万引きの罪滅ぼし
私は自分が太陽だと思っている。
私はいじめられっ子だ。
いじめられっ子に徹底して、それで尚、これでいいと思っている。
なぜかって?
彼を守ることができるから。
転校してきた彼を見た私は、恋をした。
クラスの中でも目立っていた私は、少し影に隠れていそうな彼の様子を見て、心臓の音が鳴るのを感じた。血が騒ぐ。顔が暑かった。
きっと彼は、元天才ピアニストとしての私を知らないから、無垢なまま新鮮な気持ちで私と向き合ってくれる。正直それだけでよかった。私を、佐藤奈々子としてみてくれるのなら誰でもいい。元天才ピアニスト、ナナコとして見られてクラスで人気になっても、なにも嬉しくないのだから。
しかし彼は静かすぎた。一部の子からいじめのターゲットにされたのだ。
私は彼が好きだった。私に優しく微笑みかけてくれた彼が大好きだった。だから私は彼に光を与えることにした。
彼は、誰かに光を与えてもらえないと輝くことのない。だけど光を当ててもらえれば何よりも美しく輝く。月そのものだった。
私は彼にこっそり耳打ちした。
「私ね、実は万引きしたことあるの。何回も。もう万引きのプロなんだから」
すると彼は恐る恐るこっちをみた。軽蔑の目に変わった。もちろんそれは嘘だった。しかし嘘ではないのかもしれない。彼から「いじめのターゲット」という称号を盗んだのだから。
彼はそんな私の話を周りに話した。自分からいじめのターゲットが私に写るように。それは本当に自然にこっちに来た。毎日のように罵倒され、水もかけられた。
それでも彼は今輝いているという事実があるのなら、私はこれくらい耐え切れる。
こんな私は太陽だ。彼の太陽になった。
自ら光を放ち続ける。月を照らし、周りを照らし。彼は今私の光に照らされて、しっかり輝けているだろうか。
しかし彼は、一人では何もできなかったらしい。ある日インフルエンザにかかった私が学校に復帰すると、ターゲットは彼に戻っていた。
私が復帰したことに誰も気がつかないようだ。
そうか。と私は納得した。自らの力で輝けない月だけ照らしても、夜空一面が輝くことはない。星も照らしてあげないと。
私は周りの友達にこう言うことにする。
彼は元天才ピアニストで、私と一度同じ舞台に立ったこと。しかし彼は右耳が聞こえなくなりピアノをやめてしまったこと。右耳が聞こえなくなった原因は、私が渡した楽譜を眺めながら歩いていたら飲酒運転の車に轢かれたという交通事故が原因であり、その時に記憶もなくしてしまったこと。
ここまで言えばみんなのターゲットはまた私に移り変わるだろう。これで今度こそ私は彼を救うことをできる。
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