時は動き出す

sideルッツ・トルンゼーア


「うれしい・・・もう・・・会えないかと思った・・・」


「ジェシカ・・・」


ハンカチ、持っていたっけ。えっと・・・ポケットのなかだ!

そっとジェシカにふれる。絹のように吸い付く肌。


「大丈夫?泣くななくな。・・・で、何で泣いてるの?」


「私、魔女だっていったでしょ?・・・夜蝶の、魔女だって。」


「夜蝶・・・」


正直言って、夜蝶が何を意味するのか。俺にはわからない。そして、聞いちゃいけない気がした。


「・・・教えてあげなさいよ、ジェシカ」


ジェシカのおねえさんがそういった。聞いていいのか?


「・・・おねえさまは席をはずしてくださる?」 


月の髪飾りが日の光に照らされてキラッと輝いた。


「・・・はずさないなら実力行使?ってことか。良いわよ。外してあげましょう。」


「・・・ありがとうございます、おねえさま」


「・・・これは貸しにしておくわね」


「・・・お人が悪いこと。まぁいいです。」


ジェシカのおねえさんが戸を閉じたのをジェシカが確認した。そして、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


「・・・私たちセレナーデ家のものは特殊な魔術体質で、家系能力と言うものがあるの。それが、・・・【ある時間になると人間たちに存在を忘れ去られる】という能力。私は朝。おねえさまは夜。おとうさまは昼、おかあさまは夕方。私はつまり夜までしか覚えられない。だから夜に出掛けることが多かったの。そこをたまたま見ても忘れぬ人にバレて・・・。夜に見ることのできる少女。【夜蝶】の名を与えられた。ただその【見ても忘れぬ人】の苗字を忘れたため、私たちは外出をやめた。そして私は・・・【誰か】と出会うために毎日庭へ出ていたの。」


「誰かと、出会うために・・・」


「ねえルッツ。ルッツのいえは【見ても忘れぬ人】の家?」


「・・・かもしれない。」


「そう・・・ルッツは?なんでこんな魔女の集落に?」


「おれは小さい頃『夜蝶、夜蝶、私は夜の蝶』って声を聞いたんだ。昨日たまたまこのもりのちかくを歩いてたら同じ台詞が聞こえてきて・・・それで。」


「私を・・・見つけた。」


「ああ。・・・運命、ならいいのにな。」


「運命、かぁ。・・・曖昧で、神のお気の召すままに会わされ、別れされ・・・そんなものなら、私は嫌。もっと確かな繋がりならいいのに。そう【見ても忘れぬ人】と【ある時間になると人間たちに存在を忘れ去られる魔女】みたいな。」


「・・・俺、調べてみるよ。俺の家が【見ても忘れぬ人】のいえか」


「ありがとう」


ふんわり笑う。 

その髪を揺らして。

ふんわり笑う。

その唇を揺らして。

その仕草一つ一つが

俺を捕らえて離さなかった。

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魔女とルッツ 雪月華@33331111 @33331111

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