第4話「作戦会議①」
あの日から俺達は放課後になると、学校の屋上に出れるドアの前にある踊り場で作戦会議をすることが日常となっていた。最初は作戦会議の場所を探すのに苦労したが、ここが一番人通りがなく誰にもばれる心配がないと判断したからだ。お互い部活動をしていないのが功を奏し、会議する時間はたっぷりと取れた。放課後ならファミレスでもいいのだが、人目が多く誰かに見られる可能性が高いのと、毎回行っていたらいざ4人で遊ぶ時にお金がなくなってしまう可能性があるので、いっても週1程度にしようという話でまとまった。
さて、そんなこんなで会議を始めてから1週間。本日はお互いの親友に1度顔合わせをしようという話を通せたかどうかの確認の日だった。食堂で買ったパックのイチゴオレを一口飲んでから、俺は話を切り出す。
「さて、先日の話についてだが」
「どうだった?ちなみに私はOK」
「こっちもOKだった」
「ナイス鉱!」
彩華は念願叶って嬉しいのか満面の笑みを浮かべながら俺にハイタッチを求めてきたので、快くそれに応じる。お互いがお互いの手を叩く音が今は心地良い。なんか少しだけ昔に戻った気がして懐かしい感じがした。
「どったの鉱?」
「いや、ちょっと懐かしいなって思っただけ」
「ははっそうだね!昔はよく何かが成功するたびにハイタッチしてたもんねー…。なんか私も懐かしくなっちゃった」
彩華の視線はどこか遠くを見ていて、過去の出来事を思い出して懐かしんでいるようだった。
「そうだなーあの頃は何か小さなことでもハイタッチして喜びあってたもんなあ」
そして俺も少しだけ過去に懐かしさを感じ、もうあれから大分経ったなあ……と思いつつも今の話をすることにする。
「さて、後は顔合わせの日付だけど…予定通り土曜日で大丈夫そう?」
「うん。茜も大丈夫だって!」
「おけおけ。じゃあひとまずは第一関門突破だな」
「そうだね!そういえば鉱は大野君にどう話を通してるの?」
彩華は話がまとまったことに安堵した後、小首をかしげて問いかけてきた。
「ああ、前に幼馴染の話をしたことがあってな。その子だって伝えてある」
「え、ちょっと!大野君にどういう話をしたわけ!?内容によってはいくら鉱でも許さないよ!?」
彩華は俺の両肩を激しく揺すり問い詰めてきた。俺は目を開けると視界がブレブレになって気持ち悪くなると感じたので目を閉じて答える。
「大丈夫、大丈夫だって!昔よく遊んでた仲だってぐらいしかいってないから!」
「ほんと!?ほんとよね!?」
揺さぶりが止まったため目を開けると、目の前に彩華の顔があり目が合う。彩華の目は真剣で俺の心の底まで問い詰めているような気がした。そんな彩華の目力に負けて目を横に逸らす。ていうか、俺が前に顔を出すだけで額と額がぶつかりそうなぐらい近くてちょっと恥ずかしいのもある。
「ほんとだから少し落ち着いてくれ…」
「そ、そう…それならよかった」
彩華は安堵すると俺から距離を取ってくれた。それを感じて視線を元に戻す。
「まあだいぶ前の話だから、そもそも博が覚えてるかも怪しいけどな」
「ふーん。ま、今日のところは鉱のこと信じてあげる。けど、大野君に変なこと言ったら許さないから」
「お、おう…わかったからその怖いのやめろ…」
「わかってくれればいいのよ」
彩華は喜怒哀楽がはっきりしてるんだけど、ガチで怒った時は殺されるんじゃないかと思うぐらいに怖いからなあ…。さっきのは過去の経験からそうなるぞっていう雰囲気を感じた。
「さて、後は土曜日どうするかだけど」
「どうするって?」
「そりゃ、はい集めました喋りましょ。だと話題に困って沈黙の時間になる可能性があるでしょ?」
「まあ一理あるが、学校の話とかすればいいんじゃないか?」
「じゃあまあ仮にその話をすればいいとして、鉱あなたはいきなり茜に話かけること出来るの?」
「う…」
俺はそこで実際ファミレスに入って席に着いた後、柏木さんに話しかけようとする場面を想像する。……いやこれ恥ずかしくて難しい気がする。
「顔赤くなってきてるわよ」
「ひぃ!?」
妄想の世界から急に現実の世界に引き戻されて変な声が出てしまった。
「ね、無理でしょ?」
「そ、そう…だね。難しそうだ」
「ちなみに私も無理だと思ったの。で、今のうちに作戦か何か立てておこうってわけよ!」
「なるほど!で、案は何かあるの…?」
「それを今から考えるんでしょうが…」
彩華は呆れた声で顔を手で覆う。な、なんか察することが出来ずにごめんと思うが言葉には出さなかった。
数秒経って顔を上げた彩華が俺の方を見る。
「さて、作戦考えていきましょうか。ひとまず相手を知ることが重要だと思うんだけど、大野君って野球はどれくらい前からやってるの?」
「えーっと…小三とか言ってたかなあ。そういえば彩華ソフトボールやってたんだし博とキャッチボールとかすればいいんじゃない?」
「……それだ!って言っても最初からは無理だから仲良くなったらかな。でもその案あり。めっちゃあり」
「おっけー。まあ、いずれで。それで思ったんだけど柏木さんって何かスポーツとかはするの?」
「まっっっったく。むしろ苦手なぐらい」
「ま、まじかあぁ………」
もし柏木さんがあの雰囲気とは裏腹にスポーツめっちゃ出来て、運動神経よかったら俺もキャッチボールとかしてみたかったとか思ったけど、これじゃあ難しそうだなあ…。
「あ、でも茜って結構挑戦心が強い子だし、興味関心が強いから誘えばスポーツ一緒にやること出来ると思うよ?得意不得意はまた別としてね」
「え、それってもしかして…」
「ご想像通りだと思うけど、茜めっちゃ運動苦手」
「それ絶対無理な奴じゃん…」
俺は彩華の言葉を聞いて少しばかりあると思っていた可能性がほぼゼロになったことを悟る。
「いやほら誘ってみないとわかんないし!」
「そ、そうだなあ…少しの可能性にかけるかあ…」
「まあそれは後々の話だから一旦おいといて。ひとまずどうしよっか」
「とりあえずお互い普通に話せばいいんじゃない?普通に会話していけばおのずと喋れる機会もあるでしょ。お互いしっかりフォローしあえば」
「それもそうだけど…。なんか行き当たりばったりにいって何も話せないまま終わりそうで嫌なの…」
そういう彩華は消え入りそうな声でもう一度『嫌だ…』と呟くとそのまま俯いてしまった。きっと彩華の中で当日のことを何度もシミュレーションして、自己分析等を行ったのだろう。それだけ不安だということが彩華の態度からわかった。
「よしわかった。なら一個だけ課題を出すからこなしてきてくれ」
「課題…?」
「そう、課題。博は必ずといっていいほど練習が終わった後当日の野球中継のハイライトを見ている。それも決まった番組のやつを見てるはず。だからその番組の野球中継を見てくれば必ず話に参加することが出来るってわけ」
「な、なるほどね!ちなみに番組名は?」
「耳かして」
彩華は何も言わずに俺の方に耳を貸してきてくれたので、番組名を伝える。
「結構遅い時間のだね…。わかった!今週頑張ってみてくる」
「うん。頑張ってな」
そこで下校を促すチャイムが学校中に響き渡る。基本的に、野球部等の校則によって決められた運動部や生徒会の人達以外は下校をしないと罰則を受けることとなる。
「あら、もうこんな時間なのね。帰りましょうか」
「そうだな。帰るか」
日は落ちかけていて辺りは暗くなってきていることに気が付いてはいたのだが、チャイムのことは全く気にせず話し込んでしまっていた。
俺達二人は近くにあったそれぞれのカバンを肩に下げ、下駄箱の方へと向かう。
「そういえば、連絡先交換してなかったわね」
「あーそういえば。あの頃はお互い携帯持ってなかったし、この間は普通に忘れてたわ」
「じゃ、後でやりましょうか。先生に見つかると面倒だし」
「そうだな。ひとまずちゃちゃっと帰りますか」
俺たちは自転車置き場までは普通に日ごろの雑談等をし、自転車に乗った後はひとまず別れる手前辺りにある公園で連絡先の交換だけ済ませるために寄ることにした。
公園に着くと人は全くおらず適当にベンチ前に自転車を止め、ちゃちゃっと連絡先の交換を終わらせる。
「よし、これでオッケーっと。一旦メッセ送るね?」
「おけー」
少しして、彩華から吹き出しによろしくと書かれたかわいい熊のイラストのスタンプが送られてくる。俺はそれと似ている猫のスタンプを押し返した。
「ひとまずこれで連絡先の交換は完了ね。またなんかあったら連絡するから」
「あいよ。こっちもなんかあったら連絡するわ」
彩華はこの後どうやら家の用事があるらしく、すでに自転車にまたがって俺に背を向けている。
「じゃ、また明日ね」
「おうまた明日」
彩華は少しだけこちらを振り返って右手をひらひらと振ってから、自転車を漕いで公園から出ていった。
「さて、俺も帰るか」
彩華が公園を出てから見えなくなるまで見送った後、自転車にまたがってゆっくりと漕ぎ出し、寄り道もせず帰宅した。
そして僕は君と共に ぽいふる @poihuru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。そして僕は君と共にの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます