないと思いつつも、私は彼に頼る。
私は蘭さんに言われて、その場の人々に事情聴取をした。
とある大手企業の社長は、少し太っていた。手に持っていたワインは騒ぎの時に落としてしまったという。ワインの染みが高そうなレッドカーペットにひろがっている。社長は被害者の父の友人として招かれていたらしい。
事件当初社長はとあるマジシャンと話をしていたという。そのマジシャンもまた被害者の父親に招かれたという。彼は細身で、被害者のご令嬢と同じくらいの年齢だろう。事件が発生した際に彼は社長にトランプのマジックを披露しようとしていた。途中で投げ出された並べられたトランプからマジックの仕掛けがわかってしまう。
他の人達からも事情聴取をしたが、大抵の人がこのマジシャンを疑っていた。特に被害者の父親の一言がその疑いを深めたのだ。どうやらマジシャンは御令嬢に好意を寄せていたが、ご令嬢にはすでに婚約者がいた。再来月に籍を入れる予定だったという。マジシャンは御令嬢にその思いを伝えられずにいたらしいのだ。
マジシャンは御令嬢を思っていたことを認めた。しかし犯行は認めない。当然だ。
突然蘭さんが動き出した。それまで彼はぽけーっとしていたが、急にマイクを手にして、こう言い放った。
「この場にはすごく頭がいい警官がいないから、完全に僕の勘だけれど、犯人がわかりました」
そういうとステージに登り、周りからのブーイングを無視して続けた。
「この事件は、殺人事件である。花の上だから、犯人はこの船の上にしかいない。」
当たり前だ。誰が犯人なのさ!わたしじゃないわよ!様々なブーイング私は彼を止めようと必死だった。マジシャンの名前も聞こえる。マジシャンの泣き声も聞こえた。自然と冷や汗が背中を伝う。
「もしもこれが本当だったら、すごく悲しいし、いやだけど」
相変わらずの語彙力のない、小学生のような言葉使いだ。
「彼女の身長をちゃんと知っている人にしか組めない仕組みなんだよね。彼女が歩いた時ちょうど首に釣り糸か何かを引っ掛けて、彼女が来たら自然と首紐が上にいく。仕組みはわかんないけど」
私はもうやめてくれ。とたまに入ろうと前へ進む。しかし人だかりができてしまい前に進めない。
「そう、犯人はあなたですね」
アリバイも証拠も何もなしに、指を指した。
「...ね、ルイソン」
周りの視線が私に集まる。私は心を落ち着かせようと、自分用に初めに配られた全く飲まれていないワインに初めて口をつけた。
並行歩行 @yuccyukko
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