並行歩行

@yuccyukko

鶯と帆立

本当に、世の中には色んな人がいるよ。

最近、とある出来事がきっかけでそう思うようになった。高校3年生。大学受験を控えている大切な時期だけれど。私はそんなことどうでもよくなっていた。

話は半年前に遡る。私の幼馴染みで親友の愛梨が、とびっきりの笑顔で学校に訪れた。そして私の座る席の前に堂々と立ち、とあるポスターを見せてきたのだ。

「見てみて唯!来月のオーディション、開けてみようと思って!」

愛梨は歌手志望だ。幼い頃から歌が上手く、「大きくなったら歌手になるんだ!」と口癖のように言っていた。

しかし彼女は、実は周りからよく思われていない子だった。性格が悪いわけでも、成績が悪いわけでもない。ただ目立ちたがり屋である彼女は、「ぶりっこ」と言われていたのだ。

そんな彼女は、本当に歌手を目指していて、ボイストレーニングも欠かさず行なっている。合唱などではその力を発揮するが、一人だけ声が出ているため控えさせられている。当たり前だ。愛梨以外の生徒は私含め初心者だ。声の響かせ方など何度口で説明されてもわかるはずがない。

しかし愛梨は諦めなかった。その結果がこのポスターなのだろう。

よく見るとポスターに描いてあるのは、有名な劇団の勧誘ポスターだ。

「あれ、歌じゃないの?」

「ばか。これはオペラって言って、演技力だけじゃなく歌唱力も求められるの!ここで一回バシバシ鍛えてもらうんだから!」

そういう彼女の瞳はキラキラしていた。


あれからもうこんなに経ったのか。彼女は見事オーディションに合格。数え切れないほどいた受験者を蹴飛ばして見事主席を取ったのだという。

この事は学校側に伝わり、生徒は愛梨を一目置くようになった。愛梨にファンがたくさんついた。

歌は上手で、容姿も可愛くて、人気があった。ただの目立ちたがり屋だと馬鹿にしていた人たちが愛梨に近づくようになり、私は少々イライラしているが、愛梨が幸せそうで何よりだ。

ところで愛梨はあれから、わたしみたいな陰キャとは関わらなくなった。唯一の友達であった彼女は、自分のために友達を切り捨てたのだ。許せないけれど、しょうがないことなのだ。だって私が近づいていって、彼女が幸せを手放したら、それこそ私は許されなくなってしまう。

そもそもあまり人と関わるのが得意ではないのだ。愛梨と話すのも楽しかったけど、これはこれで楽しい。一人で本を読んで、席から立たず、自分の殻にこもっていれば良いだけ。私はこの生活が結構気に入っている。

「ねえ見て有紗!今度はこの劇に出るんだ!」

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