ジェシカ・セレナーデ

sideジェシカ・セレナーデ


「ジェシカ、起きてる?」


姉のレミニア・セレナーデの声がする。

もう朝?嫌だわ。朝は嫌い。だってきっと人間は朝になれば私を忘れてしまうから。あの日の事をいまだに引きずってる私はそれが怖くて仕方ない。


朝。それが私が夜蝶と呼ばれる由縁。


我々セレナーデ家はおかあさまは夕方、おとうさまは昼おねえさまは夜、そして私は朝。それぞれの時間帯になると人に存在を忘れ去られる。ルッツ・トルンゼーア。きっとあの子も同じだ。昨日会ったあの子でさえもきっともう私を忘れてる。ルッツ・トルンゼーア、ルッツ・トルンゼーア。とるん、ぜーあ。また、会いたいと思うのは、ワタシがまだ子供だから?ルッツ・トルンゼーアはきっと私を忘れてる。ルッツは昨日帰り際に「また明日」何て言ってた。でも来ないんだわ。きっとそう。いいえ、絶対そうだわ。だって朝の五時、人間の記憶から私と言う存在は消え、文章からも私の名は消える。

ルッツ・トルンゼーア・・・来て、くれるかしら。


「ジェシカ?もー、、、まぁた寝てるのね?私お客様がいらっしゃったから扉を開けてきますけど、その間に絶対に装いをきちんとすること!良いわね?」


「はぁい、おねえさま」


「あれ、僕、人間でしょう?ここは魔女の家なのよ。」


「はい・・・知ってます。その、セレナーデさんのお宅で間違いないですか?」


「ないけど・・・」


「あの、僕、ルッツ・トルンゼーアって言います」


ルッツ・トルンゼーア

ルッツ・トルンゼーア

ルッツ・トルンゼーア

ルッツ・トルンゼーア

えっ!?うそ!会いに来てくれたの?ルッツ、ルッツ!

私は急いでドレスに着替える。月の髪飾りもして、ふぅっと爪に息を吹き掛ける。そうするとネイルアートの完成だ。


「こら、ジェシカ!ドタドタ降りてこないで!お客様がいらっしゃってるのよ?」


「ルッツ!あなた、覚えて居てくれたのね!嬉いっ!」 


「?あぁ、ジェシカ!昨日ぶりだね!覚えていてくれたって、僕はおじいちゃんじゃないんだから。昨日の今日で忘れるわけないだろ?」


そんな?!うそよ。でも嬉い。もし夢ならばわたし、神様だって許さない。

昨日は緊張してしまってろくに話せなかった。でも今日は話せるんだ!うれしい!ワタシの人生の永遠の光だわ、今日は!うれしい!うれしい!うれしい!うれしい!すっごーーく、うれしい!



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