ハーレム女たちの逆転勝利
西のほうのモノ
第1話
サンは領主の息子だった。
親の決めた美しい婚約者との関係は良好で、血の繋がらないかわいい妹も自分を慕ってくれる。剣術指導の女冒険者も姉のように厳しくやさしく自分を指導してくれて、サンはとても充実した日々を暮らしていた。
そんな折行われた職業選定の儀式。
サンは『町人』に選ばれてしまう。
領主として父の後を継ぐサンにとって『町人』は平凡だがけして悪くない職業だった。しかし。
婚約者のマリアが『聖女』に、妹のサリーが『賢者』に、剣術指導の冒険者ジェーンは『剣聖』に選ばれてしまって……。
3人は、勇者と共に世界を救う旅に旅立つこととなり、3人と別れたくなかったサンは、雑用係として旅に同行させてもらうことになった。しかし……。
勇者に嫌われ、3人からは邪魔者扱いされたサンは、賢者である妹のサリーが生活魔法を習得したことにより、用済みとしてパーティを追放されることになってしまう。
【↑ここまで紹介文と同じ】
■サリー視点
教会の行う職業選定の儀式が行われた時、私は『賢者』の職を与えられた。
それと同時にこの世界の理のいくつかと前世の記憶が与えられて……。
私は気づいたのだ。この世界はクソだ、と。
いや、クソなのは偽善者ヅラした領主とその息子だ。
物心ついた時、私は旅をしていた。何があったのかは知らないが、両親は故郷に帰れないようで、放浪の末行きついたのが今住んでいるこの街だった。
領主の政策なのか、よそ者を受け入れる体制ができており、両親は職を得ることができた。最初は服飾の雇われを、お金が溜まってからは賃貸で自分の店を持つようになって、少しゆとりのある暮らしができるようになってきた。
そんな折、盗賊に店が襲われたのだ。
今思えば、商売敵かなにかが仕組んだことのようにも思うが、今更証拠はなさそうだ。
店が襲われた時、学校に行っていた私は運よく生き残り、哀れに思った(笑)領主様に引き取られることになった。そして領主の息子のサンも、自分を本当の兄のように思ってほしいと、やさしく受け入れてくれた。私は感謝し、深く恩義を感じるようになった。
しかし、だ。
こうして賢者としての知識や前世の記憶が蘇ると、気づくことがある。
そもそも、治安が悪くて店が盗賊に襲われたのは、領主のせいじゃないのか。
それに、不幸になる子供は私だけではない。当時私の両親を殺した盗賊は捕まって死亡事故の多い鉱山に強制労働に送られたらしいが、それほど豊かではないこの世界では盗賊がいなくなることはないのだ。私の他にも不幸になった子供たちはいっぱいいて、その子たちは普通に孤児院に送られている。
ではなぜ自分だけ?
簡単だ。自分で言うのもなんだが、私はかわいい。政略の駒にするにしても、息子の妾にするにしても、使い勝手がいいのだろう。それが無料で手に入るのだ。
ははっ。そりゃ育てる金に困らないなら引き取るよね。美談だね。あははははは。
そうして考えると、サンのヤツは私を妾にする気満々だった。「結婚なんてしなくてもいい。ずっと家にいてもいい」とか、家からほとんど出してもらえず、男と知り合う機会が少ない私に言うのは、つまりそういうことなんじゃね? ……ていう。
キッモ、マジキッモ!
下手すると息子に甘い領主に頼み込んで、私に来た縁談を握りつぶした、まである。
これがただの憶測でない証拠に、サンがパーティを追放されそうなとき、言った言葉がある。「サリー、お前まで俺を捨てるのか?」
いやいやいやいや、妹なら、好きな男ができたら兄の元を離れてそっちに行くのが、普通でしょうが。何妾扱いしてんだよクソが。
まあ私はサンを追い出すために生活魔法を編み出すほど本気だったから、恨み言言われるのは見当違いでもなんでもないんだけど。
私自身、幼少期からずっと、サンに媚び媚びだった自覚もあるし。
でも仕方ない。このクソみたいな世界では、普通の女は男を頼らざるを得ないようにできている。学園に入る試験も男というだけで加点され、男社会の採用試験では試験官も男で採用も男優先。そんな世の中で領主の機嫌を損ねて、女が生きていけるわけがない。
だから領主の息子に媚びるのは、本能に突き動かされた生存戦略だ。男から見れば強かなズルい女かもしれないが、そうでもしないと生きられない世界にしたのは男どもだ。男が女を守ってやっているというが、女だけの世界なら、男から守ってもらう必要もないのだ。
マリアがサンの婚約者をやっていたのも、男社会で父に命じられ、領主に望まれては仕方のないことで、ならばと円満な家庭を望んでいただけだったし、ジェーンが街に留まって剣術指南を引き受け、領主の息子と懇意にしていたのも、放浪の女冒険者が安定した生活を手に入れるためには、仕方のないことだった。
領主の息子が三股を狙うクソ野郎だったとしても、女たちが生きるためには、我慢するしかなかったのだ。
「……というわけで、あの地獄から連れだしてくださった勇者様には感謝しているのですよ」
かくかくしかじか、さっきから虚ろな目をしている勇者様に、事情を話してやった。
「賢者になった時点で自立も可能でしたが、マッチポンプとはいえ領主親子に恩があることは覆せませんし、魔王を倒すという名目でもないことにはあの家から自由になるのは難しかったので、勇者様が迎えに来てくださったことは、本当にありがたいことでした。賢者を育てた者に対する国からの報奨金もあって、一応恩は返せましたし、サンがついて来ると言ってきた時にはめまいがしましたが、それも勇者様のおかげでなんとかなりました。本当にありがとうございます。あ、お返事いただけますか?」
「はい、サリー様のお役にたててうれしいです」
勇者様は機械のように返事をした。これはさすがに不自然だ。強制しなければ。
「いつものようにサリーと呼んでください。周囲に違和感を悟られてはいけませんよ」
「ああ、悪いな、サリー」
「感情込めて!」
「あ、ああ、悪いな、サリー」
「……はあ。まあ及第点としておきましょう」
「サリー、お前容赦ねえなぁ」
剣聖のジェーンが呆れたようにつぶやく。
「仕方ないわよ。これまで勇者様には、サンがいることを理由に性交をお断りしていたんですもの。彼を追い払った以上、私たちに手を出してくることは必須。隷属魔法にかけて自由を奪う以外、私たちの貞操を守る手段がなかったのだわ」
勇者に施したのは隷属魔法だ。もちろん賢者たる私が編み出した。
相手の罪悪感を増幅することにより相手を縛る魔法で、私たち3人すべてに言い寄り、立ち寄った村の女の子も手籠めにしていた勇者を散々糾弾して、罪悪感を引きずり出した結果、勇者を私たちの奴隷とすることが叶った。
これから私たちが彼を虐げたりして、勇者の罪悪感がなくなったら解除されてしまうが、勇者はこれまで数々の悪行を行ってきたようなので、発覚する度に責めておけば、簡単に解除されることはないだろう。
ちなみに、サンにこの魔法を使わなかったのは、彼の場合自分の正義を信じていて、三股狙いながらも自分は悪くないと心底思っているほどのクズだったため、罪悪感がカケラも見つからなかったからである。
「それでこれからどうするんだ。勇者を煽ってサンを追い出して、勇者に隷属魔法かけて、アタイたちの行動を制限するものはなくなったわけだけど」
「二人さえ問題なければ、このまま魔王を倒しに行こうよ。一応それで国からお金貰ってるわけだし、私も魔法書を山ほど借りたし」
私は提案する。
「まあ、そらそうか。魔王を討伐すれば一生困らないだけの報奨金もらえるだろうしね」
「そうね。私も異存はないわ。結婚して子供を産むにしても、聖女の役目を全うしたほうが選びたい放題だろうし」
「あ、マリアはやっぱり結婚するんだ」
「そりゃそうよ。女の幸せは結婚ですもの」
「アタイはそういうのはいいかな。行きずりの男に種でももらって、一人で育てた方が気が楽だろうし」
「まあお金さえあれば可能よね。サリーはどうするの? 魔王を倒した後も人生は続くのよ?」
「そりゃあもちろん、不老不死を目指すでしょ!」
「「は?」」
「結局子供を産むのは、寿命のある人間が遺伝子を残すための手段なわけで、自分が老いない死なないなら、その必要もないわけ。お分かり?」
「貴方、男性不信にもほどがあるでしょ」
「まあ一番そばにいたのがあのサンでは、仕方のないところもあるだろうけどね」
婚約者がありながら、当たり前のように自分のことを所有物のように認識していた偽善者ヅラの兄。あれが私の男の基準となっていることは、たしかに否定しづらいかもしれない。しかしながら、子供を作るのに生命の危険があるのは女のみだという、この人間の生物としての在り方がそもそも間違っていると思う次第である。女は成功してもめっちゃ苦しい思いや痛い思いするのに、男気持ちいいだけとかどんだけ?
「ほんと男ってズルい」
「だったら不老不死じゃなくて、性転換魔法作ればいいんじゃない?」
マリアの何となしに言った言葉が、私の魂を揺さぶった。
「さすが聖女! 言うことが違う! だったら私、男になって、女にした勇者に子を産ませるよ!」
!
「それいいな!」
「あら、それなら私もそうしようかしら。よかったわね、勇者様。お望みのハーレムパーティよ」
なぜだか勇者は蒼白になっていたが、こうして勇者のハーレムパーティは、崩壊することなく継続されることになった。性転換の魔法ができたらサン兄ちゃんにも産ませてあげてもいいかもしれない。
私は少しだけ、やさしい気持ちになった。
ハーレム女たちの逆転勝利 西のほうのモノ @itou_yuuko
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